緊急信号

「すげぇな、いつの間にこんな建物を作ったんだよ」

「済まないのう千階堂殿。本来であれば事前に許可を得ておくべきじゃった」

「まぁ、今はそんなこと言ってられねぇし、この土地が変なものに使われるよりはよっぽどましだ」


 第4師団が到着したことを受けて、急遽行政委員の千階堂が基地の視察にやってきた。

 急増にしては立派すぎる基地「ヘキサゴン」は、かつて集会所があった場所を利用している。デセプティアによって破壊され廃墟と化していたとはいえ、ほとんど無許可で改築したとなると、さすがに国家間問題となりかねない。

 今は少しでも多く戦力が欲しいセントラル行政委員たちも、ルール無視の横やりは流石にまずいので、こうして問題がないことを確認して追認することでうやむやにすることにしたのだ。

 政治とはかくも複雑なものである。


「元帥。上部の建物は主に兵士たちの宿舎や保養所になっておりますので、少なくとも機密になる物はありません。軍事基地としての機能はすべて地下に収納していますので、防衛面でも機密保持の面でも抜かりはありません。とはいえ、現在もまだ拡張工事中ですが」


 一大将が玄公斎と千階堂を引き連れて基地の内部を練り歩く。


 一応、玄公斎の経営するホテル「阿房宮」は、黒抗兵団の拠点として大勢の人間が駐在するため、拡張に拡張を重ねてかなりの規模にはなっているが、こちらはあくまで一般人も利用することを前提としている。

 対してこちらの「ヘキサゴン」は玄公斎の本国が占有する関係で、おいそれと一般人に公開できないものを格納する予定となっている。


「こちらが格納庫です」

「おおぉぉ……なんだこれ、まるで地下都市じゃねぇか!」

「建設にはFFXXの方々にもご協力をいただいています。彼らの技術は凄いですね、少なくとも3世代は進んでいますよ」

「なるほど、道理でここまで早く建設が進んだわけだ」


 ヘキサゴンの地上部分の敷地には広大な滑走路が存在するが、実はそれはダミーであり、地下には宇宙戦艦を数隻格納できるとんでもなく巨大なドックが建設されていた。

 おそらく、建設力を貸す代わりに、有事の際の機体整備場を作ったのだろう。

 もちろん、一角には「ビバ・アンチマギア・ブラック・タイダリア号」を格納整備する場所もある。

 玄公斎たちの住む日本とは隔絶した技術力を持つFFXXに、軍関係者は多いな戸惑いを見せているが、今は味方であることが非常に頼もしい。


「しかし、地下に格納庫があってどうやって地上に持っていくんだ?」

「それはですね――――」


「一司令官! 元帥閣下! 取り込み中失礼いたします、緊急事態です!」


 司令部から格納庫の説明を行っている最中、玄公斎たちのところに雪都が大急ぎで駆けつけてきた。


「一体何事じゃ冷泉准将」

「はい、エリア4方面から幾瀬少将からの緊急の救難要請が発報されました!」

「幾瀬大佐が……一大将、どういうことじゃ」

「その…………幾瀬少将は現在、偵察と資源確保を兼ね、元帥の協力者という方とともにエリア4「アビス」に遠征に出ていまして。もしかすると、現地で何かあったのかもしれません。すぐに通信をつなげます」

「元帥、この救難信号は緊急度合いが非常に高いものです。彼らが危険に巻き込まれている可能性があります」


 彼らは急ぎ救難信号の解析をした。

 おそらく、非常に切羽詰まっているようで、「未知の敵性生物多数。一般人の被害甚大。至急救援を要する」というメッセージと、発信座標しか書かれていない。


「こうしては居れん、すぐに救援に向かうぞ。あのビバなんちゃら号はすぐに出せるか?」

「整備は万全ですが、操縦者であるシャザラック殿を連れてこなければ」

「千階堂殿、そなたのポータルは利用できんのか?」

「無理だ。せめて無効にポータルを出す場所を確認するビーコンがないと」

「なら仕方がない、今いるメンバーはすぐに出撃の準備じゃ」


 こうして玄公斎がすぐに出撃の用意を指示した――――その時、司令部に格納庫開放通知が鳴り響き、なんと「ビバ(略)」号が勝手に出撃しようとしているではないか。

 一大将は慌てて「ビバ(略)」号へと通信を向ける。


「誰ですか! 勝手に航空戦艦を動かしているのは!」

『ごめんなさい……大将、そして元帥閣下。私は止めたのですが』

「鹿島中将!? ということは…………」


 通信画面に顔を出したのは、若干申し訳なさそうな顔をする鹿島綾乃中将だった。

 彼女が出たことで、その場にいた人々は一瞬ですべてを察した。


『処罰は後でお受けするので…………』

『よう元帥閣下! ちょっくら地獄行ってくる!』

『私も修行の成果を見せるときが来たようだからな! 活躍期待しててくれよ!』

『高性能な私が付いていますので、ご安心ください』


「あやつら…………仕方がないのう。危なくなったらすぐに戻ってくるんじゃぞ」


 綾乃が映っている通信画面に次々に割り込んでくる問題児たち。

 勝手に出撃しているのは梶原鐵之助をはじめとする天兵団のメンバーと、船長のアンチマギア、そして操縦士のシャザラックらがいるらしい。


 どうやら、救援要請を受けた際に、第1天兵団たちが近くにいたようで、玄公斎たちの許可を待っていられないということで、シャザラックやアンチマギアたちを伴って勝手に出撃してしまったのだ。

 シャザラックは止めないどころか完全にノリノリであり、アンチマギアもあかぎが修行の疲れで爆睡しているのを起こしもせずに彼らについていったようだ。

 綾乃があのメンツの中にいるのは、止めることは叶わずとも、せめて手綱は握っておくべきだと判断したのだろう。


 こうして、玄公斎をはじめとする軍関係者たちの前で、「ビバ・アンチマギア・ブラック・タイダリア号」は、まるで国際救助隊サンダー〇ードの秘密兵器のごとく、カタパルトから勢いよく地上に発進していった。

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