再び異世界で

「おい…………なんでテメェが此処にいる?」

「あーら、霧矢君じゃなーい。相変わらず生意気そうな面ね。わざわざお姉さんに会いに来てくれたの?」

「ちげー」


 ホテルに隣接している医療施設では、次々に運ばれてくる負傷者と治療を行う人員でごった返していた。

 そんな中、何の因果か先ほど戦場で顔を合わせたままそれっきりだった来朝と霧矢が再び出会ったのだった。


「俺は仕事で来てんだ。テメェこそ何でここにいんだ? 安楽死要因か何かか?」

「ちがいますー。確かに私は毒を作るのが仕事だけど、毒は用法さえ守れば薬にだってなるのよ」


 霧矢が此処に足を運んだのは、もちろん負傷者たちの治療のためだったが……来朝には浅からぬ因縁があったので、この場で出会ったのはある意味都合がよかった。


「それより……だ。あんときはよくも俺をコケにしてくれやがったな。異世界の人間を平気で薬中にするわ、肝心の勝った動画が俺のみっともねぇ悪足掻きを隠し撮りだわで、テメェ本当に正義の味方か? 俺の世界の犯罪者どもよりよっぽど質悪ぃぜ」

「あいにく私は正義の味方じゃなくて、軍人の卵ってだけよ。昔の騎士ならまだしも、私は特殊部隊みたいなものだから、手段は択ばないの。それに、霧矢君だって私の暗殺を狙っていたんだから人のこと言えないじゃない」

「ちっ、ああいえばこういいやがる」


 言いたい文句はダース単位であるが、言っても言っても気分が晴れるどころか、イライラが増すだけだった。

 少なくとも、来朝相手に舌戦は分が悪いと悟った霧矢だった。


(※二人の因縁については、前回の企画を参照

https://kakuyomu.jp/works/1177354055352339386/episodes/16816410413921130378



「あとお前、別の場所でえげつねぇハンバーガー作っただろ。放射能物質入りとかいうヤベーヤツ! あれのせいで千草が散々な目にあったって言ってたぞ」

「え、何それ、知らない。ハンバーガー作ったのは確かだけど、そんな正気の沙汰じゃないものを作った記憶はないわ」


 その上、来朝は別の競技で敗北した後、とある理由で体を別の存在に乗っ取られており、それが巡り巡って霧矢の同僚にとんでもない被害をもたらした。

 おかげで彼は、しばらくの間ハンバーガーとレバノン料理が受け付けなくなったとか。もっとも、これ自体は来朝の知るところではないのだが……


(地獄のフードファイトについては、東美桜様の前回の企画を参照

https://kakuyomu.jp/works/1177354055294519702/episodes/16816410413965737839



「ほら、口ばっかり動かしてないで、霧矢君も治療手伝って。千客万来なんだから、すぐに満員になるわ」

「ちぇっ、優等生ぶりやがって……」


 そうはいっても仕事を任されたからにはきちんと成し遂げなければならない。

 毒から抗生物質を作って投与する来朝の近くで、霧矢も患者の施療を開始した。


「……しいかしアレだな、お前の能力、人を苦しませるだけじゃなくて、直すのにも使えるんだな。正直羨ましいぜ…………俺も天賦ギフトがもう少しえり好みできるんだったら、お前のような人を生かすも殺すも自在な能力がよかったぜ」

「ふぅん……そんなふうに思ってたのね」

「俺はな、人助けがしてぇわけじゃない。俺の好きなように生きたい、ただそれだけだ」

「そう、なら私もせっかくだから正直に言うわね。私はどっちかっていると、あなたの能力の方が羨ましいわ」

「はぁ?」

「どんな傷や病気も直せるなんて、それこそ仏様みたいじゃない。私があなたのような能力を持っていたら、それこそ軍の中では引っ張りだこだわ。むしろ私の毒なんて…………嫌われるだけで、好かれることなんてないわ。下手をしたら、殺処分にされるかもしれなかったのに」

「ふん、なんともままならねぇ話だ」


 やはり隣の芝は青く見えるのだろう。

 殺人に快楽を感じる霧矢にとって、自らの能力などほぼ無用の長物であり、逆に来朝の能力は喉から手が出るほど欲しいものだ。

 世の中に存在するありとあらゆる毒の生成――――MDCの要因にいればおそらく出世頭になっていただろうし、敵に回せば苦戦は免れない。


 その一方で、平和な世界に生きる来朝にとって、毒人間である自分は歩く化学兵器のような危険物であり、殺処分を検討されたこと一度や二度ではなかったと聞く。

 そんな彼女は、人から気味悪がられる能力よりも、人の身体を治せる能力の方が欲しいのだろう。

 現に、毒で治療できるといってもその範囲はかなり限度があり、現代の薬と同程度しか効果がないのに比べ、問答無用でありとあらゆる傷や病気を治せる霧矢の天賦がいかに便利かわかる。


 霧矢の言う通り、なんともままならない皮肉な話であった。


「でもね、私は再開したのが君でよかったと思ってるわ。なんだかんだで話が通じるし」

「なんじゃそりゃ。俺は文句を言いたいだけで、ちっともうれしくねえんだからな」

「私も他にいくつか「競技」に出たんだけど…………再開したのがあの「化け物」じゃなくてよかったわ」


 そう語る来朝の表情は――悪らかにかなりの怯えとトラウマが見えた。


(こいつが想像するだけでビビるような相手って……なんだ? そんなのが出てきたら、俺でも手に負えねぇんじゃねぇか……?)



 一方そのころとある場所では――――


「ぶえーーーっくしょい!! さては誰かオレ様の噂話をしてるな? ……オレ様モテモテだな!!」


 とある少女が盛大にくしゃみをしていたという。

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