天の死闘 地の苦闘 10(VS竜王軍)
「あなたは、一体……?」
「俺か? 俺は通りすがりのヒモ男だよ。しっかしこの風景、悪趣味にもほどがあるな」
いきなり現れた桐夜にサガスをはじめとする黒抗兵団たちは困惑したが、どうやら彼は敵ではないらしい。
しかし、なぜこの精神世界に現れたのか…………
「桐夜! なぜおまえがここにいる! 私は、お前のことを、あんなに……!」
「今はその話はナシだ。絶望の香り…………敵たぁ言っても、顔見知りの危機にいてもたってもいられなかった、それだけだ!」
たった一人の男の出現とともに、絶望の淵にあった智香がたちまち元気を取り戻していく。
智香にとってこの男は、今や宿敵とも呼べる存在になってしまったが、やはり心の奥底ではこの男のことを信じているのだろう。
「フッ、いい顔になったぜ! そうでなきゃじゃじゃ馬の智香じゃねぇからな!」
「だ、だれがじゃじゃ馬だ!」
迫りくる亡者の大群は、桐夜が持つ二丁拳銃の連射によって次々に撃ち滅ぼされ、消えてゆく。
智香もその戦いぶりに勇気づけられたのか、さっきまでの落ち込みぶりが嘘みたいに立ち直り、彼の背中に陣取ると、魂鏡石の力を大剣に纏わせ、敵を次々に叩きのめしていった。
そして、その姿を間近で見ていた部下たちは、二人の戦いぶりにただただ見惚れていた。
「隊長とあの男の人、すごいコンビネーション」
「あぁ……張り合うのが馬鹿らしくなるな」
「あ! サガスってもしかして隊長に惚れてる?」
「かもな」
「肯定するんだ……」
(惚れている……そうなのかもしれんな。先頭に立って戦う隊長の雄姿が、俺にはまるで女神のように見えた。けど俺は、ただ憧れているだけだった。隊長に本当に必要なのは、あの男のような前に出て守ってやれるやつなんだろうな)
今まであまり意識していなかったが、副隊長として智香のことを慕っていたサガスは、桐夜が現れたことであっという間に覚醒した智香を見て、自分では彼女の援護はできても、隣には立てないだろうと実感した。
もっとも彼は知る由もないが、桐夜にはきちんと別に運命の人がいるわけで……
「よし、ざっとこんなものだろう」
「……まさか敵であるお前に助けられるとはな。礼を言おう」
「いいってことよ。俺が勝手な正義感でやったことだ」
「ふっ、そんなところは変わらないな。だが、だからと言って次に敵として出会ったときは、逮捕してやるからな覚えておけよ」
「ったく、ちっとは融通利かせろよ」
戦いが終わり、闇に沈んでいた廃墟の都市群には青空が戻り、地表を埋め尽くしていた白骨はいつの間にかすべて消えていた。
智香は見事に、悪夢を撃退したのだ。
「お前たち…………いたんだな。情けないところを見せて、すまなかった。これでは、隊長失格だな」
「やだなぁ、水臭いですよ隊長~! 私たちは隊長のためなら火の中水の中って言ったじゃないですか! でも、本当に心配してたのは確かですよ。特にサガスが」
「おい……」
「ふっ、そうだな……この埋め合わせはいつかする。だから、帰ろう。仲間たちのところに」
こうして、無事に智香は悪夢の精神世界からの脱出に成功したのだった。
×××
「うっ……ここは」
『おー、気が付いた?』
「……米津元帥?」
『んー、惜しい。これは僕の仮の姿。僕は少名毘古那神、お
「?」
智香が目を覚ますと、そこは現実世界…………ではなく、色々なものがねじ曲がった奇妙な空間だった。
しかも目を凝らせば、天を突くような黒い靄に覆われた竜に対し、どこから来たのかもわからない人々が熾烈な攻防戦を繰り広げていた。
「君が元帥でないとしたら、肝心の元帥は? まだ瞑想中か?」
『本体はまだ瞑想中だね。でも、ここはまだ精神世界の中だ。君たちが早く目覚めなければ、一人で戦っているあの竜が危ない。そのために、あと一人……そこにいる女の子をなんとかしないとね』
「これは……あかぎが、燃えている!?」
『今はまだ大丈夫。けれども、いつ燃え尽きてもおかしくはない。今、智白とその仲間たちがあかぎちゃんの精神世界に突入して、無理やり起こそうとしている。君はしばらく、心を休めるといい。それと、助けに来てくれた部下たちにきちんとお礼を言ってね』
「そ、そうだった! お前たち、わざわざ迎えに来てくれて、本当にありがとう」
「いえ……」
智香が目覚めた今、残るはあかぎを目覚めにすべてがかかっていた。
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