似た者同士
「やったねシャインフリート君!」
「ヨネヅさんもトランも、力を貸してくれてありがとう!」
「いえーい!」
悪竜の気配が一掃されたことで辺りに静寂が戻ると、智白、シャインフリート、トランの
環は「かわいいわぁ」と思いつつ、それを遠巻きに眺めている。
「けど、せっかくのチャンスだったのにハイネを逃がしたのは残念だよ」
「せっかくあの時の借りを返すチャンスだったのに!」
とはいえ、悪竜王に痛い目にあわされた経験のあるシャインフリートとトランは、ハイネを直接討伐できる機会を逃したことをとても悔しがっていた。
先ほどの戦いのさなか、智白が途中までほとんど攻撃に参加しなかったのは、環の「天の恩寵」の効果を高めて、一撃必殺の攻撃力を得られるまで我慢していたのもあるが、それ以上に増援の二竜に意識を向けすぎてハイネの不意打ちを食らうことをずっと警戒していたこともあった。
(奴の気配は途中で完全に消えた。けど、相手はあの悪竜王、いつどこから突然現れるかわからない)
悪竜王がこの場からいなくなったことは初めからわかっていた。
智白は悪竜の作り出す亜空間の中にあっても、現実世界での自分の立ち位置を見失わないよう、驚異的な知覚力でずっとあたりを把握し続けていたのだ。
「それにしても、まさかあの偉そうなハイネが逃げ出すなんて、よっぽど僕たちのことが怖いのかな!」
「トラン、調子に乗らない。悪竜は普通の竜と違って人間並みに狡猾な奴だ。今回は竜のプライドより実利を取った…………戦略的撤退ってやつさ」
「それって逃げるのと何が違うの?」
「シャイン君、君もいずれ大人になったらわかるよ」
半永久的に子供の姿になってしまった智白にそんなことを言われても、違和感しか感じないシャインフリートだったが…………悪竜王はプライドを捨ててでも逃亡しなければならない状況に追い込めたことは確かだ。
その時ふと、シャインフリートはハイネが戦いのさなかでも固執した魔法陣のことを思い出し、改めて調べてみようとした。
「ヨネヅさん、魔法陣が……」
「ほとんど消えているわね。魔力は全部消えて、基礎しか残っていない。もしかしたらハイネは…………あの魔方陣に多くの力を注ぎこんでいたのかもしれない。それさえなければ、もしかしたら……」
魔法陣や結界にある程度詳しい環が改めて魔法陣を深々と観察すると、下書きとはいえかなり複雑な構成式と無茶な効果を実現するために編まれたものであることが判明した。
これだけ大規模な術式を起動するとしたら、人間ならそれこそ日向日和ほどの実力者でなければ一人では行えず、退魔士でもこれだけのものを扱えるかどうかは定かではない。
もしかしたらハイネはこの魔法陣の効果を維持しつつ戦っていた……そうなれば、彼はあの戦いで実力の半分かそれ以下の力しか出せていなかった可能性がある。
弱体化したとはいえほぼ全力で戦っていた智白とは対照的であり、もし仮に相手が全力であったら4人は今頃どうなっていたか、想像するだけでも恐ろしい。
「しかし、肝心の魔法陣の目的がわからないわ。術式の残骸から、空間転移を目的としていることは確かなのだけど」
「転移か…………ねえ、タマ姉さん、以前誰かから言われたんだけど、僕と
「シロちゃんとハイネが、似ている?」
「僕もそんなわけあるかと思っていたんだけど、もし仮にハイネが僕と同じ行動原理で行動していたとしたら、きっと相手を完膚なきまで叩き潰そうとするときも、同じような戦略を立てるはず。で、今僕はこうして、悪竜王の本拠地を無理やり襲撃して根源自体を叩き潰そうとした。であるなら、ハイネの目的はもしかしたら……………」
「……それってまさか!」
「帰ろう。嫌な予感がする。シャイン、トラン。申し訳ないけど、悪竜たちから解放した人たちをまとめてほしい。僕たちは急いで戻らなきゃいけない」
「わ、わかった!」
悪意の檻から解放された人間たちの引率をシャインフリートとトランに任せると、智白と環は急いできた道を引き返えす。
先ほどの戦いの余波なのか、地下遺跡はところどころ崩れていたが、智白と環の術で無理やりこじ開けて退路を確保する。
(なんだろう…………この遺跡自体も、わずかに振動している気がする。詳しく調べたいのは山々だけど、いまはそれどころじゃない)
実は地下遺跡自体にも異変が生じ始めていたのだが、それを調べている余裕はなかった。
やがて二人は複雑極まる迷宮を抜け出し、ヘキサゴン地下のエレベーターシャフトまで戻ってきたところで、答え合わせのように冷泉雪都と長曾根要の二人が姿を見せた。
「元帥閣下、緊急事態です」
「た、大変です! 本国から……首都上空に謎の巨大生物が出現したとの連絡がありました! その形状から察するに…………」
「やっぱりか………急いで阿房宮に戻ろう!」
智白の感じた悪い予感は、最悪の形で的中したようだった。
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