天の死闘 地の苦闘 9(VS竜王軍)

『ガキメ……ドコカラ入リ込ンダカシラナイガ、ココハ星辰竜ポラリス様ノ腹中……生キテ出ラレルトオモウナ』

『それはどうかな? 昔々、暴れん坊の鬼が親指くらいの小人を呑み込んでね。呑み込まれた小人は、腹の中で持っていた針でチクチクと刺しまくって、鬼はたまらず降参したそうなんだ。そして今ここには、一人どころか万を超える小人がいる…………ただ痛いだけで済むと思うなよ?』


 自ら自分のフィールドに飛び込んできた愚か者に、星辰竜ポラリスは不気味な声で警告するも、少名毘古那神はその脅しを一笑に付した。


「いくよみんな! この悪意の群れを粉砕してやろう!」

『応!』


 恐れ知らずの英霊たちは、玄公斎の指揮のもと、黒抗兵団のメンバーを囲む人影たちに突撃を敢行した。

 今まで仲間たちを囲んで罵っていた人影たちは、しょせんスピーカーに過ぎなかったのか、押し寄せる圧倒的な暴力の津波に、あっという間に飲まれてしまった。


「あの竜を攻撃し続ければ、少しはこの幻影の力も弱まるはずだ!」

『コシャクナァ……!』


 煮えたぎるような黒い靄に覆われたポラリスめがけて、英霊たちの猛攻が始まった。

 術や飛び道具が一斉に浴びせられ、さらに力自慢のメンバーたちが待ってましたとばかりに武器を振るう。

 ポラリスも黒く輝くブレスを吐き出し、光の玉をぶつけに行くも、彼らは一向にひるまない。


「さて、今のうちにこの二人を助けなくては」


 攻撃はある程度仲間たちに任せると、玄公斎は目を覚まさない智香とあかぎに目を向けた。

 だが、ポラリスの力が弱ってきたからか、智香の表情に若干の変化が見え始めたのだった。



 ×××



 さて、ポラリスが展開する「神域戯場」の夢からいまだに抜け出せない智香――――

 智香を救うために、特に彼女を慕っているサガスをはじめとする4人が、精神世界へと足を踏み入れたのだが、そこには想像以上に悲惨な光景が広がっていた。


「地上が……骨で埋め尽くされている!?」

「荒廃したビルがあちらこちらに。どういうことなの?」

「ひるんでいる場合ではない。隊長を見つけなければ」


 荒廃した現代の都市。

 あたりは一面の廃墟と化し、地面は人骨で埋め尽くされていた。

 唖然とするメンバーたちの前で、地面に転がるいくつかの人骨がガタガタと震え、地面から盛り上がるように組みあがって、彼らに襲い掛かってきた。


「スケルトンか、面倒だな。銃撃が当たりにくい」

「大丈夫、私がやる」


 次々に起き上がるスケルトンたちに対し、メンバーの一人――――魔法剣の使い手マノリコが、氷の剣を振るって撃退していく。


「しかしキリがないわ、早く隊長を探さないと」

「……いた、あそこだ。ビルの屋上で、一人で戦っている」


 果たして、遠くを見ることにたけている副隊長のサガスは、高層ビルの屋上で剣を振るっている智香の姿を見た。

 彼らの行く手を無数のスケルトンが遮るが、4人はお互いに援護し合いながらビルまで駆け抜けていき、今にも崩れそうな階段を何弾も上って、ようやく智香のところにたどり着いたのだった。


「隊長、ご無事ですか」

「……くるなっ! 私はもう……誰も信じられない」


 智香の状況も非常に過酷だった。

 亡者たちにやられてできたと思われる傷(の幻術)であちらこちらから血を流し、服はボロボロ。

 黒いオーラを纏った大剣を振るい、群がる敵を剣の腹で殴って無力化しようとするが、やはり切り殺さないことには倒せないらしく、増え続ける悪意に対して一方的に押し込まれている状態だった。


『やはり、とんだ見込み違いだった。お前のせいで、どれだけの人々の命が失われたことか』

『お前は悪魔だ! お前のせいで、俺たちの人生は滅茶苦茶なんだよ!』

『あーあ、頼りにならないなうちの隊長サマは。それなのにいつも偉そうなことで』


「違う……っ! 私は……間違ってなど、いない!」


 智香の部下たちから見れば、無数の骸骨が迫っているだけにも見えるが……智香には、親しい間柄の者から、かつて敵対した末に逮捕した犯罪者、そして元の世界の同僚たちなどの姿が重なっており、彼らはしきりに智香をあしざまに罵ってくる。


 そもそも智香は、まだ20歳になったかどうかというかなりの若輩であり、それでいて元の世界では治安維持チームの隊長を務めていた非常に優秀な人物だった。

 が、その分周囲からの嫉妬や侮蔑も少なくない。

 いくら優秀とはいえ、有力者から大抜擢されて出世したことにより、彼女はコネで出世したと公然とうわさされ、智香もそれを知っているからこそ、人一倍仕事の成果を上げてきた。

 智香は敵だけでなく、味方とも戦ってきたわけであり、彼女が受ける密かな憎悪は他の黒抗兵団たちに比べて膨大になっている。


「隊長、俺です、サガスです。わかりますか」

「マノリコです、わかりますか!? 隊長!」

「ああ……お前たちまで、そのようなことを言うのか」

「ダメだ、我々のことを認識しているようでしていない!」


 厄介なことに、助けに来た部下たちまで、幻覚によって憎悪を吐き出しているように見えるようで、彼らの必死に叫びは智香に届かなかった。


 智香とて、決して精神が脆いわけではない

 むしろ、元居た世界ではかなりの強靭な精神の持ち主だった。

 けれども今は、己があえて向き合うことのなかった、恨みや憎悪の津波に飲まれ、力尽きようとしている。


(倒しても倒しても沸いてくる……隊長は、いったいどれだけの修羅場をくぐってきたら、このようなことに。俺の力では、隊長を救えないのか?)


 智香を救うことはできないのか……?

 仲間たちがどうすべきか考えを巡らせようとしたところ――――白く輝く一陣の風が、智香を襲う亡者たちを一気に吹き飛ばした。


「久しぶりだな、智香。そんな顔じゃ、せっかくの美人が台無しだろ?」

「……!? お前は、まさか……」


 智香を守るようにビルの屋上に現れたのは、灰色のジャケットとジーンズを着た屈強なイケメンの男…………灰坂 桐夜だった。

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