旅行準備段階
女神さまのありがたいお話
『あら、もう決断してくれたのね! ずいぶんと早かったじゃない、申し越し考えるのに時間がかかると思っていたわ!』
「うむ、思い立ったが吉日と言うからのう、部下たちさえ説得してしまえば、こちらのもんじゃ」
「その説得の仕方が強引すぎるんですよ……こんなことで強権を振り回さないでください。ほかの人たちに示しがつきません」
「なにょうゆーとるで。たまには老人のをわがままを聞いてくれてもよいだろうに」
異世界旅行の準備をわずか半日で整えた米津玄公斎は、妻の環と何かあった時のバックアップを担う部下2人を連れて夢の中の世界へと足を踏み入れた。
床は一面に敷き詰められた雲のようで、それ以外は澄んだ青空のみ。
そんなどことなく天国を思わせる空間で、4人の軍人は巨大な女神の上半身と会話していた。
なんとなく美術彫刻を思わせるような銀髪の美人で、背中には四対八枚の純白の羽が広がっている。
彼女こそ、米津夫妻を異世界に誘った上位存在たる女神であり、名前は「リア」というらしい。
事前に聞いている話によれば、女神様は新しい世界を創るためにいろいろな世界から移住者、もしくは一時的な協力者を呼び集めているようで、彼女の世界にはびこる敵対的生物をある程度倒してほしいと依頼されているのである。
「女神様や、2人ほど付き添いがおりますが、よろしいんですか?」
『もちろん大歓迎よ。人数は多ければ多いほど助かるわ! なんだったら、部下丸ごと全員連れてきてくれてもよかったのだけど』
「ほっほっほ! 全員で団体旅行というのも悪くありませんが、今回ばかりはおじいさんと二人きりで旅行を楽しみたかったんですもの。むしろ、私たちだけでも良かったんだど、この子たちが心配してくれるからねぇ」
「日本国内ならまだしも、違う世界なんて何があるかわからないんですからっ! お二人の身に何かあったら、我が国の損失なのですよ! わかってますか!?」
『そうね、さすがに死なれちゃうと生き返らせることはできるけれど、
「
ノリノリで話を進める老人二人と女神様。
部下二人は振り回されっぱなしで困惑するばかりだった。
『そうそう、
「権利か……つまり、願いをかなえるかどうかは女神さまの胸先三寸というわけなのじゃな」
『ごめんなさいね、ついこの前まで奇跡の力を使いすぎたせいで、あんまり乱発できないのよ。そのかわり、妥当と認めればかなりの無理は効くわよ!』
「なるほどのう、では若返りの願いなどはどうじゃ?」
『その程度ならもちろんオッケーよ!』
「できるんですね、若返り……」
願いをいう権利という、またなんとも中途半端なものを授かってしまったが、いざというときの最後の手段になる……かもしれない。本来は決して「若返り」などというしょうもないことに使ってはいけない。
「よし! 十分チュートリアルは受けたことじゃし、ゆくぞかあちゃん!」
「楽しみですねぇおじいさん♪」
「お待ちください二人とも……まだヒアリングすべきことはたくさんありますので…………」
『出発するのね! それじゃあ、いい旅を!』
「「ちょっとまってぇぇぇぇぇっ!!」」
こうして、部下二人の願いもむなしく、米津夫妻は最低限の説明を聞いただけで異世界へと旅立ってしまった。
これから先もこのようなノリが続くとなれば、部下たちの苦労はさぞかし計り知れないものになることだろう。
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