異種族大集合

「まさか本当に竜にならなくても飛べるんだなエヴレナ」

「ね、偉いでしょ! ちゃんとしゅぎょうしたんだから、もっと褒めていいんだからねっ!!」


 銀色ポニーテールの竜の少女は、背中に黒髪の日本人の少年を乗せながら、背中に一部生やした竜の翼をせわしなく動かして、ホバリングするように雲の上を飛んでいた。


「なあエヴレナ……本当にこの辺に知り合いがいるのか?」

「本当だよっ!! ここはおばあちゃんと一緒に遊んだ花畑だもん! おばあちゃんの匂いもするし…………あれ、誰かいる?」

「何か揉めてるみたいだよ、ユー。しかも、倒れてる女の人がいるし」

「んー、ちょっとだけ変わった雰囲気だけど、悪い人たちじゃなさそう」

「白埜がそういうなら、とりあえず話を聞いてみるか」


 少年の肩に乗る和服の幼女と、もう片方の肩に乗る妖精がそれに同意する。

 まるで親亀子亀のような状態でゆっくりと花畑に降りていくと…………


「やぁ、愛らしい少年よ。私は君にことをずっと待っていた!」

「うわ、何だいきなり!?」


 突然目の前に、海賊服を着たナイスバディな女性――――アンチマギアが現れ、この花畑の花で作ったと思われる花束を差し出してきた。


「あーっ! 夕陽君また新しい女作ったの!? サイテー!」

「ユーったら、ティカがいるのに浮気してるの!?」

「ちがっ!? 俺はこんな奴知らないからな!」

「…………(嘆息)」

「幸ぃ! お前からも何とか言ってくれ!」


 アンチマギアの突然のプロポーズで、少年の周りにいた少女のうち少女竜と妖精からは忽ち避難囂々だったが、もちろん少年はアンチマギアに会うのは初めてだ。

 肩に乗っている和服の少女も「またこのパターンか」とあきれた様子だった。


「はっはっは、そう照れるなって! 確かに私と君は初めて出会ったが、この運命は前世からの繋がりで――――」

「この緊急事態になにやってんのーーーーーっ!!」

「グハァ!?」


 更ににじり寄ろうとするアンチマギアだったが、いつの間にか目を覚ましたあかぎが、刀の峰でアンチマギアの後頭部を思い切り強打。

 唖然とする一行の前で、登山に使ったロープで彼女の身体を簀巻きにしてしまった。


「もうっ、王子様を助けるための反魂香を作っている最中に、別の男に浮気するなんて最低だよっ!」

「えー、だって私は海賊だよー? 欲しいモノは力づくで奪い取るものなんだよ! そのための人生! そのための拳! 金! 暴力! 男!」

「うるさいっ! それ以上変なこと言うとマギアちゃんの口までぐるぐる巻きにするからねっ! …………あっ、ごめんなさい人前なのに乱暴なことしちゃって。アタシお腹がすいてて、つい」

「ええっと、俺は別に……誤解が解ければそれでいいんだけど、君たちはこんなところで何を?」


 とりあえずアンチマギアをおとなしくさせたところで、あかぎたちは自己紹介も兼ねてここに至る経緯をお互いに話し合った。


 少女ドラゴンに乗ってきた黒髪の少年は、名を日向夕陽と言うようで、右肩に乗っている幸という座敷童の少女と共に、異世界の日本と言うところからやってきたという。


「ニホン……かぁ。そういえば、うちのおじいちゃんとおばあちゃんも、ニホンって世界から来た退だって言ってたような」

「本当か? じゃあ、君も俺と同じ世界から来たのか?」

「うーん……あたしはこの世界で記憶をなくしてたところで、おじいちゃんとおばあちゃんに面倒を見てもらってるだけだから、どこから来たかわからないの。あ、そうそう、あたしはあかぎっていうの。米津あかぎ、よろしくね」

「ふぅん、でも見た目がどことなく日本人っぽいし、名前もあかぎだから、別の世界の日本がない限りは俺たちは同じ世界にいたのかもな。こっちにいる白埜しらのも、俺と同じ世界から来たみたいだし」

「あの……白埜です。本当はアルも一緒にいたんだけど、暫く一緒に行動してろって」


 腰まで届く銀髪を持つ少女、白埜は、名乗ると同時に礼儀正しくぺこりとお辞儀をした。


「で、こっちは俺の相棒、座敷童のさち

「……(ぺこり)」

「あとこいつは、勝手についてきてる妖精のロマンティカ――」

「ちょっと、なんでティカだけ雑なの!? ティカは一流のレディ! レディ・ロマンティカなのよ! そして、ユーのこんやくしゃなのよ!」

「だから違うって」

「あはは……仲がいいんだね」


 両肩の小さい者同士でバチバチ目線を飛ばし合うのを見て、あかぎはなんとなくいろいろと察した。


「ふふん! 私は伝説の神竜、真銀竜エヴレナだっ! 刮目せよっ、久しぶりにおばあちゃんの花壇に戻ってきたぞー!」

「え、神竜…………まさか、本当に!?」


 竜という単語に真っ先に反応したのは、先ほどから薬が作れずに途方に暮れていた、翼人のナトワールだった。


「神竜様のお話は、子供の頃から聞いております! それが、このようなところで御会いできるとは…………」


 そう言ってナトワールは興奮気味にその場に平伏してしまう。


「え? 私、敬われてる? え、えっへっへ~、神竜だから当然だけどねー! もっと敬っていいよ!」

「ははーっ神竜様ーっ!」

「…………お前も、行くところに行けば敬われるんだなぁ」

「これが普通なの、たぶん! むしろ夕陽は私のことをないがしろにし過ぎなの!」

「そうです! 神竜様に頭が高いですって!」

「怒られた!?」


 そうは言うものの、やはりエヴレナは神様扱いされていることに慣れていないようだ。それでも、ここまで敬われると悪い気はしないものである。


「ふっふーん、何やらあなたは落ち込んでいるみたいだけど、よければこの真銀竜エヴレナと忠実な部下の夕陽が相談に乗るわ!」

「さらっと俺を部下にしないでくれるかな?」

「……(抗議)」

「実は私……そこで簀巻きにされている人に、反魂香の作成を頼まれているのですが、先ほどまで薬を作ってくださった守護竜様が急用でいなくなってしまって」

「守護竜? それって、アプサラスおばあちゃんのことかな。確かにあのおばあちゃん、私と遊んでると途中で飽きてどっかいちゃったりしたけど」


 とんでもないおばあちゃんがいたものである。


「そうだっ! 私は運命の王子様のためにハンコを作ってやらなきゃいけねぇんだ! だからこの縄を解いてくれ、頼むぜマイハニー!」

「ハンコじゃなくて反魂香だから……あと、マギアちゃんはよく目の前の口説いている相手に別の愛人のことを話す度胸があるね」


 相変わらずぶれないダブルスタンダードに、あかぎはあきれるばかりだった。


「んー……反魂香って、たしか人を生き返らせる薬だっけ」

「あれ、知ってるの白埜ちゃん」

「私もそんな薬があるっている話は聞くけど、実際に見たことはないわ」


 実は白埜はユニコーンであり、彼女単体で多数の治癒の術にたけているのだが、流石に死者蘇生までは専門外だった。

 また、そもそも彼女が知っている「反魂香」は死者蘇生の薬ではなく「焚くと死者の霊を呼び寄せられるお香」か、富山の腹痛に効く薬でしかないのだが、どうもこの世界の者は本当に死者蘇生ができるようだ。


(けど……最近どこかで見たことあるような?)


 なぜか最近どこかで「反魂香」という単語を見た記憶がある白埜。

 そんな時、エヴレナが持っていたカバンから一冊の分厚い本を取り出した。


「確かこの本に、そんな薬のことが書いてあったような?」

「あ……神竜様! そ、その本は……!?」

「これ? これはね、私の知ってるお花がいっぱい書いてあって、懐かしいなと思って読んでいたらゼルシオスお兄ちゃんがくれるって言ったから、もらってきたのよ」

「そうなん……ですか。てっきり、私の家から盗まれた医術書ではないかと思いましたが」

「え? なんで?」

「その背表紙に書かれている文様は、私の里の文様でして……」


 見れば本の背表紙には、確かにキイチゴを咥えた鷹のマークが書かれている。

 それは、ナトワールの里の部族を表す文様なのだ。


「お願いします、神竜様! 返してほしいとは申しませんが、その本には反魂香の作り方が書かれています! せめてそのページだけでもお見せいただけませんでしょうか!」

「ど、どうしよう……? 見せるのは良いけれど、本当に元の持ち主があなたのだとしたら……」


 ナトワールは、医術書が盗まれたものだと言っている。

 そして、エヴレナはこの本をとある男から気前よく貰ったのだが、まさかその男が翼人から盗んだのでは……と、一瞬思ってしまった。

 しかし、少し考えればあの男前が服を着て歩いているような男が、そのようなことをすることはないと思い直し、もしかしたらどこかで盗品を回収したものと思うことにした。


 ちなみに真相としては、奪ったのはハルカナッソスとその一味だったが、彼女たちがFFXXフロインデ・ファータ・イクスクロイツ連合に合流したことで、所有物がゼルシオスたちに回収されたのだった。

 ハルカナッソス自身は奪うだけ奪うと興味をなくす質なので、エヴレナの手に渡っても特に何とも思わないのであった。


 それはともかく、奇跡的に反魂香の作り方が書かれた医術書がこの場に現れた。

 しかも、ちょうどいいことに頼れる助っ人もいた。


「どこかで見たと思ったら、これだったのね。任せて、もしかしたら私もこの本を読めば作れるかも」

「へぇ、ここに咲いている花にこんな効果があるんだ! すっごーい! もしかしたら、ティカの鱗粉をこの薬にすることができかもー!」

「本当ですか!! お願いします、どうか……お手伝いいただけますか!?」

「え、えっと、じゃあ作るのを私は応援するね! ガンバレ! ガンバレっ!」


 こうして、医術書を元にナトワールと白埜が薬草と花を調合し、レディ・ロマンティカはその配合を体に覚えさせることで、鱗粉を反魂香に変えようとしている。あとついでに、エヴレナは応援に徹している。


「なんていうか……人外たちってすごいよな」

「ほんとにねー……」

「そろそろ縄を解いてくれよー、たのむよー」

 

 その一方で、人間たちは何もやることがなく、ただ見ていることしかできなかったという。

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