鉄血! 米津道場! その1
ホテル阿房宮の裏庭で謎の大規模工事があったその次の日――――
朝早くから、4人の若者がある施設の前へと呼び出されていた。
「皆の物、強くなりたいか!!」
「「お、お~……」」
「声が小さい!! 若者ならもっと腹から気合を入れよ!!」
『おーっ!!』
「よろしい! これからおぬしらは、丸1日徹底的に修行に励むのじゃ! その内容は時として地獄もかくやという厳しいものになることもあるじゃろう。しかし、この試練を乗り越えた暁には、そなたらは見違える強さを得られることを保証しよう」
高らかに声を上げる玄公斎の前には、4人の若者が集っていた。
いつものフード付きコートではなく、体操着(それもブルマ)を着用しているあかぎと、なぜかまだ全身包帯でぐるぐる巻きのアンチマギアに加え、先日服を新調したばかりの夕陽と、ジャージを着用している遥加――――
そして彼らの目の前には、まるで巨大なお寺を思わせるような、この世界に似合わない純和風の建物が聳え立っていた。
「一日かぁ……そんなに短い間に強くなれるのかな?」
「なれるかじゃない! なるんだよあかぎィ! 地獄の修業が何だろうと、気合で乗り切って見せるぜぇ!!」
1日という短時間に疑問を持つあかぎに対して、アンチマギアはやる気満々だ。
「というかアンチマギアさん……でしたっけ? 火傷が治ってないなら、無理はしない方がいいんじゃないかな?」
「ああ、これか」
ここでふと遥加が、包帯ぐるぐる巻きになっている赤髪の女を見てそう言ったが――――
「これはな、私なりのファッションだ」
「ファッション!? えと、中二病か何かでいらっしゃいますか?」
「くっくっく、私はそんなおこちゃまとは違うんだぜぇ! 考えてみろ、この包帯の下は、なんだと思う?」
「え? それは……皮膚?」
「そうだ! そしていま私は服を全く着ていない、すなわち全裸!! にもかかわらず、恥ずかしさは一切なし!! まさに合法全裸というわけだ、どうだ参ったか!!」
「変態だ! 変態がいるわ!?」
遥加はとある理由からアンチマギアのことを複雑な気持ちで見ているが、まさかこんなに支離滅裂な人間(?)だとは思ってもいなかっただろう。
その一方であかぎは、夕陽の顔に想像以上の緊張が現れていることを悟った
「どうしたの夕陽君、緊張してる?」
「あぁ、うん……ちょっとね」
ほかの3人よりも先に修行場のことを教えられている夕陽としては、この建物の中に入ることが何を意味するのかをある程度知っていた。
かといって内緒にしてほしいと言われているので、迂闊に話すこともできない。
そんなぎくしゃくした態度の夕陽に、早速アンチマギアが目を付けた。
「おっ、おっ、どうした少年? お姉さんが全裸だと気が付いて、おっ立てちゃったか? 遠慮せずにもっと見てもいいんだぜ?」
「ちょっ、やめろって!」
「……っ!」
「これ、早速気が緩んでおるぞ」
「いてえっ!?」
手をワキワキとしながら迫ろうとする全身包帯女のアンチマギアを、早速玄公斎が竹刀でぴしゃりと打ち付けた。
しかも、アンチマギアの効果範囲内になるべく入らないよう、動きがほぼ一瞬で誰も見えなかった。
(もしかしてあたしも、今のお爺ちゃんみたいなことができるようになる!? そうすれば、あのリヒテナウアーにも勝てるかも!!)
そうポジティブに解釈し始めたあかぎは、玄公斎の許可を得て早速盾も内に入っていく。そんなあかぎを追うように、遥加やアンチマギア、夕陽たちも続々と建物中に入っていくのだった。
「すごい、なんだか思っていたよりもすごく広い」
「本当ね。ホテルの敷地と同じくらいあるんじゃないかな? なんだか異空間っぽいし」
あかぎと遥加が感じた通り、建物の中はまるで外とは別次元なくらい広く感じたし、実際に遥加は入った瞬間に空間が切り替わるような感覚を感じた。
「さて諸君、「米津道場」へようこそ! そなたらはここで暫く共同生活を送ることとなる。とはいっても、男と女である程度は分かれるがな。施設の説明は追々行うとするが、あらかじめ簡単な規則を説明しておく」
まず米津から、修行中の規則について説明された。
・修行中は道場から出てはいけない
・師匠である玄公斎の言葉は絶対
・食事は好きなだけ食べられるが残してもいけない
・ホイッスルが鳴ったら何があろうと1分以内に中庭の所定の位置に集合
・喧嘩両成敗
「守らぬ場合は相応の罰があると思え。わかったな」
『はいっ!』
「よろしい。ではさっそく、今日の前半は軽い準備運動と基礎トレーニングから始める」
こうして、玄公斎が主導する修行が幕を開けた。
夕陽以外が拍子抜けしたのは、初めのうちは本当に「軽め」の訓練だったことだった。
30分ほどかけて準備運動した後は(それでも一般人ならこの準備運動でばてるくらいの運動量はあるが)、異空間化した道場の外周を全員でランニングした。
「ファミコンウォ〇ズがでーるぞ!」
『ファミコンウォ〇ズがでーるぞ!』
「こいつはどえらいシミュレーション!」
『こいつはどえらいシミュレーション!』
意味不明な掛け声とともにひたすら駆け足。
ただ、1時間程度するとさすがにばてるメンバーがいるので、途中で休憩と給水をはさみつつ、お昼になるまで徹底的に走り込んだのだった。
「はぁっ、はぁっ……戦いよりましとはいっても、あんなに長いランニングは疲れるな」
「ほふはへ! ほははすひへひはははふへ」
「あかぎちゃんは食べながらしゃべらないで」
「しかし、本当にこんなんで強くなれるのか? この程度で強くなれるなら、私は一日中でも走ってやるけどな」
疲れた分しっかりと昼食を摂った4人は、続いてほとんど何もない畳の間へと連れてこられた。
「午後は精神鍛錬の基礎として座禅を行う」
「ざぜん?」
「なんだそれは、新しい武術か?」
「夕陽君、見本を見せてやってくれ」
「あのね二人とも……座禅っていうのは、こういう風に足を組んで、目を閉じて瞑想するんだ」
「え? それだけ?」
「ただ座るだけなら楽勝だろ!」
「……言ったわね。きちんと最後までやり抜くのよ?」
そもそも「座禅」とは何かを知らないあかぎとアンチマギアに、夕陽が姿勢から実践して見せた。
彼は時々精神調律のために瞑想することがあるので、座禅程度なら慣れたものだった。
遥加はこの二人には無理だろうなと思いつつも、とりあえず途中で投げ出さないようくぎを刺したのだった。
こうして、畳の上で各々足を組んで座禅を始める…………が、開始1分で
「「ぬああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」
「!?」
「え、もう限界!?」
あかぎとアンチマギアが「動かないこと」に我慢できず、絶叫してしまう。
「くっ、これがザゼン……恐ろしい!」
「なんて苦しい修行……あたし、心折れそう」
「強くなりたいんでしょう、ほらほら精神統一するの」
「大丈夫かなこの二人……」
「……」
こんな調子では、とても精神統一どころではなさそうだった。
「前々から思うておったが、二人は我慢がきかんな。じゃが、そのような精神では己を律することなどできぬ。気合じゃ、気合を入れよ」
「「ぐぬぬぬぬ」」
(元帥もなんだかんだ言って精神論者なのかな)
異世界の日本とは言え、日本史で習った旧日本軍のことを考えると、米津元帥も似た者同士なのかと思ってしまい、ちょっと複雑な気分になる夕陽だった。
「しかし遥加。おぬしは自分から参加すると言っておったが、その割には心が此処にない感じじゃな」
「……すみません、気を付けます」
「いうておくが、自分が変われるかどうかは結局のところおぬし次第じゃ。ゆめゆめ忘れるでないぞ」
こうして午後5時間は、4人はひたすら座禅をさせられた。
長時間の沈黙となれない足の組み方のせいで、あかぎとアンチマギアは終了後にのたうち回っており、しばらく立ち上がれなかった。
「あいえぇぇぇぇ……」
「あしが、あしがぁっ!」
「ほらみなさい、座るだけって案外きついんだからね。ほら、つんつんつんつん」
「ウボアーーーー」
「ははは、誰しも初めのうちはそんなものじゃ。さて、夜にも鍛錬がある故、一度風呂場で汗を流し、夕食を食べてくるとよい。言っておくが、明日の修業はもっときついぞ」
ここであかぎが、玄公斎の言葉に違和感を感じた。
「あれおじいちゃん、修行って1日だけじゃなかったの!?」
「そ、そうだ! 私も1日で強くなれるって聞いてたぞ! 話が違うんじゃないか爺さん」
「あの、ひょっとして米津さんがいう1日の修業っていうのは…………」
そう、あかぎたちは事前に「丸1日の修業」聞いていたのだ。
にもかかわらず、明日も修行をすると玄公斎は言う。
「そうじゃそうじゃ、歳のせいか言い忘れておった」
玄公斎はわざとらしくとぼけて見せる
「この道場は外の世界と時の流れが違うのじゃった。正確には、この道場で1日経過しても、外の世界では4分しか経過せぬ。それが何を意味するのか、言わずともわかるじゃろう」
「えっ、てことは1日で4分だから……60分だと15日?」
「それをさらに24倍すればいい……のか? あ、暗算だと難しくね?」
「答えは360だ。つまり僕たちは、約1年この道場で修行しなくちゃならないんだ」
「「「な、なんだってー!」」」
女の子たちの叫びぎ声が道場全体に響き渡る。
地獄の修業は、まだ始まったばかりだったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます