鉄血! 米津道場! その11

「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!! 爆砕爆砕! バクサイバクサイバクサイサイ!!」

「くそっ、なんて火力だ!? もうほとんど怪獣クラスじゃねぇかこれ!!」


 修行期間もそろそろ半分に差し掛かかる頃――――夕陽はこのところ連日のようにあかぎと模擬戦闘訓練を行っていた。

 基本的あかぎは攻撃が単調ゆえに、夕陽にとって見切るのはそう難しくないのだが、ここのところの厳しい修行に加え、あかぎは自らの能力を制御出来てきたのか、日を追うごとに攻撃力が急激に上昇してきているのを感じた。


 刀の素振りから繰り出される熱波は、下手な火竜のブレスに匹敵するほどで、あかぎが刀を振り回すたびに周囲が炎上する。

 そのため、夕陽は水術を駆使して爆風を打ち消すとともに、人間離れしたあかぎの攻撃を受け止めるために、幸の憑依の度合いをどんどん深めていく。


(今は500倍だ……これでも足りないのか! 幸、まだいけるか?)

(っ…………)

(悪いな、毎日世話になりっぱなしで)


 倍加によってより能力を高め、今まで修行で培った動きも併せて、繰り出される炎の嵐をギリギリでかいくぐる。

 あまりにも早すぎて、炎が体をかすめているにもかかわらず、熱も痛みも感じない。そして、ほんのコンマ1秒にも満たない間にあかぎの背後へと回り込み、気が付かれて反撃される寸前で、彼女の刀を手から弾き飛ばしたのだった。


「ちょわっ!? あたしの刀が!?」

「っし! 悪いな、今回も俺の勝ちで……痛っっ!!」


 刀を弾き飛ばされて戦闘不能判定となったあかぎだが、彼女自身はまだぴんぴんしていた。

 それに引き換え夕陽は、勝ったにもかかわらず傷だらけで、しかも先ほどの攻撃をかいくぐった傷が時間差で彼に痛みを齎した。

 これではどっちが勝ったかわかったものではない。


「お疲れ様です夕陽さん。いつもの高性能な傷薬です」

「サンキュー……俺ももっと攻撃を避ける努力をしなきゃな。憑依してると、幸にも痛みがいくし」

「…………」


 シャザラックからいつものように傷薬を受け取り、幹部に塗り込めると、あっという間に傷が治っていく。


「おじいちゃん、あたしまた負けちゃった! やっぱり早さが足りないのかな?」

「今のは早さでどうにかなるものではない。技量と判断の問題じゃ。それよりあかぎはひたすら火力を上げることに専念せよ。細かい技術は今は後回しじゃ。100の力で倒せぬからといって安易に小細工に頼ってはならぬ。100の力で倒せねば、1000の力で倒すのじゃ」

「はいっ、わかりました!!」

「それもそれでどうかと思うんだが……」


 あかぎは玄公斎から、もっともっとパワーを出せるようになれと指導している。

 そんな脳筋な指導でいいのかよと思うかもしれないが、玄公斎的にはあかぎは修行していくたびに急激にパワーが伸びるため、中途半端な時期に技術を教えても、すぐに使い勝手が変わってしまい身につかないと考えているからである。

 現に、あかぎがパワーを高めるごとに夕陽は攻撃を受けにくくなっており、もうすぐで押し切られてしまうのではと危機感を抱いている。


「それに、これ以上、毎日幸を酷使するわけにはいかない…………少し休ませて、別の修業をすべきか」

「っ!」

「いや、お前には無理はさせたくない。ただでさえ修行に付き合わせて悪ぃと思ってるのに、幸にばかり頼っていたら、俺も強くなれないからな」


 そんなことを話しながら水分補給をする目の前で、こんどは玄公斎があかぎと打ち合っていた。

 夕陽は毎日のように玄公斎の動きを目に焼き付け、少しでも盗める技がないか見極めようとするものの――――


「もっとじゃ! もっと全力で打ち込んでこんか!」

「ぬおおおぉぉぉぉっっ!! 爆砕爆砕!!」


 手に持っている木刀が、どことなく円を描くように動くと、不思議なことにあかぎの斬撃も、炎攻撃も、明後日の方向に逸らされてしまう。

 それだけでなく、炎の中を強行突破して見せても、普通なら服に引火するはずの炎がなぜか燃え移らない。

 リヒテナウアーとの戦いで見せたあの動きは、今となっても若い者たちから見て理解不能だった。


「なんだよあれ、いつ見てもインチキくせぇなぁ」

「アンチマギア……」

「あの爺さんはひたすら座禅して自分に向き合えとかいうけどさ、本当に教えてくれんのかねぇ」


 基礎トレーニングを終えたアンチマギアも、あかぎがボコボコにされていく様子を夕陽と一緒に見るが、彼女をしても玄公斎の技は意味不明としか言いようがなかった。

 そんなアンチマギアも、最近は修行の成果からか向こう見ずな性格が、徐々におとなしくなっているような気がした。

 初めのころは夕陽を見る視線に下心のようなものを感じ、幸が不快になることが多かったが、今は不思議と図々しさが鳴りを潜めている。


「で、お前はこれからまた「自分自身」とタイマンすんのか?」

「いや、今日は念のため休んでおく。最近幸が疲れ気味なんだ」


 連日のあかぎとの対戦で、ほぼ毎日のように300倍以上の倍加をかけているのだから、それを支えている幸の消耗も激しいらしく、存在が徐々に消耗しているのを夕陽は痛いほど感じている。


「本当は俺の力だけで勝てるのが一番いいんだけど、俺の場合、幸込みでの戦い方の訓練だからって、あの爺さんが」

「そうか、まあその嬢ちゃんのことは夕陽が一番わかってんだろうからな。私はこいつの顔を見てもよくわからんし、何をしゃべっているのかもさっぱりだ」


 そんなこんなで、夕陽はこの日は深い瞑想はせず、軽く調子を整えるだけにとどめた。

 幸自身はまだまだ頑張れると言っているが、明らかに無理していることは分かっている。



 しかし、その日の夜――――夕陽が深い眠りにつくと



「よう。今日はさぼりか? 俺の方からきてやったぜ」

「……! 俺の偽物……さぼってるわけじゃねぇよ。幸の調子が悪いんだ、今日はパス」

「ふぅん」


 いつも精神世界で引き分けているもう一人の自分が、まさか夢の中にまで乗り込んでくるとは。

 そのうえ、今日のもう一人の夕陽は、どことなくよくない雰囲気を纏っている。


「幸」

「っ……」

「は? 幸がもう一人!?」

「……!!」

「何度も言っただろう、俺はお前だと。ゆえに、俺にも幸がも不思議じゃないだろ?」


 言われてみれば当然(?)のことだが、夕陽はなぜか今までその可能性に思い至らなかった。

 道理で、時分に倍加術を掛けたら相手も同じになるはずだ。


 だが、そうこうしているうちに、向こう側にいる幸が突如としてこちら側に転移したかと思うと、こちらの夕陽の肩に乗る幸の手を握り――――――そのまま二人ともどこかに消えてしまった。


「え!? さ、幸っ!! 一体どこに!?」

「だますようで悪いが、幸にもそれなりに修行をしてもらおうと思ってな。俺たちの世界に連れていくことにした」

「待て! 何勝手なことを!!」

「取り戻したければ……まで来てみろ」


 そういうや否や、もう一人の夕陽の背後に、桜の舞う神社の境内の景色が浮かび上がり、揺らめきとともに消えていく。

 夕陽は慌てて追おうとするが…………



「……! また変な夢を見たな。幸が連れていかれるとか、縁起でもな――」


 夢から覚めた夕陽。

 ふと横を見ると……寝る前まで一緒だった幸がいなくなっていることに気が付いたのだった。

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