炎の暴走超特急 後編(VS 『火の四天王』モヒカーン)
「ヒャ……ヒャハ!?」
全力全壊の必殺技に自分から突っ込んでくるバカがいるかと思いきや、なんとそいつはあろうことか吸収してしまった。
よみがえる前世の記憶。
魔王の配下で四天王としてブイブイ言わせていたはずが、どこからともなく表れた理不尽に強い能力がインフレしまくった連中にボコボコにされた忌まわしき思い出。
果たして目の前の少女もまた、そのような理不尽な相手なのか?
少ない脳みそを振り絞って出した結論は…………「殴ればわかる」だった。
「ヒャッハー! ヒャッハッハー!!」
「ヒャッハー、ボスの命令だー! あのガキを殺せ!!」
「炎が効かなくったって、あんな小さい奴は殴りゃイチコロだ!」
相変わらずヒャッハーしか言わないモヒカーンだったが、どうやらほかのモヒカンたちは彼のモヒカン語(?)がわかるらしく、モヒカーンの合図を皮切りに、一斉にあかぎと智香へと武器を片手に殺到していった。
「よーし、体があったまってきたー!!」
「それは……お前が炎を纏っているからでは?」
「うおぉー! 新しいあたしの技を見せてやる! 音速火炎斬だー!」
「私の話を聞け!」
ハイテンションのあかぎは、吸収した炎を刀に集中させ、迫りくるモヒカンたちを次々に切り伏せていった。
「そりゃぁっ!」
「あべし!?」
「たわば!?」
「まそっぷ!?」
一般人が見れば絶望でしかないモヒカンの大群が、炎と斬撃であっという間に蹴散らされてゆく。
態勢を整えなおした智香も、大剣を振りかざして、向かってくるモヒカンたちをやっつけていくが、さすがに相手はまだまだ大勢いるため攻撃が一向にやまない。
もう少し広範囲を攻撃できる技術があれば…………智香がそんなことを考えていると、背後から彼女を呼ぶ声が聞こえた。
「隊長、ご無事ですか」
「車両から投げ出されたときは心臓が止まるかと思いましたよ!」
「お、お前たち…………」
狙撃銃を持った青年をはじめ、先ほどまで客車の屋根の上で一緒に戦っていた仲間たちが次々に駆けつけてきた。
「まさかお前たちも客車を飛び降りてきたのか!?」
「いやねぇ、あかぎちゃんが何の躊躇いもなく飛び降りていったものだから、私たちもいてもたってもいられなくなってね!」
「無茶したせいで何人か怪我したが、すぐに治療してこっちに向かってくる。隊長、指示を出してくれ」
「まったく……お前たちのような手のかかる部下は初めてだ。全員、あかぎを援護しろ。あの子が進む道を切り開け!」
『応!』
危険を冒してまで駆けつけてきた部下たちに若干あきれていたが、内心ではとても心強く思った智香。
まだ30人ほどだが、これだけいれば押し返すことは十分に可能だ。
目指すは敵のボス、モヒカーンの首。相手の頭をつぶせば、組織的な行動はできなくなるはずだ。
線路を中心とした大平原で、次々と迫りくるモヒカン相手にお互いに援護しあいながら反撃していく黒抗兵団たち。
そのなかでも智香の指揮は見事なもので、部下たちの特性を一人一人把握しながら的確に敵集団の間に穴をあけていく。
「ヒャッハーハー!」
「隊長! 敵の火炎攻撃が!」
「あわてるな。あかぎが防いでくれる!」
「うん、まかせて!」
モヒカーンが再び強力な火球を放つも、先ほどと同じようにあかぎの刀の切っ先から吸い込まれるように、炎が彼女のものになっていくのが見えた。
火炎攻撃こそが彼のアイデンティティであり、またそれ以外には斧による攻撃しかできないモヒカーンは大いに焦った。
彼はとうとう乗っていたバイクから降りると、こちらめがけて駆け抜けてくるあかぎに対し、正面から斧を構えた。
「ヒャッハー!」
「おっそーい!」
地面に叩きつけるように斧を振り下ろしたモヒカーンだったが、あかぎは「見てから回避余裕でした」と言わんばかりに軽々横によけると、すれ違いざまにわき腹を斬りつける。
「ヒャッハーーーーーーーー!!??」
激痛による悲鳴もヒャッハーで通すモヒカーン。
お返しとばかりに、地面から引き抜いた斧を大きく横に凪ぐ。しかし、これも大振りすぎてあたらない。
それどころか、今度は背中にいくつもの激痛が走る。
「ヒャ!? ヒャッハアァァ!?」
「おう、モヒカンの親玉。俺たちを忘れちゃ困るな」
「背後がら空きだよってね!」
黒抗兵団の遠距離攻撃メンバーによる援護射撃が次々に命中。
無防備な背中に矢や銃弾、魔法攻撃をもろに浴びたせいで、モヒカーンはそのまま前のめりに倒れ伏す。
普通のモヒカンに比べて圧倒的にしぶとかった火の四天王モヒカーンだったが、さすがにこれだけの集中砲火を受ければただでは済まない。
よろよろと立ち上がった時には、すでに目の前にはあかぎの振るう白刃が迫っていた。
「やぁっ!!」
あかぎの姿が一瞬ぶれると、目にもとまらぬ速さで刀による連撃が繰り出され、とどめに最大威力の一閃が放たれた。
「ひ、ひでぶぅぅぅぅぅ!!??」
人生最後の瞬間、ヒャッハー以外の断末魔を叫んだモヒカーンは、体中の無数の傷から大量の血を吹き出し、それがなぜか燃え上がってあっという間に火だるまになり――――――最後には消し炭になって倒れた。
シロン平原の農家たちを襲っていたモヒカンたちのボスは、こうして盛大に打ち取られたのだった。
「よくやったなあかぎ。大金星だ、賞金がたっぷりもらえるぞ」
「えっへへ~、ありがと智香さん!」
「礼を言うのはこっちだ、危ないところ助かった。よければ後で何か奢らせてくれ」
「いいの!? じゃああたし、焼き肉食べたい!」
「焼き肉か、いいだろう。だが、戦いはまだ終わっていない。モヒカンを全部片づけたら、お前らにも奢ってやる」
「いよっ、隊長太っ腹!」
「さすがは智香隊長、話が分かるっ!」
「そういえばいつから私は「隊長」になったんだ? まあいいか」
戦勝祝いに、後日焼き肉を奢ることを約束した智香だったが、後々彼女はこの約束を後悔することになるとは、この時は微塵も思っていなかった………
敵のボスを倒した後も気は抜けなかったが、それでも後続の味方が続々と駆け付けてきたことによって、当初の予定だった「敵を集めてからの一網打尽」がようやく機能するようになった。
ボスを失ったモヒカンたちはもろく、智香の的確な指揮もあって、あっという間にその数を減らしていった。
そして、戦い続けること30分。
ついに目に見える範囲に集まってきたモヒカンたちは殲滅された。
これでこのエリアの治安を悩ませていた賊の問題は、大きく解消されることだろう。
「おじいちゃん、こっちは無事にみんなやっつけたよ! 死んだ仲間もいないし、圧勝ってかんじ!」
『そうか、よくやったね。こっちは機関車こそ止められなかったけれど、客車の切り離しには成功した。けが人は出ているけれど、こちらもみんな無事だ』
あかぎは遠距離通信水晶で玄公斎と連絡を取ると、玄公斎のほうもなんとか暴走機関車を切り離して、客車を停止させることができたようだった。
結局、機関車を止める方法はなかったが、幸いエンジンの燃料供給と電流経路を無理やり増設して切り替えるという強引な方法で、連結部からエネルギーが漏れることがなくなり、切り離しが行えるようになったようだ。
運転士もいなくなったことで、機関車は勝手に走り去ってしまったが、いずれどこかの地点で勝手に自爆するだろう。
『予定にはなかったけど、近くの農村で野営することにした。悪いけれど、そこから今言う場所まで歩いてきてくれないかな』
「わかった! また連絡するね、おじいちゃん! …………だそうです、智香さん」
「そうか…………地図でいうとここだな。一度休憩したら歩いていくか」
途中で落っこちてしまったせいで、味方と離れてしまった黒抗兵団50名は、休憩をはさんだ後、遠く離れた集合場所へと急ぐこととなった。
彼らは、改めて列車の偉大さを知ることになるだろう。
【今回の対戦相手】『火の四天王』モヒカーン
https://kakuyomu.jp/my/works/16817139557864090099/episodes/new
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