フロンティアの嵐作戦 16
「やあ、アンチマギアさん……だったかな。初めまして、僕はシンイチロウ・ミブという者だ、黒抗兵団中央軍の参謀を務めている」
「ほほぉん……イイ男じゃぁないか。こんな時でなければお持ち帰りしたいくらいだ」
ジョーカーに船内に連れてこられたアンチマギアは、操縦席に固定された状態のシンイチロウと顔を合わせていた。
「先に謝っておく……申し訳ない。僕はこれから君をとても危険な目に合わせなければならない」
「……皆まで言わなくても分かってる。「射出機」で私をあの怪物の中心部に打ち込もうという算段じゃないのか?」
「!! 驚いた、重傷なのにもうそのような覚悟が……」
「当たり前だ。この船の名前を言ってみろ。
「本当にこの船の名前何とかならなかったのか」
そんなツッコミをするが、持ち主本人がこれをかっこいいと思っているのだから仕方ない。
それに、アンチマギア自身が自分がこの船に連れてこられた理由をはじめからわかっていたし、わかっていてなお積極的に自ら砲弾になろうとする姿勢に、シンイチロウは驚かされることになる。
(なんという泰然とした精神だ。見た目やネーミングセンスはあれだが、荒波が打ち付けてもびくともしない巨岩のようだ)
つい先日、精神世界での修行により、以前のような軽薄さは嘘のように消え失せ、歴戦の戦士も驚くほどの威厳を持つに至ったアンチマギアは、すでに時間が惜しいと考えたのか、自ら人間砲弾の射出機構へと向かおうとした。
だが、そんな彼女に声をかけてくる存在がいた。
「あいやまたれい! お前ばかりにいい格好させるかよ! オレ様も同行させてもらうぜ」
「あん? お前は……」
声をかけてきたのは、妙な仮面をかぶった少女だった。
しかし、アンチマギアはかつて時空竜戦でこの少女と面識があった、はずなのだが…………
(おかしいな、初め見たときは異様に禍々しいモンを抱えていたはずなんだが、どこへやった? さてはこいつも遥加と同じ……いや、深くは考えないでおくか)
彼女の中にあったはずの何かが失われていることに気が付いたが、それでも力を貸してくれるというなら心強い。
「いいかい、君はなんとしてもアンチマギアさんを守り抜くんだ。一秒でも長く」
「あいよ。けどよ、別にアレを倒しちまってもいいんだろ?」
「それができれば苦労はしないんだよ……けどまあ、やれるならやってみなよ」
「りょ!」
ほとんど死にに行くようなものなのに、仮面の少女は口元をにやりと歪ませた。
それを見たアンチマギアは思わず背筋にぞくっとする感覚を覚えた。
そんなこんなで、奇妙な組み合わせの二人が、一人入るのがやっとな降下ポットに無理やり二人で詰め込まれ、射出機構から猛烈な勢いで射出されたのだった。
「発射確認! 目標、巨大生物アースエンド中心部!」
超音速で撃ち込まれた降下ポットは、見事にアースエンドの身体の中心部に着弾。ポット自体は拉げたが、驚くことに中の二人はほぼ無傷だった。
「ははは……いつもながらすげぇスリルだ……! そして、いよいよここからアンチマギア様の伝説の始まり! さあ、バケモノめ、私とタイマンだあぁぁぁっ!!」
アンチマギアがそう叫ぶと、彼女に巻き付いていた包帯が四方八方に伸びていき、アースエンドの体表の中央部をぐるぐる巻きにしてしまった。
「アンチマギアの着弾を確認! フィールド展開を確認!」
「行けるか? 試しに攻撃してみろ!」
「痛みが返ってこない! 作戦は成功だ!」
アンチマギアの能力が発動したことにより、アースエンドは「痛覚反射」と「自己再生」という二つの機能を失った。
これにより、いくら攻撃しても無駄になるどころか停滞反撃が返ってくることはなくなった。
だが、うまく機能するのはアンチマギアがアースエンドに接している時だけだ。
彼女が体表からはがされるか、命を失ってしまえば、黒抗兵団たちに勝ち目はなくなってしまう。
現に、アースエンドも自分の力を封じてきた存在を無視できず、非常に発達した巨大な手のような部位を無数に作成し、身体にへばりついているアンチマギアを叩き潰さんと襲い掛かる。
「はっはぁっ! 来やがったな! まずはご挨拶だ!」
仮面の少女が軽く口笛を吹くと、あっという間にその場から跳躍し、襲い来る無数の巨大な腕を瞬く間に爆散させていった。
まるでぬいぐるみが綿を散らすように破裂していったが、中には根元からの切断だけにとどまった腕もあった――――そのように完全に破壊できなかった腕は、なんと驚くことに猛烈な勢いで再生と成長を行い、体長2メートル以上の「プチアースエンド」とでも言うべき生命体になってしまう。
どうやら分離した個体はアンチマギアの影響を受けないらしく、攻撃しても再生する上に、ある程度痛みが返ってくることも分かった。
「いってぇ!? なんだこいつ、俺様が殴った痛みがそのまま返して来やがった!」
「なんじゃそりゃ、まるでプラナリアみてーだなオイ! メスガキ、切れ端をなるべく作るな、もし作ったら私の包帯が当たるまで手を出すなよ!」
「誰がメスガキだこんにゃろう!」
口が悪い二人だったが、なんだかんだでうまく連携で来ているようだった。
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