一件落着…?

再びこの世界に

※ここからの話は、すべての危機およびラスボス撃破後を前提としています。

先々の展開によっては矛盾する描写があるかもしれないので、ご了承ください。


『おかえりなさい、ヨネヅ。また戻ってきてくれて嬉しいわ♪』

「リア様…………僕はあくまであなたの世界に立場なんだけど……まあいいや。いろいろあったけど、なんとか片付けてきたよ」

「うふふ、おいしいところだけ私たちの方でもらってしまいましたわ」


 霞ヶ浦で悪竜王ハイネを倒した智白たちは、その後2週間ほど戦後処理に追われていたが、ようやくひと段落したということでリアの世界に戻ってきていた。


『そうはいっても随分大変だったみたいね』

「本当だよ。何しろ国家中枢が丸ごと吹っ飛んだんだ、物的損害も人的損害もひどいものだよ」

「普段は税金泥棒としか思われていない先生方も、本当にいなくなると困るということが分かったのがせめてもの救いと言ったところかしら」


 2週間という期間は決して短くないが、とにもかくにも日本は首都の政府機関を丸ごと喪失したせいで、今も行政の大半がマヒしたままだった。

 その上、かつて米津玄公斎だった人物が少年姿の神様になってしまったとあっては、余計混乱が増すばかりだ。


 現在は鹿島姉妹が臨時で戒厳令を敷いており、表向きには玄公斎は力を使いすぎたせいで療養していることになっている。

 智白自身は引退が近かったこともあって、今のところ戦後処理を鹿島姉妹や雪都たち任せる態勢を整えられていたものの、すべてが元通りになるにはまだまだ時間が必要そうだった。

、重要な後継者の一人にして、最終決戦で首都上空に大規模な結界を張ったにのまえ大将は、あの後消耗限界により息を引き取った。将来的には、米津たちの跡を継いで軍の主柱になるべき人材であっただけに、非常に痛い損失であったことは間違いない。


 物的な損失で言えば、国会議事堂があった永田町周辺の官庁舎街が丸ごと吹き飛ばされたせいで、巨大なビルが数十個崩壊しただけでなく、水道や電気、高速道路に地下鉄といったインフラが破壊された。

 逆に言えば、これだけで済んだともいえるが、被害総額は軽く兆単位に達することが見込まれている。

 ただ、悪いことばかりではなく、現在も続いている悪竜王の解体作業によって得られた鱗や骨、肉体を一部外国に売り払うことで多額の資金を得ており、それを今後の復興財源にすることになるだろう。


「で、女神さまたちの方は大丈夫なの? ほっとくと世界が崩壊しそうなのがいくつもあった気がするけど……リア様が無事だから、大丈夫そうかな?」

『ええ、おかげさまで。あの子たちのおかげで、世界を破壊する危機はすべて消え去ったわ』


 一方で、女神リアの世界で起こっていた危機は、あれから各地にいる異世界からの実力者たちによって鎮圧されたそうだ。

 詳細は省くがかなりギリギリの綱渡りだったそうで、どこか一つでも間違えば世界は完全に消え去っていたことだろう。

 フロンティアの住人たちは、彼らに感謝してもし足りないことだろう。


『そう………すべてめでたしで終わったわ。本当に、よかった』

「いや、めでたしならもっと喜ぼうよ。なんか露骨に嬉しそうじゃないんだけど」

『それはそうよ。はぁ……やっぱり、私はダメな女神なのかしら』

「え、今更?」

『ぐっ、火の玉ストレート…………コホン、とにかく、結果的にはすべて丸く収まったわ。けど、結局私は……女神として何もできなかった。できたのは、ただ人に丸投げすることくらいだったわ』

「あら、それこそ今更じゃない。少なくとも女神様は『異世界の実力者たちに助けてもらうことができた』それだって、一つの才能よ。私が保証するわ」

「そうそう、逆に自分の才能を自信満々に誇っていた敵の女神さんや、あのおっかない竜王だって、味方をうまく使えなかったから負けたんだ」


 女神リアは、やはりすべての危機を他人任せにしてしまったことにかなり負い目を感じているようだった。

 智白は、このお調子者でどこかポンコツな駄女神様は、お人よし過ぎるのが長所であり欠点でもあるのだろうと感じた。


 リア自身は何も語らないが、智白はこのリアという女神は「神様」という種族の中ではかなり弱い方だったのだろうと推測した。

 ほかの世界から、自分の力を乱用してでも困っている人を自らの世界に招いて住まわせたことが何よりの証だ。当然そんなことをすれば、世界がうまくたちいくはずがないのだが、それでもこの女神はなんとなく「助けてあげなきゃ」と思わせるらしく、きちんと実力者たちが支えていた。

 何とも奇妙な話ではある。


『…………私は、創造神の審問に呼び出されているの』

「審問?」

『ええ、人間でも何かもめごとがあったら裁判を起こすのと同じように、私たち神族も高位の神々によって世界を統治するにふさわしいかどうか審問されることがあるの』

「なるほど、もしそこで「落第」みたいなことになったら?」

『まあ、よくても世界の管理権喪失、最悪の場合「神族落第」で存在抹消も考えられるわ』

「うへぇ、神様って野蛮だな。人間は裁判でも「無能だから」で死刑にすることはない…………はず。でも、僕はリア様ならきっと大丈夫だと信じているよ。だから、正々堂々と顔を出して来なよ。その間の世界の面倒くらいは、僕とで見てあげるから」

『ふふふ……やっぱり、あなたたちって面倒見がいいのね。私もいつか、そんな素敵な女神になりたいものね』


 これから女神リアは、今回の騒動に対する責任の「審問」にかけられることになる。

 多数の高位の神々によって話し合いが行われた後、まず「問題ありなし」が決議され、ここで「問題あり」と認められてしまうと、次に処罰内容が話し合いで決定されることになる。

 この話を聞いた智白は心の中で「ソクラテスの時代の裁判だな」とその後進性に若干呆れたが、人間より頭のいい神様たちにとっては、それが合理的なのだろう。


「あ、そうだ。せっかくだからリア様、念のために先に「ご褒美」を受け取っておきたいんだけど、いいかな。具体的には、願いを一つかなえてほしいんだ」

『あら、あなたからお願い事なんて珍しいわね。いいわよ、何が欲しいか言ってみなさい』

「それじゃあ―――――」


 こうして、智白はリア様に何かをお願いすると、彼の身体はたちまち白い光に包まれていったのだった。

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