フロンティアの嵐作戦 11

 シャインフリートたちがようやく智憲を倒し、ゲリラ戦による被害を鎮静化したころ…………ルヴァンシュを無力化したことで、ミノアたち竜人部隊は慣れない激痛から解放され、体勢を立て直すことができた。


「くぅぅ、世界はまだまだ広いな! あたしの知らない強敵が、こんなに沢山いるなんて! けど、おかげで「痛み」には少し慣れてきた気がする。……まだちょっと、あっちこっちがジンジンするけど」


 まだ少し痛む体を時折さすりながらも、横槍がなくなったことで再び天使の掃討に移る。もはや厄介な敵は残っておらず、時折上級天使が放ってくるビームも、さほど脅威にならない。

 本体が大天使を追い詰めている今、ミノアたちも負担を減らすために積極的に天使たちを減らしていく。


 油断はしていない。敵はいまだに数えきれないほどいる。

 すべての脅威を取り除き、平和を取り戻すまで気を抜かない……はずだった。

 ミノアの部下が異変を察知したのは数分後だった。


「ひ、姫様っ! たたた、大変ですっ!!」

「どうしたの!? また何か強大な敵が出てきたの!?」

「ち……ちがうんですっ! いなくなったんです…………捕えていたあの男が!」

「えっ」


 捕えていたあの男――――すなわち、ルヴァンシュの姿が消えた。

 あわてて駆けつけてみると、確かに光の輪で捕らえて無力化して転がしておいたはずのルヴァンシュがいない。

 もちろん、もしものことがないように、竜人の何人かに見張りをつけておいた。

 とどめを刺さなかったのは慈悲ではなく、痛みがなく処断できる方法が見つかるまで後回しにしていただけだ。


「いったいどうやって逃げたというの……!?」

「それが信じられないことに、影がまるで沸騰するように沸き立って、そのまま地面の中に…………」

「わ、私もみました! 本当です!」


 どうやら見張っていた部下たちの話では、ルヴァンシュの身体は地面に映っていた影に飲まれてしまったようだ。

 そのようなことができる相手の心当たりは一つしかない。


「まさか、悪竜王が…………嫌な予感がするわ」


 おそらく悪竜王自身が何か良からぬことをたくらんでいるのだろう。

 そして、ミノアの予感はすぐに最悪の形で的中することとなった。




 そのころ戦場の中央では、いよいよもって大天使サリエルの劣勢は明らかになっており、第1天兵団をはじめとした主力軍の攻勢はもう一押しで相手を撃破するところまで追いつめていた。


「しぶといわね……あれが噂に聞く「神性介入」か。データ上の耐久力から逆算すると、もうとっくに木っ端微塵になってもいいはずなのに」

「ふぇっふぇっふぇ、とはいえ奴はもはやただのサンドバックじゃ。百発殴って倒れぬなら千発殴って倒すまでよ」


 正直なところ、大天使サリエルの強さはその豊富な植物を操る能力と、女神の力で無理やり底上げされた耐久力だけで、戦闘の経験があまりないと思われた。

 百戦錬磨の退魔士たちからしてみれば、動きが緩慢で隙だらけであり、さして強敵と感じなかった。


 そんなとき、綾乃中将が持っていた通信機から緊急の連絡が入った。


『みんな、気を付けてっ! さっき捕まえた悪竜の眷属がいつの間にかいなくなってるの!』

「!! その声はミノアさんね! 逃げられてしまったというの?」

『いえ、もしかしたら悪竜王が直接回収したのかもしれない。だから、何か仕掛けてくるかも――――』


 通信機の言葉が終わらないうちに、綾乃の目の前で異変が起きた。


「まってミノアさん…………大天使の様子がっ!」



 変化は突如訪れた。

 無数の植物に包まれてひたすら防御に徹していたサリエルの体表が急速に黒く染まり始め、翼が崩れ落ち、天使の輪がボロボロと崩れ落ちた。


「お、なんだなんだ、自爆かコンニャロ! テメエの拳では死なねぇってとこか?」

「それとも第二形態ッスかね? もう一回殴れるなんてサイコーじゃないっスか!」

「よっしゃ、お望み通りもっと射杭砲をぶちこんで…………うん?」


 まず変化に気が付いたのは、真正面で殴り合をしていた第1天兵団たちだった。

 まるで堕天使たかのような変化に、自爆かそれとも第二形態かといぶかしがったが、それでもなお攻撃の手を緩めない。




 次の瞬間、地面から猛烈な勢いで黒くて太いツタのようなものが無数に生え、サリエルがいた場所を中心に、周囲の敵味方問わず巻き込み始めた!


「な、なんじゃこりゃああぁぁぁっっ!!??」

「畜生、第二形態だっ!?」


 第1天兵団たちの大半は鐡之助も含めてあっという間にツタの嵐に取り込まれていった。

 そして、次に異変に気が付いたのがやや後方で指揮をしていた綾乃や春江軍医たちと、そのさらに後ろで玄公斎に代わって全体の指揮を執っているにのまえ大将の中核軍団だった。


「くっ、なんだこれは!? 敵の大技!?」

「いかん……あの馬鹿どもが飲み込まれた! 急ぎ退避させるのじゃ!」

『防護結界を緊急展開します。すべての部隊は速やかに結界内に退避してください』


 まるで津波のように荒れ狂う無数の蔦が綾乃たちの眼前まで到達しようとしたが、間一髪で一大将が展開した超広範囲の結界に阻まれ、難を逃れた。


 その間にも、まだ大量に残っている天使たちを取り込みながら、黒いツタの塊は成長を続ける。

 大天使サリエルがいた場所は特に成長が著しく、まるで大木が早送りで成長するかのように肥大化していき―――――やがてそこには、雲を突くような巨大な恐竜のような物体が姿を現した。


 黒抗兵団の面々が唖然とする中、どこからか老人のような声が聞こえた。



『ククク……おぬしらにとってこの天使は役者不足だったようじゃな。ゆえに、この悪竜王ハイネが、特別に歯ごたえのある相手に代えてやった。ありがたく思うのじゃな……』


 女神の力と悪竜王の混沌が入り混じった、史上最悪の殲滅災害が襲い掛かる。



【今回の対戦相手 その3】殲滅怪獣『アースエンド』

https://kakuyomu.jp/works/16817139557628047889/episodes/16817330647931401558


アースエンドに以下の能力を追加


・吸い取る黒根

 体の一部を形成するツタでからめとった生物の体力を吸収して、自らの体力の一部とするほか、吸収した生物の特殊能力を一部使用可能になる。


消去イレイサーブレス

 女神の能力と悪竜王の力が混ざって変質した史上最悪のブレス。

 ほぼ無色透明に近いうえに、掠っただけでも細胞が死滅して崩れ落ちる非常に危険な攻撃。

 また、金属にも有効で、直撃した物質を分解してしまう効果もある。


・破壊と再生

 悪竜王の力により、再生力はそのままに昼間にも活動が可能となった。

 また、夜になっても月が出ていれば無償の再生が可能となる。

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