守護竜の花園 前編
翼人のナトワールに素材となる花を教えてもらったあかぎとアンチマギアは、すぐに素材採取に向かおうとするが、その前にナトワールから一つだけくぎを刺された。
「いいですか、二人とも。素材となる花を見つけても、すぐに手折ってはいけません。必ずその場で深くお辞儀をしてから、根元を優しくハサミで断つようにしてください」
「はぁ? なんでそんな面倒なことを!?」
「それがこの保護区での採取における古くからのしきたりだからです。このお花畑は、伝承によれば守護竜アプサラス様が手塩にかけて育てたものだとか。そのため、乱暴なことをすると罰が当たってしまいます」
「なにいってんだ! このアンチマギア様がそんな迷信信じるかよ!」
「でもさーマギアちゃん。たぶん採取方法間違えると薬の効き目が悪くなるんじゃないかな?」
「なんだと!? それは困る! 王子様が生き返るなら二礼二拍手でもしてやるよ!!」
この辺りは「保護区」と呼ばれるだけあって、翼人の間にそれなりの礼儀作法が決まっているようだった。
アンチマギアはそのようなまだるっこしいことに付き合う気はさらさらなかったが、今は運命の人の生き返りが掛かっているのだから、渋々指示に従うことにした。
反魂香となる素材は、ナトワールが覚えている限りでは10種類もの花が必要で、中にはこれだけ花が咲いていてもなかなか見つからない種類のものもある。
しかも、集めた花はきちんとした手順で調合しなければならないのだ。
「この花か……たのむ、私の王子様のために花を分けてくれ」
目的の赤い花を見つけたアンチマギアは、殊勝な態度で一礼し、ガサツな彼女にしては丁寧にハサミを入れて花を根元から手折った。
果たしてこれで正しいかどうかはアンチマギアにはわからなかったが、彼女は自分にできる限りの最上の礼を尽くした。
その一方であかぎは、素材となる花を探す中で、何か奇妙な感覚を覚えた。
「なぜだろう? 誰かに見られてるような……?」
なぜか空気がピリピリしているような違和感を感じ、誰かに見られているような気になって、あたりを見渡してみるがそれらしい何かは見当たらない。
「それにしても、全然見つからないなぁ。ナトワールちゃんが言うには、必ず見つかるとは限らないっていうけれど…………この山にはないのかな?」
そしてそのまま遠くを見渡してみると、今いる山以外にも雲の上からあちらこちらに花畑が顔をのぞかせている。
その光景はとてもきれいで、なんとなく手が届きそうに見えるのだが、別の山の頂上に行くにはまた山を登って降りるか、翼を生やして飛んでいくしかない。
何とか向こう側に渡れないかと考えたあかぎだったが、ふと空を見上げたところ、遠くからこちらに黒い点が近づいてくるのがみえた。
(あれは……!)
その黒い点が近づくにつれ、それは赤い羽毛を持つ始祖鳥の様な見た目の魔獣であることが分かった。
相手の方も青いフードの少女を敵と認識したのか、口を大きく開けると、紫色の光弾を吐き出してきた。
「ちょっとした賭けだけど、マギアちゃんのためにやってみようか」
あかぎはその場でしゃがんで光弾を避けると、そのまま彼女に向けて突っ込んでくる鳥の魔獣をしっかりとにらんだ。
光弾が回避されたとわかるや否や、魔獣は翼の前面にある鋭い刃であかぎの首を刎ねんと滑空する。
「そりゃっ」
滑空攻撃をジャンプで躱すあかぎ。
突撃を回避された魔獣は方向を変え、今度こそ仕留めようと再度突撃を敢行したが…………今度はなんと、あかぎはジャンプして魔獣の背中に飛び乗った!
「あばれるな……あばれないでよ。ちょっと向こう側に運んでもらうだけだから」
『ギャー!』
まさか自分の上に乗られると思っていなかった魔獣は、あかぎを振り落とそうと必死にあがくが、あかぎはなんとか首を掴んで無理やりまっすぐ飛ばし、とうとう別の山の山頂に渡ってしまった。
「乗せてくれてありがとう! じゃあ、死のうか!」
『ギー!』
体よくつかわれて怒り心頭の魔獣は真上からミサイルのようにあかぎを狙うが、完全に見切っている彼女はこれを回避し、すれ違いざまに刀で斬りつけた。
ただ、玄公斎のように一刀両断とはいかず、魔獣はまだ体力が残っているのかもう一度突っ込んでくる。
「やっぱり……おじいちゃんのようにうまくいかない……ねっ!!」
回避の後にもう一度斬りかかり、ようやく鳥の魔獣は出血多量で墜落した。
勝ったとはいえ、あかぎは自分の腕がまだまだ未熟であることを思い知らされた。
「さてと……あ、あったあった! もう見つけた! やっぱりこっちに渡ってきて正解だった!」
「それで、お前さんはここからどうやって帰るつもりなんだい?」
「あ、いっけなーい! 帰りも乗せてもらえばよかった…………って誰!?」
お目当ての花を手に入れた直後、あかぎは背後から何者かに声をかけられた。
見ればそこには、ゆるふわの銀髪に緑のワンピースを着た少女が立っていた。
そしてその少女は……髪の毛から2本の角が生え、腰のあたりには白い鱗の長い尻尾がのぞかせていた。
――――リュウ
急にあかぎの意識が真っ赤に塗りつぶされ、心臓の鼓動が跳ね上がった。
そして、彼女は無意識に持っていた刀を少女相手に振りかぶったのだった。
【今回登場したエネミー】
https://kakuyomu.jp/works/16817139558351554100/episodes/16817139558499448139
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