フロンティアの嵐作戦 17

「皆の者、反撃の時は来た! 持てるすべての火力を叩き込んでやるのじゃ!」


 玄公斎の一声とともに、今までなかなか手が出せなかった黒抗兵団たちは、今までの鬱憤を晴らさんとばかりに、容赦なく攻撃を叩き込み始めた。


「うおぉぉぉっ! よくもてこずらせてくれたわねっ!!」


 下手に攻撃すると自分もダメージを受けてしまうことで防戦一方だったミノアの竜人部隊が、ここぞとばかりに一斉に突撃を敢行する。

彼らの天性の身体能力から繰り出される大暴れは、人間たちが機関銃で敵を薙ぎ払うのと遜色のない攻撃力を発揮し、まるで暴風のようにアースエンドの体表を破壊していく。

 ただ、下手に大きな塊で切り離してしまうと、そこから物凄い勢いで再生してしまい、あっという間に別個体へと成長してしまう。

 そんな切れ端を片付けるためのバックアップも欠かしてはいけない。


『みんな、再生する切れ端は僕に任せて!!』

「シャイン! 左の方にも切れ端が!」

『オーケー!』


 上空に浮かぶシャインフリートが、逐一発生しては再生しようとする切れ端を、精密な光のビームで次々に撃ち抜いていく。

 今は一人でも攻撃に参加する人員が欲しいところだが、目の前の敵ばかり固執して仲間を失ってしまえば本末転倒だ。


「へぇ~、竜人てのはすごいねぇ! 味方でよかったよ」

「これは私たちも負けらんないな! MPや銃弾を惜しむな、叩きつけるよ!」

「再生する破片は俺に任せろ」


 ミノアたちの働きに奮起したのか、黒抗兵団たちも自らの武器を強く握り、各々が得意とする攻撃をアースエンドに浴びせ始めた。

 かの光竜ポラリスの幻の中に閉じ込められていたころからの古参をはじめ、募集に応じた血気盛んな冒険者たちや、旅の途中で無理やり組み込んだ元転生統率祝福協会の若者たちなど、総勢4000名以上の人間は、短い間ながらも多数の修羅場を潜り抜けたことで、今や歴戦の兵士となっていたのだった。


 そして何より、西側方面の最大火力要因となっているのは、あかぎと先ほど舎弟になったばかりの火竜レダだった。


『遠慮なく焼き尽くしましょう、師匠』

「うん、この大きさならあたしの最大火力を叩きつけるのにふさわしいね!」


 顔に大きな「×」の傷跡を持つ赤い竜の上に立つあかぎ。

 まずはレダが口の中で数秒ほどチャージした後、ビバ(略)号もびっくりの超高火力の爆縮ビームを発射。

 視認しただけでも目が潰れかねない超高温の熱の塊は、アースエンドの身体を貫通寸前まで穴をあけた。

 貫通しなかったアースエンドの耐久力も驚きだが、こんなのを食らえば竜ですら半身ごと蒸発してしまうだろう。


 これほどまでの火力を実現できたのは、あかぎの中にある「原初の火種」の力の一部をレダに与えているからだ。

 まだ1%も出力を出していないにもかかわらず、ここまでパワーアップするのだから、火竜が喉から手が出るほど欲しがるのも頷ける話である。


 だが、まだまだ攻撃は終わらない。

 レダの頭から跳躍したあかぎは、背中から炎の形をした翼を発生させ、ジェット戦闘機のような速度でアースエンドに突っ込んでいくと――――


「そぉいっ!!」


 レダがぶち抜いた穴の中で、最大出力の炎攻撃をぶちかました。

 すさまじい爆音とともに衝撃波が広がり、大地まで揺れる。

 あかぎが放った攻撃の爆音は、遠く首都セントラルまで響いたという。


 これほどまでの爆音と衝撃は味方も被害を受けそうだが、彼らは結界に守られているため被害は受けていなかった。

 それどころか、東側に集まっている退魔士たちの集団の方が、もっとうるさかった。


「撃て撃て撃てぇっっ!! 砲身が焼け落ちるまでぶっぱなせ!!」

「召喚獣を片っ端からぶつけろ! 出血大サービスだ!」

「何をしても壊れないサンドバックとか、めったにないわよ!」


 運んできた新型術式大砲やロケットランチャー、重機関銃などをここぞとばかりにぶっぱなし、術者は持っている召喚獣を全て解き放った後、自分も最大の術式火力を放っていく。

 その様子はもはや花火大会のようであり、念のため通信だけ聞こえる耳当てをしてもなお、攻撃の爆音で上官の声が聞き取りにくくなるほどだった。


 そして…………


「生きておったかバカ者ども。退くときは退けとあれほど言うたではないか!」

「んだよ爺さん、こっち来たのかよ! あいにく俺たちの辞書に「後退」の2文字はねえんだ!」


 玄公斎と環が真っ先に向かったのが、取り込まれる寸前になっている第1天兵団たちの救出であった。

 彼らは必死になって抵抗していたが、すでに動ける隊員は200名を下回ってしまっている。もう少し駆けつけるのが遅ければ、文字通り全滅していただろう。


「おぬし……足が」

「ああ、これか。俺としたことがヘマしちまってな、傷口から浸食されちまって体の内側から喰われる寸前だったから左足ごと吹っ飛ばした」


 鐵之助の左足を見た玄公斎は思わず絶句した。

 なぜなら、彼の左足は付け根から下が見るも無残に破裂しているからだ。

 遠くから定期的に回復術が降ってきていたから耐えられたようだが、その痛みは想像を絶するものだっただろう。

 それ以外の隊員たちも満身創痍だったが、闘志は一切衰えていないどころか、アドレナリン全開でアースエンドと取っ組み合いをしているのだから呆れるほかない。


「……わかった、おぬしに後方で治療を受けよと言うだけ無駄じゃろうな。ワシから言えることはただ一つ、

「ははっ、そう来なくっちゃな! おいオマエラ聞いたか! 元帥閣下の命令だ、死ぬ気で生きてこのバケモノに痛い目見せてやれ!!」

『いえーい!!』

「まったく、どんな神経しておるのじゃこやつらは」


 そんなことをぼやいているが、玄公斎はその手に持つ「天涙」で、あっという間に十数メートル四方の体表を切り刻んだ。

 普通、切断攻撃は破片を生んでしまい悪手であるが、玄公斎の技能「抜刀氷雪」を併用することで切断面を氷漬けにしてしまい、再生を阻止してしまう。

 こうして第1天兵団は全員がアースエンドに取り込まれる前に、間一髪で解放された。

 玄公斎の後ろから見方が次々と駆け付けており、特に今まで安全のために近づけなかったメディックたちが彼らへの応急手当と補給を行った。


「梶原大佐っ! 一旦退けとあれほど言っただろう! 上官である私の命令は絶対だ、あとで病院で軍法会議だ!」


 特に足早に駆けつけてきたのは、天兵団を指揮していた綾乃中将だった。


「オウオウなんだ綾乃ちゃん、俺の心配をしてくれたのか? モテる男はつらいぜ」

「……軽口を言う余裕はあるようだな。お前は罰として今すぐ野戦病院送りだ、麻酔銃用意!」

「いや冗談だって、俺はまだ戦える! 後方送りはヤメロォ!!」


 こうして、彼らはまさかの味方に麻酔銃を撃たれ(それもインド象すら眠るほど強力なもの)、メディックたちに担架で運ばれていった。


「元帥、正直今の彼らは足手まといなので、後方で一時的に治療して戦える状態にします」

「そうか……すまんな」


 こうして、天兵団の退場はあったものの、ほぼ全軍が攻撃に参加し、巨大な敵対生物に着実にダメージを与えていった。


 あまりにも大きいため、すべての攻撃が面白いように直撃する。

 体表のあちらこちらで火球や爆発が絶え間なく巻き起こり、衝撃波や轟音が絶え間なく空間を揺らしていく。

 おそらく一般人がこの場に居たら、立っているだけで脳震盪を起こしてしまうだろう。

 アースエンドの必殺のブレスも、空からビバ・アンチマギア・ブラック・タイダリア号を操るシンイチロウが注意を引き付けることで、地上に被害を及ぼさないよう立ち回っており、反撃対策も完ぺきに機能している。


 このままいけば、いつかは倒せるだろう。

 彼らの中にどこか楽観な見方が広がる中、玄公斎は解析班に通信をつないだ。


「解析班、敵対生物のダメージレポートを」

『元帥閣下、報告します。敵対生物の残り耐久力はまだ30兆を下回っておりません』

「なに?」

『現在の1分ごとのダメージレートは約5000万程度。今のままの状態を継続しても、撃破まであと400日以上かかる計算になります。しかもこれは、今のほぼ全力の値となりますので、術力や弾薬が尽きた場合…………』

「……わかった」


 これだけの大火力をぶつけてもなお、倒すのに400日かかるという計算結果に、玄公斎は思わず嘆息した。

 今のままでは、圧倒的になのであった。

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