フロンティアの嵐作戦 1

 テレビ会議を終えた玄公斎は、各作戦部隊の指揮官に行動の許可を与えながら、急いで格納庫に向かった。

 この作戦は早ければ早いほど効果がある。そのため、今は一分一秒が惜しい。『ビバ(略)』号に玄公斎が乗り込み次第、第1中隊と元の世界から新たに派遣された増援部隊が出撃することになっていたが…………


「うん? 何やら揉めているのう」


 搭乗口でなぜか雪都がシャインフリートともめているのが見えた。


「ですから、出撃する人員はあらかじめ決まっているのです。たとえ狐一匹だとしても、員数外を乗せるわけにはいきません」

「そんなこと言わないでよー! トランだって今度こそみんなの役に立ちたいって意気込んでるのに!」

「ぼ、僕……悪いきキツネじゃないよ?」


「冷泉准将、何を揉めておるか」

「閣下。それが、シャインフリートさんがペットと一緒に乗船したいと」

「だからペットじゃないって!」


 見れば、シャインフリートの明るい金髪の上に、毛並みのいい子狐が乗っかっている。どうも雪都はこれをシャインフリートが飼っているペットだと思っているようで、危ないから置いていくように言い聞かせていたのだった。

 しかし、この子狐は当然ペットなんかではなく、先立って行われた古代都市での探索の間にシャインフリートとともに戦った戦友なのである。


「よかろう、ワシが許可する。乗っていきなさい」

「え!?」

「「やったぁ!!」」


 まさか一瞬で許可すると思ってなかった雪都は唖然とし、元帥のお墨付きを得たシャインフリートとトランは軽くハイタッチをかわすと、堂々とタラップから乗船していったのであった。


「閣下……よろしいのですか?」

「二人の間からは何やら絆を感じた。おそらく引き離すのは無理じゃろう。どのように戦ってもらうかは乗ってから考えればよい」

「閣下がそうおっしゃるのであれば」


 不安要素がないわけではないが、玄公斎はシャインフリートとトランの意思を尊重した。ほとんど直観ではあるが、二人の様子から何かしらの覚悟を感じ取ったのだろう。

 雪都も渋々これを認めると、彼らは急ぎタラップを進み、操縦室へと向かった。


「待たせたのう諸君。各部隊チーム、全員そろっておるか」

「いつでもいけるよおじいちゃん!」

「アンチマギア海賊団は全員いるぜ! 気合入れて出航だ!!」

「あたしたち竜人部隊も準備万端! いつでもいけるよ!」

「うおおぉぉぉ! 喜べテメェら! 次の地獄行きだぜ!」

「僕たちも負けてられないよトラン!」「頑張ろうね、シャイン!」

「あの……いくらなんでも人多すぎではありませんか?」

「…………」


 一段高い艦橋から見える範囲の船室を見渡すと、それはもう人でごった返していた。

 元々この船はFFXXの戦艦のように、輸送船を兼ねることは想定しておらず、居住スペースがあまり確保されていない。

 そんな中にこれだけの人が搭乗している。


あかぎと黒抗兵団第1中隊の中核部隊約2,000名

アンチマギアと部下の海賊団約20名

ミノアと竜人部隊約500名

梶原鐡之助と第1天兵団約150名

増援の第4師団約3,000名


 その他人員を含めると、実に6,000人超の大所帯であり、船内はいたるところが鮨詰め状態であった。

 幸い、これだけの人数が乗船した程度で船の操縦に支障が出る恐れはないが、緊急事態が起きた際に身動きが取れなくなる恐れがある。

 それでもこうして詰め込んでいるのは、それだけ急がなければならないからだ。


にのまえ大将、10分ほど辛抱じゃ。それまでの間、すぐに出撃できる用意を怠らないよう」

「……承知しました」


 荘厳な巫女服に身を包んだ第4師団司令官の一大将は、昔からパーソナルスペースが広いことで有名であり、満員電車もかくやという混雑で非常に不快な顔をしていたが…………そこはプロ、不満があってもしばらくは我慢するようだ。


「うむ、迷惑かけてすまんのう。では、かあちゃん。発進用意」

「はい、お爺さん」


 そして、今回シャザラックが多忙のため同行できないこともあり、ビバ・アンチマギア・ブラック・タイダリア号はなんと環おばあちゃんが行うことになった。

 実は環も、あの1日1年の修業場で時間を持て余していたので、シャザラックから機械の知識を色々と教わっていた。

 その結果、彼女はいつの間にか機械操縦知識を手に入れ、天女のみならずコンピューターおばあちゃんにもなったのだ。


「諸君、この度も困難な戦場が待ち構えていることだろう。だが、臆することはない。諸君にはこれだけの……あふれんばかりの仲間がいる」


 玄公斎の演説とともにタラップが外され、半重力エンジンが起動し、船体が宙に浮く。


「フロンティアの興廃この一戦にあり、各員一層奮励努力せよ」

『応!!』


 地上のハッチが開き、上空へと昇ると――――メインエンジンに点火。

 黒い宙船は、もうすぐ夕方になりつつある西の空を目指して、一直線に飛翔していった。


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