天の死闘 地の苦闘 4(VS竜王軍)
黒抗兵団メンバーの一人――――右頬に大きな傷のある重装砲兵のホラントは、気が付くと奇妙に星が瞬く漆黒の空間に立っていた。
「なんだここは……? 俺は、とんでもない竜と戦っていたはず」
いったい何事かと考えようとしたとき、目の前に黒い靄がいくつも現れ、それらはすぐに人の形…………それもこの場に居るはずのない人々の姿となった。
『ホラント……』
「兄上……兄上なのか!? それに、兄上の仲間たちも!?」
ホラントという男は、元居た世界では貴族の生まれであり、自分の領地を開拓するために魔獣と戦う兄とその仲間たちに憧れて、かなり若いころから戦ってきた。
しかし、ある日彼は些細なミスを犯してしまい、その結果として兄をはじめとする仲間たちが窮地に陥ってしまう。その際、ホラントは兄から「一番年下だから」という理由で優先的に脱出させられ、彼自身は運よく生き残ったが仲間たちは――――
『まだこんなところをうろうろしていたのか、ホラント』
『お前には失望した。あの時助けたのは無駄だったということか』
『ホラント君も早くこっちに来なよ。そんなところで一人で生きていても無駄でしょう』
「これは…………そうか、あの時倒されたはずのポラリスの幻覚か! くそっ、その手に乗るか!!」
彼をはじめとする黒抗兵団のメンバーは、一度ポラリスの「神話劇場」の幻にとらわれ、永久に夢を見る存在になっていたところを、アルムエイドとヴェリテに助けられている。
ポラリス自身は取り込んだ人間たちのことなど全く覚えていないので知る由もないが、幻覚をかける対象としてはかなり悪手だったと言える。
が、それを加味したとしても、以前のような生ぬるい幻覚とは違い、精神を徹底的に破壊する「苛夢光」はたとえ対処法がわかったとしても打ち破るのは非常に困難だった。
ホラントは右手に持った鋼鉄製のバズーカ砲から砲撃を放ち、かつての仲間たちの幻影を爆破しようとした。
しかし、彼がいくら砲撃しても幻影は消えない。
それどころか、さらに見知った人々が増えてゆく。
『見下げた面だな、ホラントよ。死してなお兄を……家族を殺すのか』
「ち、父上っ……」
『あなたのせいで、我が家の家名はついえた。あなたのせいで、大勢の人が希望を失った。この罪深さが、あなたにわかるというの』
「母上まで……」
『あの時お前のせいで、俺や仲間たちは死んだ。なのに、お前だけ生きているのは…………不公平だと思わないのか』
『そうだ、あの時お前が死ぬべきだった』
『兄の代わりに、お前が死ぬべきだったのだ』
お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ お前のせいだ
『死ぬまで俺たちに詫び続けろ ホラント!!』
「ぐ…………このっ」
ホラントとてわかっている。
現実に仲間や家族たちが、こんなことを言うはずがないということを。
けれども、彼自身はずっと心の中で後悔してきた。
あのときなぜ、優秀な兄たちの代わりに不肖の自分が犠牲になれなかったのか。
家族も慰めてくれてはいたが、それが逆につらくなり、家族に黙って家を出て、死に場所を求め戦っていたことも…………すべては自業自得だと思ってしまう。
(すまない、みんな。俺はもう……)
彼の心が折れる、その直前だった。
「こらーーー!! あなたたち!! 大切な仲間をいじめるな!!」
『!?』
美しい声が響いたかと思えば、暗かった周りの景色が一気に明るくなり、目の前に迫ってきていた人影たちが思わず後ずさる。
「その声は、マヤか!!」
「ふんだ、あんんたそんな強面なのにいじめられてたの? んなわけないでしょ?」
「強面は余計だっての。しかもこいつらはオレの家族だし」
「私にとっちゃ知ったことないわね! 私たちは黒抗兵団! 絶望の黒に抗うものたち! ならばこそ、こんなところで心折れるわけにはいかないのよ!! さあ、退きなさい悪しき幻影! この『
政変の末に辛くも故郷を追われた元姫君のマヤは、自虐気味に「強盗姫」と名乗っているがその生まれつきのカリスマは、玄公斎に勝るとも劣らないものがあった。
良くも悪くも図々しい、マヤのカリスマが乗った叫びは、瞬く間に仲間たちに伝わり…………別々の幻覚に閉じ込められていた意識が、一つに集中したのだった。
×××
「おー……危ないところだったなぁ」
「マヤがいてくれたおかげで間一髪助かったわ」
「シロ元帥がいてくれりゃ、こんなことにはならなかったんだが……まだまだ俺たちも未熟だったようだ」
約200人の意識が一か所にまとまり、お互いの姿が見えるようになると、先ほどまでの不安が嘘のように吹き飛ぶのだから不思議なものだ。
しかし、事態はまだ解決していない。
彼らの周りは相変わらず作り物めいた星空が広がる闇の中にあり、自分たちがまだ現実で目を覚ましていないことがわかる。
「しかし、これからどうする? どうやって目覚める?」
「方法は二つある。巻き込まれた全員が覚醒するか、または元凶のポラリスをもう一度倒すか……」
「ちくしょう、また誰かに助けてもらわなきゃいけないなんて御免だ。でも、全員で目覚めるということは、だれかまだ幻覚にとらわれているのか?」
「…………そういえば、あかぎちゃんと智香隊長は?」
『あっ』
前にも述べたが、黒抗兵団のメンバーたちの大半はポラリスの「神話劇場」の被害者だったので、ある程度耐性が付いていたのか、こうして意識を集中させることができた。
が、そのような経験がないあかぎと智香は――――
「みんな、隊長を見つけた。こっちだ」
「あかぎちゃんもいたけど、事態はかなり深刻そうだわ」
智香の副隊長を務めているスナイパーの男サガスと、あかぎと特に仲がいいマヤは、想いの気配をたどってようやく二人の意識を発見した。
だが、二人の様子は対照的だった。
「う………ううぅ、私は……っ」
「――――――」
智香は何やらとても苦しんでいるように見えた。
マヤの声どころか、だれの声も届かない、完全に孤立無援の状態にあるようだ。
その一方で、あかぎは静かに眠っているが、その体は高温の炎に包まれており、近づくことができない。
『ドコヘ……ユコウト、イウノダ。オマエタチハ……ゼツボウカラハ、ノガレラレナイ』
「この声は、ポラリスか! 随分と壊れているようだが」
『サア、エイエンノヤミニ、ノマレヨ。マブシキヤミニ、シズメ』
どこからともなく、抑揚が不気味に乱れたポラリスの声が聞こえる。
それと同時に、一度は静まり返った闇の空間が再び沸き立ち……彼らを黒い靄が囲むと、それらが次々に人の形へと変わっていった。
『許さない…………たとえ千年たっても、お前らを恨み続けるぞ』
『イタイヨォ……イタイヨォ……』
『全部、お前のせいだ。お前のせいなんだ』
「わお、てんこ盛り~。随分と集めたものだねぇ」
「言ってる場合か。これは、全員のトラウマを集め、数で押しつぶしに来たか」
「くそう、何とかして2人を目覚めさせないと」
「この際誰でもいい。智香隊長とあかぎの意識の中に飛び込める奴は、助けに行くわよ。残りはここで、あの作り物の亡者たちを足止めするのよ!」
「どうやって?」
「ノリと勢いで何とかしろ!」
こうして、黒抗兵団たちは、黒い幻術の世界から脱出すべく、奮闘し始めるのだった。
【今回の対戦相手 その3】【苛夢光】 ポラリス
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885714804/episodes/16817330648091478843
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