異世界最終決戦 3(VS悪竜王ハイネ)

「二人して僕に異議を唱えるなんて珍しい。本当は今急いでいるんだけど、一応聞いておこうか?」

「お時間もらって申し訳ないにゃ。けど、常務にゃんからもお願いするにゃ、あかぎちゃんやアンチマギアちゃん、それにシャインフリート君たちを連れて行ってあげてほしいんだにゃ」

「…………それは合理的な理由で? それとも、個人的な感情?」

「はっ、そんなの両方に決まってんだろ、クソガキ神様」


 智白とカノン、アルの間に珍しく不穏な空気が漂い始めていた。

 実力者たちの静かな言い争いに、周囲の面々はただ固唾をのんで見守るほかなかった。


「っつーかよ、勝手に神様になって身も心も若返ったと勝手に思ってたが、どうも頭の方は老害がすすんでるようだなオイ」

「ちょっ、さすがにそれは言い過ぎだにゃ!?」

「うるせぇっ! こちとら大事な約束を反故にされたんだ! 文句をダース単位でぶつけてやらにゃ気が済まねぇっ!」

「……その件については本当に悪かったよ」


 アルが怒っているのは、智白がまだ玄公斎だった時、彼に無理を言って地竜の鱗から大量の装備を作らせたことがある。当然アルは「俺は便利屋じゃねぇぞ!」と憤慨したが、その対価として「玄公斎と決闘する権利」を提示することで手を打った。

 対価としてはあまりにも不平等だが、アルはアルで自分がやらないと危機との戦いが相当厳しくなることがわかっていたからこそ、なんだかんだ言って依頼を引き受けたのだ。

 それがどうだ、玄公斎はオーバードライブの使い過ぎで神性を得てしまい、そのせいで老齢により全盛期より衰えた肉体よりさらに弱体化してしまうことになる。

 アルが今後よほど長生きしない限りは「玄公斎」との対戦はできないのだから、彼が悪態をつくのも無理もない話だ。


 とはいえ、そのような私怨があることを差し引いても、アルはあかぎたちをこちらの世界に残すことに反対する確かな理由があった。


「まあいい、テメエとの勝負は何らかの形で力が戻るまでツケといてやる。それに、代わりと言っちゃあなんだが、お前んとこに「イノリ」とかいう奴いるだろ。あいつにはちょいとばかし因縁があってな、今はあいつとの再戦待ちで勘弁してやる」

「それはそれで聞き捨てならないんだけど……まあいい、本人がそれでいいというなら」

「おう、今度こそ二言は言うなよ。それよりも、だ。あんたは俺たちが苦戦しそうだからって理由で、こいつらをこの世界に置いておきたいわけだろう。それもそうだよな、ぶっちゃけ俺たちの戦力は想定だとギリギリだ。しかもこれは、相手の「今わかってる戦力」だから、これ以上の何かが出てきたらギリギリどころか足りねぇ」

「わかってるならどうして……」

「理由は二つあるにゃ。一つは、米津さんのところが一番危ないからですにゃ。こっちの世界は危ないと言っても時間的にまだ余裕はあるんにゃけど、お宅の世界は今も大勢の人たちが危ない目に合ってる。なら、まずはそっちを先に片付ける……優先順位の問題にゃ」

「……なるほど、それは確かにそうだ」

「そしてもう一つ。この子達はこの世界より、あくまで米津さんのために戦っているにゃ。今この子達をバラバラにしたら、不安で戦いに支障をきたすにゃ」

「要するに、足手まといはいらねぇってことだ。今は一人でも戦力が欲しいのは事実だが、心が此処にないヤツが戦場に出てもロクなことにならねぇ」


 そう、肝心なのはあかぎやアンチマギア、シャインフリートたちの心がすでに智白たちの世界の心配が一番高い比重になってしまっていることだ。

 彼らは戦闘能力は非常に高いが、智白のような軍人たちのように「割り切る」ことはまだ難しい。

 カノンだって、もしこの世界と自分の故郷を天秤に掛けろと言われたら、即座に自分の故郷を救いに行くだろう。

 アルの口が悪いのは(普段からそうだとしても)彼なりに智白の世界のことを心配していることの裏返しでもある。


 すると、そこにもう二竜ふたり――――


「私からもお願いするわ。シャイン共々、あなたの故郷を救う手助けをさせてくれないかしら」

「っ! グリムガルデさん! いつの間に此処へ!?」

「私の方の問題はようやく片付いたわ。竜王の動きも私には読める……私がいる限り、あいつの好きなようにはさせないから、安心して頂戴」


「ほっほっほ、久しぶりじゃな元人間のお爺さん」

「あなたは風竜のアプサラスさん!」

「あなたたちのおかげで、おばあちゃんのお花畑が無事に残っているわ。恩返しってほどじゃないけど、私もちょちょいと手伝ってあげようと思ってね。しかも、今回もなかなか退屈しなそうじゃんね、


 常夜幻想郷の住人を引っ越しさせていた闇竜グリムガルデと、気ままな守護竜アプサラスが今回の戦いに加わることを申し出たのだ。

 この二名がそろうのであれば、さすがに「戦力不足」とは言わせない。


 カノンとアルの説得、それに二竜が改めて力を貸してくれるということで、ようやく智白も決心がついた。


「すまない、僕がちょっと頑固だった。全体ばかりを見て、肝心の近くが見えてなかった…………この歳になっても、僕はまだまだ未熟だ。そんな未熟な僕に、君たちはついてきてくれる?」

「当たり前だよおじいちゃん! だってあたしはおじいちゃんの一番の弟子なんだから!」

「私はなぁ! 恋愛的な意味じゃなくて、あんたの人柄に惚れたんだ! うちの部下共々、力になるぜ!」

「母さんもこう言ってるし、トランも一緒! 今度こそ、あの悪竜を討つチャンスを僕に下さい!」


「ヨネヅさん……いえ、智白さん。私も、部下たちとともにこの世界を全身全霊で守り抜きます。どうかご武運を」

「もちろん、あたしもいるよ! あたしたちの強さ、ヨネヅさんも知ってるでしょ!」


 墨崎智香やミノアをはじめとする竜人部隊も、後詰としてこの世界に残ることになった。

 智白たちがいなくなった後、戦力が空っぽになったエリア1とホテル周辺は、彼女たちが守ることとなる。


 そして、黒抗兵団も2つに分かれた。

 智白たちについていく本体『黒抗兵団第1中隊「菖蒲」』300名(途中で脱落はあったものの、途中で大幅に増員した)が、悪竜討伐のために異世界へ向かう。

 残る元王国騎士団や、途中で増員した元転生統率祝福協会のメンバーは、智香たちが代理で率いることになる。


「やれやれ、こんなところで情に振り回されるなって……こんな神様で大丈夫かな?」

「ふふふ、それだけシロちゃんがみんなに慕われている証拠よ。みんな、私たちがいなくて苦しい戦いになるかもしれないけど、なるべく早く終わらせてくるから。勝てないとわかったら、無理しないでね」

「それはもう、重々承知にゃ。米津さんたちこそ、お怪我のないようににゃ」

「なーに寝ぼけたこと言ってやがる。あんまり悪竜王相手にモタモタしてっと、逆に俺がおいしいところ行ってやらぁ!」


 それは自信か、それとも強がりか……

 彼らは自らが相対する敵に対する不安を全く見せなかった。


「さて、もうだいぶ時間が押しているわ……リア様リア様、私たちを元の世界に戻してくれないかしら」

『……承知したわ。絶対無事に帰ってくるのよ』

「もう僕はこっちの世界の住人扱いなんだね、まあいいけど」


 こうして、智白たちはあかぎ、アンチマギア、シャインフリート、トランなどの異世界人たちを連れて、故郷日本を滅ぼそうとする悪竜王討伐に赴いていった。

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