地獄の建設も金次第

「えっ!? 今日一日は遊んでいいの!?」

「うむ、修行を行うといったが、せっかくじゃから可能なことをすべて行いたい。1日ほど準備が必要になる故、おぬしらはしばらく羽を休めておれ。ただし、明日の朝までに万全の調子でいなければ承知せぬぞ」

「爺さん話が分かるな!! よっしゃ、私はもうひとっ風呂ぷろ浴びてくるぜ!」


 修行を命じられたあかぎとアンチマギアは、何を叩き込まれるか戦々恐々だったが、その前に丸1日休みをもらったことで、あっという間にホテルの方へ走って行ってしまった。

 なんだかんだ言って、彼女たちもまだ遊びたい盛りなのだ。


 しかし、女子二人とは異なり、困惑気味な参加者がいた。

 日向夕陽だ。


「あのー……本当にいいんですか? 俺、てっきり今日すぐに修行に入るかと思って」

「相変わらず休むのが下手じゃなおぬしは。まぁ、ワシが言えた義理ではないがな! カッカッカ!」


 元々激戦慣れしている夕陽は体の回復も早いのか、心身ともに疲れはほとんど残っておらず、健康体そのものである。

 しいて言うならば、体にまだ刻印を刻んだ跡が残っているので、ビーチで肌を曝したら不良と間違われるかもしれないという疑念はあるが…………


「まあ、おぬしには休めという方が酷じゃろう。アルムエイドをはじめとする命知らずたちが、セントラルに向かって行った直後じゃから、焦る気持ちもあるはずじゃ」

「…………やっぱりあなたに隠し事はできそうにない」

「…………」

「どうやらお嬢ちゃんも同じ気持ちのようじゃな。では、気晴らしに今日はワシに付き合え」


 こうして玄公斎は、夕陽を連れてホテルの敷地の一角へと向かった。

 そこでは、今まさに大規模な工事が行われている真っ最中で、工事現場の正面にはシャザラックと、久しぶりに顔を見せた金融屋のフレデリカがいた。


「どうじゃ、工事は順調か?」

「はい、おかげさまで。あなたの国の軍人は高性能ですね。これほどまでにしっかりとした設計書と構成図を提出していただけるとは」

「何を作ってるんですかこれ? 新しいリゾート施設ですか?」

「いや、これは道場を作っておるのじゃ」

「道場!!」

「……っ!」


 玄公斎が1日だけ準備が必要といった理由が分かった。

 彼は、修行のための訓練施設をシャザラックに作らせていたのだ。

 アンチマギアの船を僅か1日で作り上げたシャザラックの腕を見込んでのことだろうが、建物を1日で作り上げるなどやはり無茶苦茶だ。


「っていうかこの悪魔がいるということは、米津さんまた借金増やしたんですか?」

「……」

「そう心配するのも無理はないが、気にすることはない。昨日まで借りていた金は、シャザラックが勝手に増やした分も含めて全部返済した」

「まさか本当にこの額を全部耳そろえて返してくれるなんて、私も思わなかったワ。正直な話、もっと長い間借りてくれれば、莫大な利息収入があったのに、ちょっともったいなかったワ」

「本人の前でそれを言うのか……というか、お金はどこから?」

「常夜幻想郷で討伐した竜どもの遺骸が思いの外高く売れてのう。それに、時空竜の身体や部品も、あの魔女に許可を得てすべてリサイクルさせてもらった。誰も戦利品の所有権を主張せんかったからな」

「やっぱ……軍人さんって色々目ざといんですね」

「まあ、一度借りた金を返したはいいが、どうもまた金を借りなければならぬようじゃから、これはいわば借り換えという奴じゃな」


 一応夕陽も、時空竜討伐をはじめ、いくつかの賞金首を撃破ないし無力化しているうえに、ヴェリテが賞金にこれっぽっちも興味がないため、すでにかなりの額を稼いでいるのだが……………

 軍人の金銭感覚、というか経済感覚はやはり一般人のそれと比べて良くも悪くも徹底的だなと感じた。


 玄公斎の言う通り、今まで戦ってきた竜たちの素材は、大瀑布周辺に住む大富豪や貴族たちにとにかく高値で売れた。

 無駄に金をため込んで肥え太った彼らには、吐いて捨てるほどある金を気持ちよく使えるための場を用意させてあげた、というわけだ。


 もっとも、それ以上に玄公斎やシャザラックにとって重要だったのは、時空竜のコアとなる部品の数々だった。


「それにしても、天然物のが手に入るとは、とても幸運でした。あれらの部品は、この道場を作る上でなくてはならないものですから」

「うむ、快く譲ってくれたカルマータ殿には感謝してもしきれぬ」

「えっと……道場に時空竜のパーツを組み込んでるんですか? まさか、あの竜の模倣品クローンを作る、とか?」

「そうじゃな、せっかくじゃから夕陽君だけにはこの施設の意図を教えてやろう。くれぐれも、ほかの者には内緒じゃぞ」


 玄公斎は、この場にいる3人(+座敷童1体)だけに聞こえるように、小声でこの施設の真の意図を語ると――――夕陽と幸の顔色がたちまち青褪めていった。


「え……まってください、本当に!? 本当にやる気なんですか!?」

「はっはっは、喜んでくれたようじゃな。夕陽君のような男の子は、一度は憧れるものじゃろう!」

「確かにそうかもしれませんけど、喜んではいないです……」

「というわけじゃから、フレデリカよ。おぬしには諸々の物資の買い出しを頼みたい」

「オーケーオーケー! フレデリカ金融にかかれば余裕なんだワ」

「夕陽さんも楽しみにしていただけるようで何よりです。私もこの高性能な腕によりをかけて、精魂込めて作り上げて見せます」

「あ、ああ…………俺も楽しみにしてるよ」


(これは、思っていた以上にヤバイ修行になりそうだ……大丈夫かな、俺?)

(……っ)


 建設中の「道場」の中身を知った夕陽は、より一層の覚悟が必要だと改めて感じるとともに、本気で万全の体調を整えなければならないと感じた。


 この後、修行志願者がまたさらに1人増えることになるが、その間にもホテルの一角では、未熟者たちを鍛えなおすための鬼のような施設が、着々と建設が進んでいくのだった。



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現状のブートキャンプ参加者一覧

・日向夕陽

・叶遥加

・あかぎ

・アンチマギア

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