戦士たちの休日

 エリア8で仲間たちと合流した米津一行は、そこからまた二手に分かれて行動し始めた。

 米津夫妻は予定通りあかぎを迎えたほか、途中で騎士団の蘇生に貢献してくれたという愉快な仲間たちと共に本拠地に戻ることになる。


「本当にいいんですか、俺たちまで一緒に乗せてもらって」

「遠慮はしなくてよいぞ。どうやら海賊たちとあの騎士たちは、そのまま船の解体作業に入るらしいからのう」


 その一方で、アンチマギアとその部下の海賊たちは、生き返った騎士団たちに手伝ってもらい、海賊船の解体作業に入るのだという。

 生き返らせてもらったことで、騎士団たちも恩義を感じているらしく、かの王子様もなんだかんだでアンチマギアやナトワールたちと仲良くやっているようだ。

 いずれ彼らは解体作業を終えて、エリア1に戻ってくることだろう。


「エヴレナやレティたちはともかく、俺はあまり何もしてませんし」

「そうか……そう思う気持ちはわからんでもないが、おぬしもつかれておるじゃろ。こう見えてもワシらはホテルを経営しておってな、しばらく休んでいくとよい」


 出会ってまだ間もないハンター仲間に「うちに泊まっていけ」と言われ、若干委縮気味の日向夕陽。

 彼自身は帰り道の途中でエヴレナに「寄りたいところがある」と言われ、ついていったらたまたまアンチマギアに求愛されて、そのままほぼ成り行きでここまで来てしまっただけだと思っているので、自分が歓迎される意味が全く分からないのだ。


「どうして俺が疲れていると?」

「ははは、目の下にそのような大きな隈を作って、疲れておらぬとは言わせぬぞ」

「!」


 ここしばらく自分の身だしなみなど気にしていなかった夕陽だったが、彼はここ数日間ずっと戦いっぱなしで、宿に泊まったことが一度もなかった。

 近くにヴェリテがいてくれたとはいえ、身体が休まることがあまりなかったのだろう。また、玄公斎はあえて言及しなかったが、恐らく精神的な疲労もかなり続いていたのだろうということにも気が付いた。


「それにほれ、後ろの羊の上を見て見よ」


 振り返れば、一つ後ろをついてくる巨大羊の上では、環が手綱を取る後ろで、白埜やエヴレナ、ロマンティカがモコモコの羊毛に埋もれてぐっすり眠っていた。疲れているのは夕陽だけではないということだ。

 すやすやと気持ちよさそうに眠る女の子たちをみて、夕陽は改めて仲間たちにも無理をさせてしまったのだなと感じた。


「わかりました。あの子たちのために、休む場所をお願いします」

「それでよい。やはり自分のためならとことん我慢できるが、仲間が疲れていると分かれば、そうするほかあるまい。ワシとて同じよ。ああ、そうそう……あらかじめ聞いておくが、肩に乗っているお嬢ちゃん。好きな食べ物などはあるか?」

「…………?」


 ここでなぜか、玄公斎は夕陽の肩に乗っている和服の少女、幸に好物を尋ねてきた。

 幸は遠慮がちに、夕陽の耳元で何かをつぶやいていた。


「幸は和食なら何でも」

「なるほど、わかった。ならばおぬしも和食が好きなのじゃろう。帰ったら用意させるとしよう」

「爺さん……相当な狸だって言われることありません?」

「さてな」


 こうしてのんびりと話しているうちに、やはり夕陽は疲れがたまっていたのか、心地よい羊毛の上でそのまま目を閉じて眠ってしまった。



 ×××



「客人たちよ、到着したぞ」

「ん………久々にがっつり寝ちまった。到着したって…………ええええぇぇぇ!!??」

「……!!??」


 玄公斎の声で夕陽が目を覚ますと、目の前にとんでもなく豪華なリゾートホテルが堂々と鎮座しており、彼の度肝を抜いた。

 そして、主と一緒に熟睡していた幸も、彼が驚く声で跳ね上がるように目を覚ましたほか、ほかの人外の女の子たちも次々に目を覚ました。


「え! なにこれ! すごいすごーい!! おとぎ話のお城みたい! ティカここに住みたい!!」

「私知ってるぞ! こ、これは「びっぷホテル」っていうやつだ! 偉い人が宿泊するところだ! じゃあ私たちは急に偉くなったのか!」

「な、なにここ……私、場違いにもほどがあるんじゃないかな? どうしよう、お金も全然持ってないんだけど」


 素直に喜ぶ妖精、興奮する神竜、そしてお金の心配を始めるユニコーン。

 反応は様々だった。


「まったまった爺さん! てっきり旅館みたいなものかと思ってたけど、まさかこんな超高級ホテルだなんて……先に言ってくれよ! 俺たち金持ってないんだから!」


 あまりにも現実離れしすぎて、敬語で話すことを忘れるほど取り乱す夕陽。

 彼の心配はもっともで、最悪このままヤクザみたいに無理やりホテルに連れ込まれて、借金を背負わされるという可能性だってある。


「安心せよ。せっかくの客人じゃ、金はとらぬ。好きなだけ寛いでいくとよい」

「い、いや……けどよ、そんな虫のいい話があるか普通!?」

「そなたは中々苦労人じゃな。そこにいる神竜が泊まったというだけでも、当ホテルのネームバリューに箔が付くのじゃがな。ならば、対価として…………明日にでもそなたの世界の話を聞かせてもらえぬか。ワシも異世界の話が聞いてみたい故、その情報の対価と言うことで」

「異世界…………まさか、爺さんは俺たちは別の?」

「詳しい話は明日じゃ。部屋を用意する故、ロビーでのんびり寛いでおれ」


 こうして夕陽一行は玄公斎のホテルにしばらく滞在することとなった。

 夕陽だけでなく、白埜も別の同行者がおり、彼らがそのうち合流しに来ると言うので、それまでこの場所を貸すことにした。

(もっとも、彼らが望むならいくらでも使わせる気ではいるが)



「ようやく戻られましたか、元帥」

「ああ、今戻った。随分とホテルマンの格好が板についておるな、二人とも」

「好きでやっているわけではないのですが」


 いったん彼らと別れて別館にある自宅に戻ると、部下の二人――――冷泉雪都と長曾祢要が夫婦を出迎えてくれた。

 彼らは名目上このホテルの支配人代理となっているが、実際は裏で情報収集や裏工作などに当たっており、さらにはエリア1で発生する敵対生物の襲撃からホテルを守るなどしていた。

 実によく働く部下たちである。


「元帥たちが連れてきた者たちは?」

「ふふふ、聞いて驚かないでね。あのこたち、どうやら別世界の日本から来たらしいのよ」

「別世界の……」

「日本!?」


 雪都と要は信じられないと言った表情で、お互いに顔を見合わせた。


「ああ、それ以外にもあの角と尻尾がある女の子は、伝説上の生き物である竜……その中でも非常に珍しい神竜じゃと」

「白い髪の毛の女の子は、自分からは言っていないけれど、ユニコーンね。それに、妖精までいるわ」

「それはそれは…………この世界に来てからは驚きの連続ですが、こういっぺんに来られますと脳が追い付きませんね」


 米津たちの世界でも、竜や妖精、ユニコーンなどはいないわけではなかったが、今ではほとんど姿を消しており、存在は過去のものになりつつある。

 人類と共存を選ばなかった「魔の物」は、全てこの世から消し去ってしまったのだから。


「とりあえず、詳しい話は明日以降に彼らをじっくりもてなしながら話してもらうとする。それが対価、というのもあれじゃが、彼らに大き目の部屋を二つほど用意してやってくれ。いまはあかぎが面倒を見てやっているからな」

「あと、夕食の準備をすぐにお願いしたいわ。それも、和食でお願いね。あの子たち、ここまでほとんど休んでいないみたいだし、あかぎもすごくお腹がすいているみたい」

「承知しました。料理長に和食ビュッフェの用意をさせます」

「うむ、頼んだ」


 こうして、玄公斎たちはスタッフを動員して部屋を二つ用意すると、今のところは便宜上男子部屋(1人と座敷童)と女子部屋(人外3名)に分けて案内させた。


「嘘だろ……俺の家より広いんじゃないか、これ?」


 エントランスにいた時から、すでに高級感バリバリだったが、いざ部屋に案内されるとその広さと内装の奇麗さに圧倒されるしかなかった。

 ちなみに夕陽は知る由もないが、彼にあてがわれた部屋は、かの「トルトル魔人」が放置されていた場所であった。勿論あの地獄のような悪臭は、影も形もない。


 大きな窓から外を見れば、ベランダに小さなプールがあり、そのさらに向こうにはクリアウォーター海岸の奇麗な砂浜が広がっている。

 室内は、残念ながらテレビはなかったが、それ以外のアメニティは一通りそろっており、ベッドもまるで王様が使うかのようなとんでもない上等なものだった。


 部屋が広いだけでなく、ホテル自体も施設が充実しており、屋上には大浴場が整備され、海岸ではそのまま泳ぐこともバーベキューもできるし、遊技場やカジノまで併設されている。

 また、ホテル直営の高級レストランが10軒と、カフェテラスが5軒、さらには医療施設やジム、ハンター向けの武器整備サービスなどなど…………もはやホテルと言うより、ちょっとした遊園地になってしまっている。


「御用の際は、呼び鈴がありますので、そちらで要件をお申し付けください」

「あ……あぁ」


「ねー! ユーくーん! おっきなお風呂があるって! 一緒に入ろー!」

「私はお腹がすいたから、まずはご飯が食べたい!」

「や、やっぱり、お金大丈夫かな?」


 無邪気にはしゃぐロマンティカとエヴレナ、まだお金の心配をしている白埜。

 夕陽はしばらく彼らの御守りをしながら、この分不相応な高級ホテルで仲間の合流を待つのだった。



 ※ソルト様にお知らせ

 だいぶ長く借りちゃいましたが、一応これ以上場所移動はさせないので、宿代稼ぎに行くなり合流して一休みするなりしてください。

 一応、このあともう1話(か2話)ほどおじいちゃんたちとお話することになりそうですが、その辺の整合性とかはあまり気にしなくていいと思います。


 あと、ほかの人たちも気軽にホテル利用していってくれると嬉しいですが、米津さんたちに話し通しておかないときちんと料金取られる点だけには注意してください。(別のコネを使うのであれば話は別ですが)

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