異世界最終決戦 4(VS悪竜王ハイネ)
異世界から故郷日本に戻ってきた米津夫妻と、ついてきたあかぎたち。
乗っている『ビバ・アンチマギア・ブラック・タイダリア号』から見た光景は、予想以上に悪いものだった。
「これがおじいちゃんたちのふるさと……! な、なんかすごい高い建物がたくさん!!」
「しかしハイネめ……元の世界を見限るや否や、今度は僕たちの世界に寄生しようとは! つくづくとんでもない奴だ!」
「でけぇなオイ。あの『アースエンド』とかいうバケモノより、もっとでかくなってるじゃねぇか!」
快晴だった東京の空は、一転して濃い紫色の禍々しい渦を巻く雲で覆われ、その下には都市全体を覆わんとするほどの巨大な竜が鎮座している。
「タマ姉、先に戻っている一大将たちに現状の確認を。僕はハイネと対面する」
「わかったわ」
智白があかぎとアンチマギアを伴って艦上甲板へ赴く間、環は先に地上に戻っている部隊と連絡を取り始めた。
「こちら米津環。師団長応答願う」
『こちら鹿島紫苑。一大将は現在大規模術式準備中のため、私が代理で指揮を執っています。現在、政府中枢は悪竜の攻撃により壊滅、守備隊も反撃で沈黙しているほか、各地で悪竜に洗脳されたと思わしき国民が蜂起しております』
米津夫妻たちよりも前に日本へ戻ってきた、一大将率いる第4師団は、地上の混乱への対処に追われていた。
特に、国会議事堂が消し飛んでしまったことで政府中枢が壊滅状態になってしまったのが大きな問題で、正式な緊急事態宣言を出せる権限が軍にない以上、場当たり的な対処をするしかなかった。
さらに厄介なのが、いつの間にか悪竜王に洗脳されたのか、胸部に大きく『X』のマークが書かれた全身黒タイツのような衣装に身を包んだ人間が各地で大暴れしているようだ。
どうも彼らは悪竜王に力を与えられているせいか、退魔士並みの能力を持っており、警察や通常の陸軍では全く止めることができないようだ。
すでに都内各地では彼らの攻撃によってあちらこちらで火の手が上がっており、首都圏の経済は完全にマヒしてしまった。
『洗脳されたとはいえ、彼らは守るべき国民……ゆえに、可能な限り殺さないよう努めておりますが、それでも限界はあります。なんとしてでも、上空の竜を倒さなければなりません』
「状況はよくわかったわ。地上からの反撃は厳しいかしら」
『反撃自体は不可能ではありません。ですが、悪竜王は何やら周囲に結界のような不可視の防壁を展開しているようで、こちらからの攻撃は一切届いていません。解析も不発です』
「そう……わかったわ。引き続き鹿島中将は各地の軍をまとめ、地上への被害を最小限に抑えてください」
『承知しました。それと、一大将から元帥宛に
「託……?」
『半日だけであれば、地上への攻撃および流れ弾は気にしなくてよいとのこと』
「…………! それは、まさか!」
『あの方の命を無駄にしないためにも、悪竜王は確実に仕留めてくださいね』
「ええ、もちろんよ。私のシロちゃんに不可能はないわ」
通信を切ると、環はふうと一つ深いため息をついた。
(にのちゃん(※
地上のことは鹿島中将(姉)に任せ、環たちはハイネの撃破へ全力を注ぐことにした。
そのころ甲板では、智白が巨大化したハイネと対峙をしていた。
「聞こえるか、ハイネ!」
『なんじゃ……
「なんだ、聞こえてるじゃないか。セントラルのみならず、僕の故郷にまで寄生しようとするとは、つくづく害にしかならない竜だ。他の世界に害が及ぶ前に、今ここで決着をつけてくれる」
『ふん、口だけはずいぶんと勇ましいのう。弱い何とか程よく吼える……と言ったところか』
智白の数十倍もある充血した眼球がジロリと睨んだ。
衛星からでも見えるほど巨大化した悪竜王ハイネにとって、今の智白は小さすぎて見えないくらいだが、それでも声は届いているらしく、律儀に返事を返している。
『ククク、そうじゃ。ワシはこう見えても殴り合いなどという野蛮なことは大嫌いでな。まずは話し合いからどうじゃ』
「話し合いだって?」
『わが軍門に下れ、ヨネヅよ。この世界ごと、ワシの軍門に下るというのであれば、命は確実に保証してやる』
「何を言うかと思えば…………そんな戯言、受け入れると思っているのか?」
『受け入れざるを得ぬよ。今のワシは、全盛期の力を失った
そういうが早いかハイネは大きく口を開けて、副都心の方角へ向かって無職のブレスを放った――――――が
予想に反して、ブレスは大都市上空で跳ね返り、虚空の彼方へと消えていった。
「あっはっはっはっは! なにそれ、台無しじゃん! 僕たちがむざむざやられっぱなしでいると思ったわけ?」
『…………やはり、貴様らは油断ならぬ相手じゃな。しかし、いつまでも持つと思うな…………ワシを怒らせた代償は重いぞ』
威嚇射撃のブレスが防がれたことで面食らってしまったハイネだったが、逆にこのことで悪竜の脳内から「手加減」の文字が消えた。
そして、自身の持つ最悪なあれやこれやを全てぶつけてでも、無慈悲にこの世界を破壊してやると誓ったのだった。
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