異世界最終決戦 14(VS悪竜王ハイネ)

 悪竜王ハイネの必死の抵抗もむなしく、巨大な黒色の巨大竜は周囲から伸びる金属ロープに体のあちらこちらを絡めとられ、無理やり霞ヶ浦の湖面に引きずりおろされた。

 見下していたはずの人間たちに無理やり地べたに這いつくばらせられる屈辱は、プライドが高い悪竜王にとって非常に耐えがたかった。


『ぐおぉぉっ! このような無礼な真似をしおって……許せぬぞ、人間ども! 楽に死ねると思うな……!』


 ハイネは自らの大いなる怒りで膨大な悪意を生み出し、その力で周囲の金属ロープを引きちぎろうと暴れ続けた。

 暴れ狂う巨大な悪竜王の背は、大地震のように大きくうねり、立っているだけでも精いっぱいの上、鱗の隙間から黒い煙のようなものが噴出し、背中を土足で踏む智白たちを苦しめた。


「うおおおぉぉぉぉぉっ!!?? ゆ、揺れるっ!!」

「大丈夫、アンチマギアちゃん!?」

「お、おうよっ! あの大震洋の大嵐の時に比べれば、屁でもねぇ!」

「足場が悪いのはまだいいけど…………この有毒の煙を何とかしないと、この後の作戦に支障をきたすね! よぉし、あかぎ、ハイネの口を無理やりこじ開けて! そのあとは第1天兵団と黒抗兵団のみんなで、ハイネの体内に突入して、体内からダメージを与えるんだ。そしてタマ姉さんは……最後にをよろしく! 僕とシャインフリート、そしてリヒテナウアーで悪竜王の眷属たちを抑える」

「「「了解!!」」」


 悪竜王の身体が湖面に墜落したことを確認した智白だったが、まだこれでは足りないと考え、あらかじめ伝えてある通りに次の作戦へと打って出た。



『ほう……この悪竜王の正面にあえて立とうとは、余程死にたいらしいのう』

「それはどうかしら? あたしだって、火竜の火種があるんだから、正面から叩きのめしてやるっ!」

『ならば望み通り…………消えてなくなるがよい』


 あえて挑発するようにハイネの顔の正面に立ったあかぎ。

 それに対してハイネは遠慮なく全力でブレスを放つ。


「Hey! 嬢ちゃん、危ない下がってな!」

「大丈夫、あたしだって!」


 小さな少女が竜の目の前に立ったのを見て、ウッドロウ大統領がすぐさま飛んできて盾になろうとした。

 だが、ハイネのブレスが放たれると同時に、あかぎが自らの刀を振るうと、巨大な火竜の形をした爆裂の炎が放たれ、お互いに空中で衝突。

 およそ1分ほどブレスと爆炎がつばぜり合っていたが、驚くことにあかぎの炎がハイネのブレスを押し切り、ハイネの口内を焼き尽くしてしまった。


『ぐぐうぅぅぅぅっ……お、おのれっ!?』

「よっしゃ、今だ! はらわたを滅茶苦茶にぶっ壊してやるぜ!」

「「「いよっしゃああぁぁぁぁ!!!!」」」


 反動で口が開きっぱなしになったところで、鐵之助率いる天兵団たちが満を持して機械化された体のブースターを吹かし、体内に飛び込んでいく。


「YHEAA!! こいつは最高だ! だが、一番乗りは大統領のものだ!」

「あぁん? 俺たちと競争する気か? 受けて立つぜ!」


「あっ、日本とアメリカの連中、またいいとこ持っていこうとしてやがる」

「遅れるな、続け!」


 そして、こうなるとさすがは各国の超人軍団は、いちいち命令されなくても天兵団たちが何を使用かすぐに察し、彼らの後を追いかけた。


「ふふふ、みんな本当に元気で助かるわ。けど、仕上げはお姉さんなのよ」


 重苦しい瘴気が漂う体内に果敢に突入して内臓に直接攻撃を行う超人軍団の後を飛んでいく環。

 全員が喉の奥まで行ったことを確認すると、彼女はインベントリからとっておきの物を取り出した。


「ねぇ悪竜王さん。あなたから預かりものをしたこと覚えているかしら?」

『……っ! ……っっ!!』

「お腹の中の痛みで声にならないようね。その痛み、可哀そうだから別ので上書きしてあげるわね♪」


 そう言って彼女が手に取ったのは、古ぼけた魔法のランプのようなもの――――

 そう……それは、ホテル阿房宮を買い取る前、一番初めに行った仕事で手に入れたアイテム「トルトル魔人」だ。


 ありとあらゆる悪臭を吸い込み続けた上に、ハイネと初めて対面した際、悪竜王の血を吸わせたせいで、内部で異常な化学変化を起こし始めたこのアイテムは、今やどの世界でも類を見ない極悪な化学兵器と化していた。

 環はそれを、ハイネの鼻腔に投げ込み、風で無理やり鼻腔の奥へと叩き込んだ。

 その結果がどうなるかは想像するまでもないだろう。


『ぐっ……ゲホッゴホッ、貴様ら……何をしてくれた』

「僕たちはただ、借りたものを返しただけさ。人間以上の嗅覚を持つ君たち竜にとって、この悪臭爆弾はよく効くだろう?」

『ヨネヅさん! ハイネの力が弱まってきているよ! この人間さんたちにも力がいきわたっていないみたい!』

「よし、こっちも遠慮なく畳みかける! いくぞ、冷泉准将」

「承知しました」


 体内からの猛攻撃で急速に弱まりつつあるハイネ。

 背中での戦いでも、智白と雪都が悪竜王の眷属と化した人間たちを次々になぎ倒し、シャインフリートが湧き出る瘴気を浄化していく。


「よし……! そろそろ頃合いだね! 長曾根大尉、解体作業を開始させてくれ」

『承知しました元帥閣下』


 智白は通信機で要を呼び出すと、彼女はあらかじめ霞ヶ浦周辺に配備されていた部隊たちに命令を下した。


「元帥からの命令が下りました、解体作業を開始してください」

『了解』


 命令が下るや否や、まず各部隊の工兵たちがあちらこちらに仮設の浮き橋を浮かべ、ハイネの身体への進路を作ると、待機していた陣地から一斉にユンボやクレーン車、掘削機が先を争うように発進し、その後ろからつるはしやシャベル、ドリルなどの工事用具を持った人間たちが続いた。


『待て………何をする気だ、下賤な人間ども……』

「何って? 決まっているじゃないか。君は人間の世界を食い物にしようとしたんだから、その報いを受けてもらう。悪竜王ハイネ、君の身体は僕たち人間が片っ端から丸ごと解体してやる!! 人間の本当の悪意、醜さ、強欲さを教えてやろう!」

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