我は最強たらんもの 4(VS 絶望のデセプティア)
『アッハハハハハハハハハ!! 絶望しろ、絶望しろ、絶望しろ絶望しろ絶望しろぉぉぉぉぉ!!』
巨大な黒い異形と化したデセプティアは、自分に降りかかった大量の瓦礫をあたりにまき散らし、玄公斎に向けて襲い掛かってきた。
「抜刀、一の太刀っ!」
対する玄公斎も、環が同調したまま素早く背後に回り込み、抜刀術の奥義を繰り出す。
不可視の刃による一閃が首筋を捕えたが、やはり傷が浅く致命傷には程遠い。
怪物の表面は竜の鱗のようなものに覆われており、対戦車砲くらいなら軽くはじき返してしまうだろう。
切れ味の鋭い天涙に加え、高い技術力を持つ玄公斎の渾身の一刀でも、単なる刀傷で終わる。それほどまでに、デセプティアの防御力は跳ね上がっているのである。
まさに絶望的と言えた。
「硬いな。これは竜に対抗できるような伝説の武器でなければ、容易にはいかんぞ」
『アアア……テメェだけは、コロス! ウガァァァ!!』
その一方で、デセプティアは人間の時からいろいろと無茶苦茶な性格だったが、怪物と化してからは理性がほとんど失われているようだ。
『オレは………オデはあぁぁぁぁっ!! 最強だ! 最強なんだぁぁっ!!』
「流石に一人で止めるのは厳しい。このままでは周囲に無用な被害が出てしまう」
暴れまわるデセプティアは、間違いなく玄公斎が今まで戦ってきた魔の物の中でもかなり上位に入る強さであった。
だが、こういった敵に対してはそもそも今まで一人で挑むことはあまりなかったし、あったとしても米津は長時間敵を振り回して消耗させ、逆に自分は能力をあげながら逆転していくという地道なスタイルをとっている。
退魔士の中には初めから人間の限界を超えた能力と技をたたきつける部類の者もいるが、やはり人体に負担がかかるからか、短命な者が多い。
玄公斎が長生きできたのも、身体への負担を少なくしつつ能力を発揮できる戦い方をしているが故ではあるが…………今日ばかりは、そんな悠長なことをしていては周りの人々に被害が発生してしまうだろう。
「助けてくれ! 化け物が……魔獣が暴れている!」
「せっかく客足が戻ってきたホテルが、潰れてしまうっ!」
「女神様、どうかお助け下さい!」
(退魔士として、これ以上の被害拡大は望ましくないな…………)
おそらく、もうあと数分戦っていれば、ホテルから誰か増援が来るだろうし、来なかったとしてももっと時間をかければいつか倒せる相手ではある。
しかし、廃墟となったホテルの周辺の建物にはすでに被害が出始めており、市民の生活を守る公務員としての側面もある退魔士にとって、この状況は看過できない。
「…………仕方がない、かあちゃん。ワシはオーバードライブを発動する」
「まあ、流石にそれは……」
「今は切り札の出し惜しみをしている場合ではない。この体が耐えられるかどうかもわからぬし、前に使ったのがいつになったのも忘れたせいで、副作用もいまいち覚えておらぬが……まあ、なんとかなるじゃろう!」
そうこうしているうちに、デセプティアの攻撃はいよいよ激しくなり、背中に生えた翼で飛び上がりながら、紫色の火球を口から吐き出してくる。
竜特有の強力なブレスを、玄公斎は天涙を振るった衝撃波で両断するが、着弾した場所からは激しい炎が柱となり、クレーターを生じさせる。
改めて一刻の猶予もないと判断した玄公斎は――――
「ゆくぞ魔の物よ!
瞬間、世界が反転する。
常夏のリゾート地だった周囲の風景が、白一面の世界になったかと思えば、そこから徐々に絵の具が塗られていくように、桜舞う巨大な神社の境内の様な場所へと変わってゆく。
そして、スーツではなく紺色の軍服姿で、刀を杖のようにして立つ玄公斎の後ろには、どこからやってきたのか、大勢の「日本人」がずらりと並んでいた。
『なんだ……コレハ!?』
「人が生まれ、国が興り、戦うこと2600年余り。我らは歩み、造り、繋げ、積み上げてきた。弱きがゆえに、群れを成し、知恵を絞り、力を合わせた。そこに貴賤はなく、八紘一宇皆等しく戦い続けてきた。さあ友たちよ、今こそ傲慢なる魔の物を討ち滅ぼすときぞ!」
『応!!』
玄公斎のオーバードライブ『
特に米津の周囲には、長い人生の中で共に戦い、彼より先に冥土へと旅立った戦友たちの姿がある。
感慨にふけりたいのは山々だったが、今は目の前の怪物を倒すのが先決だ。
「皆の者、かかれぃ!!」
『応!!』
『ぬおぉぉ……何だこの雑魚共は!! まるでゴミにたかるハエの群れだ!!』
何千、何万いるかも見当がつかない大軍勢が、各々武器を手にデセプティアへ襲い掛かる。もはや戦術もへったくれもなく、刀やら弓矢、鉄砲、術などが猛烈な勢いで叩きつけられた。
対するデセプティアも、圧倒的なパワーの爪や尻尾をぶん回し、群がる退魔士たちを薙ぎ払おうとするが、一向に勢いが衰えない。
無名の戦士が繰り出す槍が鱗を貫通したかと思えば、舞い散る桜の花びらが術札となってまとわりついて動きを阻害したり、怪力の持ち主たちが怪我することをいとわず尻尾の動きを封じたり――――
『卑怯だ!! 卑怯だぞジジイ!! 最強の名を懸けて、正々堂々戦え!!』
「卑怯とは聞き捨てならぬな。むしろおぬしには、滅多に出さぬワシの全力をぶつけてやったのじゃから、光栄に思ってほしいところじゃ。よいか、最強を志す化け物よ。この際言うておくが、例えこの場で勝ったとしても、おぬしが最強いなることはできぬ。一人が自分のためだけに戦う限り、いずれその孤独が自分の身を亡ぼすじゃろう。もっとも、大抵はそのようなことに気が付けるほどの存在に、今のところ会うたことはないのじゃがな」
『うるさいっ!! だまれっ!! もう! うんざりなんだよッ!! 仲間なんてっ!! 自分以外を信じるなんて!! 俺が信じるのは…………オレと悪竜王陛下だけだっっ!!』
(悪竜王陛下?)
不穏な言葉を聞いた玄公歳だったが、デセプティアは理性をほぼ失っており、これ以上聞きただすことはできないだろう。
暴れまわっていた黒い巨体は、わずか2分程度で満身創痍となり、傷だらけの身体が地面に引き倒された。
それでもなお往生際悪く暴れようと試みるが、もはやデセプティアにはブレスを吐く余力すら残っていない。
「智白、止めをさせ。お前の仕事だ」
「シロちゃんのために美味しいところはとっておいたんだから、感謝しなさいよね!」
「昔の貴様なら真っ先に突っ込んでいったが、少しはマテができるようになったか?」
「いらないなら、この首はおいどんがもらっていくでごわす」
「おぬしら……わかっておる、こればかりは譲れん。いずれ会いに行く日が来るじゃろうが、もう少し土産を持って行ってやりたいものじゃな」
周囲にいた戦友たちが、次々に勝手な言葉をかけながら消え去ってゆく。
玄公斎は、久々に見た友たちや、見たことがない先祖たちに感謝の念を示しながら、息絶え絶えのデセプティアの首を一刀両断したのだった。
(見事だったわ、シロちゃん)
「おう、かあちゃん。言ったでしょ、何とかなるって…………あれ、シロちゃん?)
特別な世界が急速に白一色に戻る中で、玄公斎は身体に異変を感じていた。
×××
「うーん、まだ見えないね」
「あのお爺さん、どこまで行ったんだろう?」
「もうほとんどエリア8との境目ですね。ですが、竜の気配はもうすぐです。あのおじいさんはおそらくすぐ近くに…………うん?」
ホテルに戻ったあかぎが呼んできた増援は、なんと黄金竜ヴェリテと真銀竜エヴレナだった。
ホテルにいる中で一番機動力が高く、なおかつ暇を持て余していたヴェリテは、あかぎが帰ってきた際に遠くで竜の気配を感じ、念のためエヴレナを引っ張ってここまで来たのであった。
(しかも気配はよりによってあの悪竜王ハイネ…………エッツェルの対処で手一杯のこの時期に、あんなのまでいるなんて)
確かにあの老元帥もそれなりに実力はありそうだったが、寄る年波のせいかかなり腕が衰え気味であることも察していた。
それゆえ、機動力重視で必要なメンバーだけそろえてきたのだが……
「あれ? なんか竜の気配が消えた?」
「それは本当ですかエヴレナ? …………言われてみれば確かに」
「はえー、竜ってそんなこともわかるんだー。もしかして、あの瓦礫の所かな?」
ヴェリテと彼女に背負われていた2人が瓦礫になっている建物を見つけて空から降りていったが、そこにいたのは環おばあちゃんと、見慣れない男の子だった。
しかもその男の子は、異様にぶかぶかのスーツに包まれている。
「おばーちゃーん! 応援呼んできたけど、その子誰?」
「うふふ、可愛いでしょう♪ 実はね……」
「ワシじゃ!! 米津玄公斎じゃ!!」
「「「うそでしょ!!??」」」
自らを玄公斎と名乗る中性的なお子様を見た3人は、見事に同じ驚愕の言葉を口にしたのだった。
【今回の対戦相手】絶望のデセプティア
https://kakuyomu.jp/works/16817139557676351678/episodes/16817139557692753607
また、米津玄公斎のプロフィールの「オーバードライブ」が公開
https://kakuyomu.jp/works/16817139557864090099/episodes/16817139557897181776
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