天の死闘 地の苦闘 14(VS竜王軍)

 環たちの世界では「魔の物」という超常的存在に対し、そこまで極端な力を持たなかった人間の対抗策は限られていた。

 腕力でも、魔力でも、体力でも、頭脳でも、寿命でも――――能力で人間が魔の物に勝てる部分はほとんどない。


 だが、圧倒的に勝っている部分もある。

 それは「繁殖力」と「社会性」だ。


 魔の物はその圧倒的な力と、長い寿命の代償として、一度やられてしまうと数がなかなか回復しない。

 その一方で、人間は何度やられても、しぶとく生き残って数を増やしてくる。

 そんな人間たちが「魔の物」に対抗するために生まれた技術の一つが『陣形』と呼ばれるものだった。

 これは、一定数の人間が規則的に並ぶことで、疑似的な魔力回路……つまり「魔法陣」を形成し、陣形を形成する人間たちの合計で攻撃や防御を行うという発想であった。


 とはいえ「陣形」を組んで実際に戦闘するというのはなかなか難しい。

 危険な戦場で素早く必要な陣形を形成し、維持するのはかなりの訓練が必要で、また一部でも集中力が途切れてしまうと陣形は崩れてしまう。

 人数が多くなればなるほど、陣形の効果は上昇するが、それに比例して動きも複雑になるし、統率が難しくなる。


 しかし、もしも人間を無理やり整然と動かすことができれば、どうなるだろうか?

 その答えが、今まさに目の前で繰り広げられているのだ。


「陣形『サルタイアー』展開! 構え、放て!!」


 100人単位のメンバーが6組ほど動くと、上から「※」のように見える陣形をくみ上げる。

 そして、中心にいる魔法が使える者が一斉に得意の魔法を放った。

 火球、氷の槍、真空波などが陣形の効果によって威力が底上げされ、リヒテルめがけて次々に直撃していく。

 放った魔法自体はどれもこれもそこまで上等なものではないが、規則正しくくみ上げられた陣形が効果を発揮し、実に通常の32倍というとんでもない威力になる。


『こ、こんな雑魚どもの攻撃が!? ありえん!!』

「うふふふ、これは夢じゃないわ、現実よ」

『クソッタレ!! こうなりゃお前らの数を減らしてやるぜ!! ヌオンリャッシャウオルルルァァァァァァ!!!!』


 このままでは押し負けると感じたのか、リヒテルはさらに出力を上げ、雷を降らせまくった。

 おそらく、雷竜が出せる出力の限界は遠に超えている。

 下手をすれば惑星に穴をあけかねない威力の電撃が周囲を襲うが…………


(なんていう威力……! しかし、これくらいなら!!)


 環のほうも、結界の出力をさらに上昇させ、さらに10枚ほど重ねた。

 とんでもない威力の雷撃で結界が次々に割られ、陣形を組んでいたメンバーにそれなりの被害が出始める。


「何人やられたかしら?」

「はい! 22人ほど命を落としました!」

「なら、まだ平気ねみんな?」

「はい!! まだまだまだまだやれます!!」

「そうね……じゃあ特別に、大サービスよ♥」


 なんと環は、着ている服をいくつかキャストオフすると、布面積の少ないかなりきわどい格好になった。

 そしてそのうえで、色っぽい表情をしながら、煽情的なポーズをとる。


「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「エッッッッッッッッッッッッッ!!!!」

「むっはああぁぁぁぁぁ!!??」


 黒抗兵団たちのボルテージは、さらに急上昇した。

 そして再び彼らが陣形を整え魔法を放つと、その威力は先ほどのさらに8倍……総計256倍の超威力となった。


『ふざけんな!! 同じ竜ならともかく、俺様が人間に負けるだと!!??』


 極大魔法級の威力の攻撃を次々に打ち込まれ、リヒテルはたちまち追い込まれていく。

 そのうえ、リヒテルは暗黒竜の竜呪によって強化されている反面、自身の限界を大幅に超えてしまっているせいで、徐々に体が崩壊しつつあった。

 だが、環の方もすべてが順調かといえばそうでもない。


「あ……あへへ、あふぅ…………」

「タマキさま……ばんざい! しねるなら、ほんもう」

「わがしょうがいに、いっぺんのくい、なし……」


(こっちもそろそろ限界が近いみたいね。倒しきれるといいのだけれど)


 無茶しているのはリヒテルだけではない。

 誘惑による精神支配の出力をさらに上昇させた結果、黒抗兵団の中でもあまり強くないメンバーが、過労によって次々に倒れていく。

 また、高威力の術を放つとなると、その消費も莫大なものとなり、特に魔法を使うメンバーの消耗が限界に近い。

 おそらくあと数発が限界だろうが、それまでに倒しきれる保証はない。


(せめてあともう一押し……もう一押しさえあれば!!)


 黒抗兵団の増援も、応戦するリヒテルも、当初は足止め程度にしか考えていなかったのだが、気が付けば双方とも絶望的な消耗戦に突入していたのだった。

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