戦力強奪
「心を引き裂く悲しみが、今緑の大地に流れてる~♪」
「いざ戦え明日の幸せを、ともに歌え~♪」
「
「
「
『我々は進み続ける♪』
「耳に残る歌だなぁ……なぜか家電の買い替えがしたくなってきた」
集合場所にある農村までひたすら農道を歩くあかぎや智香、並びに置いて行かれた黒抗兵団たちは、歩くつらさを紛らわせるためなのか、陽気に歌を歌っていた。
この歌はつい先日、あかぎが玄公斎からなんとなく聞いて教わったものだが、リズムも歌詞も集団での行軍にぴったりだったため、気が付けば智香を除く全員が歩きながら口にしていた。(智香は恥ずかしいと言って拒否している)
この歌は米津達が元居た世界では「リパブリック讃歌」とよばれ、アメリカのスーパーマンたちが歌っていたものだが、それが日本に輸入されて今の歌詞になった。
異世界でもう受け入れられるほど歌いやすいのだが、なぜかこの歌には「聞いた者が家電を買い替えたくなる」という妙な魔力があるのだとか……
そんな彼らは、数時間かけてへとへとになりながらも、ようやく集合場所である農村までやってきた。
西の空にはすでに夕日が沈み始めており、野営の準備が大変だろうなと思いながら村に入っていくと、すぐに村に異様な雰囲気が漂っているのに気が付いた。
「ん? 何か騒ぎが起きてる?」
「先行してた者たちの間でトラブルでも起きたか? 元帥殿は何をやっている?」
果たして、彼らが騒ぎが起きているところに駆けつけると、村人や黒抗兵団たちが囲む中で、刀を手にもって佇む玄公斎と、ボロボロになりながら睨みつける数人の若者の姿があった。
「ちくしょう……このサタンめ!! 本部に言いつけてやるから、顔を洗って待っていろ!!」
「お前なんか、いずれ転生主様から天罰が下されるぞ!」
「ふーん…………口だけが達者なトーシローはよく吠えるね。近いうちにそっちに行くからって、君たちの上の人にきちんと伝えておいてね」
何やら捨て台詞を吐いた若者たちは、涙目になりながら逃走していき、残った玄公斎が屈託のない顔で笑っていた。
「元帥殿、これはいったい……?」
「あ、お疲れ様智香さん、それにあかぎも。いや、ちょっと面倒ごとに巻き込まれちゃってね。とりあえず、君たちの分の設営はしておいたし、食べ物は村の人たちがお礼に作ってくれるっていうから、さっきの件についてちょっと話そうか」
「それに、明日からの予定にも少し変更があるわ。あなたたちの意見も聞かせて頂戴」
そういって彼らは、農村の隣に設置した野営地に足を運んだ。
このあたりの村はよくて数十人程度しか住んでいないので、黒抗兵団の兵士たちは村の建物ではなく、外の野営地でテントを張って過ごすことになる。
これでも、近くに飲み水やトイレがある分、完全な野営よりははるかにましだ。
「それで、先ほどの騒動は何事ですか」
「あれらは『転生統率祝福協会』というらしいわ。智香さんはご存じないかしら?」
「転生統率祝福協会…………」
司令部用の大きなテントで、ランタンを囲みながら会議を行う4人。
たまきが口にした「転生統率祝福協会」という組織は、智香にも心当たりがあった。
「聞いたことがある。シロン平原の開拓地や、セントラルの貧民街で、鬱屈した若者たちを取り込んでいる宗教団体のようなものがあると。リア様を信奉する信徒たちが目の敵にしていて、早く解散命令を出せとうるさかった記憶がある。まさかあの若者たちは…………」
「うん、どうやら転生統率祝福協会のシンパみたいで、設営中のうちのメンバーをしきりに勧誘してきたし、何なら僕まで取り込もうとしつこかったんだよ」
玄公斎によれば、この村に到着した黒抗兵団は村の有力者の許可を得て設営を開始したはいいが、一部のメンバーが問題行動を起こしており、統率に苦労していたようだ。
「特に、初めて実戦を経験した連中のなかには、すっかりビビってしまう子もいてね。まあ、訓練も積んでいない軍人にありがちなんだけど、脱走しようとしたり、村人に迷惑をかけようとしたり、いろいろあってね」
「そうか……わが軍はまだまだ烏合の衆だな」
元からいた黒抗軍第1中隊は、それなりにベテランぞろいなので比較的お行儀がよかったが、新米たちはそうはいかない。
そのため、米津は軍紀の順守を徹底させたのだが、それがさらに新米たちのストレスとなってしまったようだ。
そんな中、村人に扮した転生統率祝福協会が、不満をくすぶらせる新米たちの一部を勧誘し、どこかに連れて行こうとしたようだ。
ブラック企業もかくやという厳しい集団に疲弊していた一部のメンバーたちは、転生統率祝福協会のシンパの甘い言葉にホイホイと乗せられ、気が付いた時には30人ほどが協会への入信を誓っていたのであった。
「まあ確かに、軽い気持ちで志願した連中を訓練もなく実戦に連れてきたのは僕の落ち度だ。けれども、一度兵団に入団した以上、彼らも家族だ。怪しい集団の魔の手に落ちるのを、見過ごすわけにはいかない」
「私たちもね、止めようとしたのよ。けれども協会の人たちはこともあろうか「ここにいる者は全員転生者としてよりよい人生に生まれ変わる権利がある!」とか言って、さらに勧誘しようとしてきたのよ。だから、戦って勝ったほうの言うことを聞くという約束で、さっきまで決闘をしていたの」
「決闘って、あれどう見てもおじいちゃんの相手5人くらいいなかった?」
「5人どころか、入信しようとしてきた子たちも相手にしたから、最終的には50対1くらいにはなっちゃったかな? まあ、もちろんきちんと勝ったけど」
あっさり「勝った」と玄公斎は言うが、今の玄公斎は子供のままの姿に戻っており、能力が大幅に低下してしまっている。
そのうえで全員叩きのめし、自信満々で挑んできた転生統率祝福協会シンパをも返り討ちにするのだから、やはりこの子供は底が知れない。
「しかし……あの様子だと転生統率祝福協会を敵に回すことになるのでは? 聞いた話では、奴らはこの頃さらに勢いを増していて、武装をしているとも聞く。変な因縁をつけてこなければいいのだが」
「うふふ、甘いわね智香ちゃん。私たちは、わざと因縁をつけたのよ」
「ええっ……おばあちゃん、それはどういうこと?」
「だって、もしそれなりに戦える人がいっぱいいれば、黒抗兵団ももっと増えると思わない?」
「元帥殿、まさか…………」
「そのまさかさ。明日は予定を変更して、ここの町に向かう」
そういって玄公斎は地図を広げて、この農村から南に行ったところにある町を指さした。
そこは、開拓がある程度進んでいるこの地方の農村の中心に位置する場所にあり、それなりに人口が集中している。だが、最近その町は転生統率祝福協会なる怪しい集団の本拠地となっているらしく、ガトランド平原の各地から若者が連れてこられているという噂があった。
「年寄りを鍛え直しよりも、若者を矯正させるほうがよっぽど効率がいいからね。この際だから、僕たちが有効活用してやろうじゃないか」
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