異世界最終決戦 13(VS悪竜王ハイネ)

 リヒテナウアーによる強烈な一撃のせいで体のコントロールが一時的に利かなくなっていたハイネは、「精神体」を表に出すことで、本体がダメージを受けても戦いに影響が出ないようにした。

 これは、暗黒竜王エッツェルが生み出した戦闘方法で、身体の操作は大雑把になってしまうが、自らの死角となる巨大な背中に人間が足を踏み入れた際、人家状態の時と同じような小回りと、巨大な竜の力を同時に利用できるというメリットがあった。


 しかし、この精神体を使った戦いには本来であればもう一つ必要なものがある。

 それは「竜術士」と言う人間のパートナー

 結局のところ竜がいくら「人化」しようとも、その扱い方は人間の方が多少なりとも優れている。そのため、人間のパートナーに自らの力の一部を預けることで、より柔軟かつ合理的な戦闘が可能となるのだ。

 人間を竜の奴隷としか思っていなかった竜王エッツェルが、パートナーである人間だけは対等に扱っていたのはそのためだと言われている。


 さて、ハイネはエッツェルと同じように自らの身体を巨大化させたのだが、能力が劇的に増加する代償として、人間の動きが良くも悪くも羽虫程度にしか認識することができず、攻撃がどうしても雑になってしまう。

 それを補うのが竜術士の存在だが、ハイネはあくまでこの術をエッツェルからまねただけで、その本質を完全に理解しているわけではなかった…………




『なんじゃ、これは……! 金属の糸じゃと? そのようなものなど…………』


 上空に浮かぶハイネの身体に、四方八方から無数の金属ロープが絡まった。

 その本数は数千本……いや、下手をすれば万を超えるだろうか。

 全長全幅ともに数千メートルを超える悪竜王の巨体は、日本有数の巨大な湖の上でしっかりと固定された。



『こちら第10師団、係留弾前段の着弾を確認した』

『よーし、ロープの巻き上げ開始!』

『あの巨体を霞ヶ浦に叩きつけてやれ!』


 ハイネは智白たち相手に意識を集中しすぎて、地上に何がいるのか、そして自分が今どこにいるのか知らなかった。

 智白はまず部下の要に命じて日本中から駆けつけて来る部隊に一斉に連絡。ハイネの巨体を霞ヶ浦へと誘導し、そこで拘束するよう指示した。

 ハイネの身体の誘導自体は、天兵団による空からの攻撃や、あかぎの強烈な一撃で徐々に指定する地点に押し込んでいくことで、ギリギリ何とかなった。

 想定より高度は下がらなかったが、日本軍が大量に保有している金属ロープ射出砲もハイネの体まで届き、あらゆるところに巻き付いたのだった。



『これは……くっ、身動きがとれぬ』


「当然だ。巨大な魔の物と戦うことは日常茶飯事だった時代から改良に改良を重ねて作った合金製ロープ…………一本でも巻き付けば飛行機さえ止めることができるんだ」


 ハイネの巨体が身をよじらせるが、巻き付いた金属ロープをちぎることはできなかった。

 智白が言うように、このロープは巨大な敵と戦うことが多かった退魔士たちの必須装備の一つであり、想像以上に大きいハイネの巨体さえも楽に拘束することができる。


 ハイネの身体が止まったことを確認した地上部隊は、ロープの巻取りを始めた。

 空中に固定されたハイネの身体が、徐々に徐々に湖面へと引きずりおろされようとする…………しかし、ハイネもまた湖に叩きつけられてたまるかと頑強に抵抗し、必死に高度を上げようとする。


『小癪な人間ども…………糸が切れぬというなら、根元から潰してくれるわ!』


 ハイネのブレスが地上めがけて放たれる。


『来たぞ! 結界を最大出力!』

『うわああぁぁぁ!!??』

『な、なんという威力だ!?』


 地上部隊もこうなることをあらかじめ予期していたため、結界発生装置と合わせて退魔士たちが全力で分厚い結界を張った。

 被害はだいぶ軽減されたものの、ブレスの中心地にいた部隊は結界を破壊され、死傷者が出てしまう。

 それだけでなく、ハイネが悪意の出力をさらに上げ、見えない爪や見えないギロチンなどを以上に叩きつけると、いくつかの結界が破られ、ハイネを固定している金属ロープの射出装置にも被害が出始めたのだった。


『その程度か人間ども。このまま一人残らず消し飛ばしてくれる!』


 ハイネが再度ブレスを地上に向けて放つ。

 ―――――が、今度は地上に届くことなく、空中で霧散した。


 そして、ハイネの目の前には、体中に白銀に輝く機械スーツを身にまとった男が巨大な盾を構えて浮かんでいた。


『何者じゃ、貴様。悪竜王ハイネの目の前に立つとは』

「あててみな、ハワイへご招待するぜ」


「その声は……ウッドロウ大統領じゃないか!」


 智白は知っていた。悪竜王の目の前であろうとも、恐れずに仁王立ちする常識外れの豪傑を。

 第47代アメリカ合衆国大統領――――マイケル・ウッドロウだ。

 総理大臣があくまで一般市民である日本とは違い、アメリカの大統領は合衆国国民から最も強いと認められたヒーローなのである。


 そして、合衆国大統領が来たということはすなわち、大使館を通してアメリカに救援要請がとどき、それに応じて援軍にやってきたというわけだ。

 太平洋の空から続々とやってくる超音速輸送機から、世界最強のアメリカヒーロー軍団がマントをなびかせて飛んでくる光景は、映画ですらなかなかお目にかかれないだろう。

 しかも、増援はそれだけではなかった。



『ヨネヅ、聞こえるか。我が国を力になってやる、感謝しろ』

『へっ、ドラゴンか……酒のつまみにはちょうどいいなおい』

『ずいぶん禍々しいドラゴンがいるものだなぁ。さてはドラゴンとしての誉れを失っているな、教育してやらねば』

『やーやー、危うく遅れるところだったわー! ま、分け前貰えるならそれでいいけど』


 壊滅した政府の代わりに、地上で指揮を執っていた鹿島中将が各国の超人軍団に救援要請を行った結果、ドイツの武装吸血鬼化部隊、ロシアの魔女軍団、イギリスのスーパーエージェント、そして中国の神仙などなど……世界各地の超人部隊が続々と駆け付けてきたのであった。



『呆れたわい、よくもまあこれだけ烏合の衆が集まったものじゃな。じゃが、いくら数を集めようとも、すべて消し飛ばしてやろう』


 ハイネは強気にそう口にするが、さすがに空を埋め尽くす超人軍団を相手にするとなると、圧倒的に劣勢なのは火を見るより明らかであった。


 まさしく地球総決戦と化した戦場。

 休む間もなく叩きつけられる無茶苦茶な攻撃に対し、ハイネも生まれて初めて死ぬ物狂いで抵抗した。

 それでも、ハイネを縛り付ける金属ロープは徐々に徐々にハイネの巨体を湖面に引きずりおろしていき、30分ほどかけて霞ヶ浦の湖面に着水させたのだった。

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