異世界最終決戦 11(VS悪竜王ハイネ)
智白の頭の中には、最終的に悪竜王をどのように討伐するかの一連の計画がある。しかし、その計画がどの程度実現可能かは、智白をはじめとする仲間たちの頑張りにかかっている。
(今のままだと、まだ高度が高すぎる…………とはいえ、早すぎても建物への被害が大きい)
一応、最終的にハイネの巨体を撃墜させることになるのだが、関東平野一帯がほぼ都市化している現代では、それこそ海にでも着水させなければ都市部に被害が出てしまう。
しかし、海に着水させてしまうと巨大な津波で沿岸部が壊滅的な被害を被ってしまうし、山間部はそれはそれで「別の問題」が起きる。
この凶悪な竜と戦いつつも、適切な場所に墜落させなければならない。
「悪竜王様のご命令だ! 殺せっっ!」
「むかつく退魔士どもをぶっ飛ばしてやる!」
「ごめんね、ちょっと痛いけど我慢して」
ハイネに攻撃するために、その障害となる洗脳された一般人たちを無力化すべく、智白は「天涙」で峰打ちにしていった。
神様となり弱体化したとはいえ、環の術で能力が増大している智白が扱う天涙の刃の部分で攻撃してしまうと、ちょっと頑丈程度の物体だとたちまち切断してしまう。だが、峰打ちだとしても、硬い金属の棒で殴るようなものなので、加減を間違えれば撲殺してしまうことだろう。
だが、意外にも力を加減する必要はあまりなかった。
というのも、XXとなった彼らは悪竜王ハイネの加護を受けており、能力がかなり上昇している。
それこそ、一般的な兵士はおろか、退魔士にすら勝るとも劣らない身体能力と耐久力を兼ね備えており、誤って殺してしまうほどやわではなかった。
「悪竜王様がくれた正義の力を見ろ!」
「新たな世界に愚民たちの居場所はない!」
「おおっと、なかなかやるね君たち。とはいえ、操られているだけなんだろうけど」
竜のブレスに似た黒い色のビームや、キックボクサーに匹敵する威力の蹴りが智白を襲う。
だが、彼らはついさっきまで一般人だった存在なので、戦う力はあってもその使い方が下手糞で、智白にとっては見切るのは訳ないことだった。攻撃をかわした瞬間に首筋に峰討ちを食らわせ、気絶させる。
相手が子供の姿だからと言って舐めてかかったXXたちは、あっという間に戦闘不能にされていった。
「へっ、なんだ兄ちゃん、俺たちとやる気――――げふぅっ」
「アハハハハハ、国家の犬風情が! 新しい力を授かった僕たちに勝てると思うな―――――グホっっ!?」
「な、なんだなんだ、こいつ! 何かインチキしているのか!?」
その一方で、智白とともに最前線に立っている冷泉雪都は……
少し手を動かしただけで、彼の周囲にいるXXたちが一瞬にして下顎の骨を砕かれ、その場で悶絶する。
彼の「共振拳」は、相手の骨を砕く「周波数」をピンポイントに衝撃波として打ち出すというちょっと意味の分からない技であり、どれほど固い物体であろうとも、共振現象により大打撃を与えることができる。
これにより、大勢向かってくる悪竜王の手下たちは次々に無力化されていく。
そして…………
「なんだ、一般人相手に手加減しろとか無茶言うなと思ったが、これなら少し手を抜くだけで十分そうだな! よし、いけ、イル・アザンティア亡霊騎兵! 世の中を舐め腐ってる連中に少しお仕置きしてやれ!」
「へっ、意外と根性あるじゃねぇか! 俺たち第1天兵団と殴り合いできたこと、あとで自慢させてやんよ!」
ちょっとやそっとの攻撃ではダウンしない能力を持っていると分かったとたん、リヒテナウアーや天兵団たちが俄かに活気づき始めた。
彼らは生来「手加減」が苦手な連中なのだが、少し殴った程度なら死なないと分かれば話は別。
さすがに武器で切ったり撃ったりするのはよくないと自重したのか、彼らは徒手空拳で思う存分黒づくめ集団と殴り合った。
さらに、リヒテナウアーが召喚した亡霊騎兵の集団も、ちょうどいい具合にXXたちと戦闘を繰り広げており、確実に悪竜王の戦力を削いでいった。
「シャインフリート君、倒れている人たちを元に戻してあげて。これ以上、ハイネの餌にしてはいけないわ」
『もちろん! さあみんな、目を覚まして!』
このままいけば、洗脳した市民たちを無力化しつつ、シャインフリートのブレスで元に戻せる…………そう確信した智白や環だったが、ここで彼らが予期しなかったことが起き始めた。
シャインフリートが神竜の剣を掲げ、柔らかな光で倒れている黒づくめの人々を包むと、たちまち彼らは一般人だったときの姿に戻っていき、意識を取り戻した者からふらふらと立ち上がっていった。
「うぅ……あいたたた」
「あれ? 私……元に戻って?」
『みんな、大丈夫? ハイネの洗脳は僕が解いてあげたからね!』
竜の姿のままエッヘンと胸を張るシャインフリート。
あとは、彼らをどうにかして保護し、安全な場所へと移動させるだけ。
そう思っていた直後――――洗脳を解いたはずの人々の姿が一瞬にして消えた。
『あ、あれ? みんなどこに? トラン、何か術を使った?』
「う……ううん? そんなことしてないけど……」
てっきりトランが力を振り絞って彼らを地上に転移させたのかと思いきや、そういうわけでもなかった。
では、彼らはどこに行ったのか?
「よぉし! 悪竜王ハイネ、あたしの一撃を食らって消し炭になれっ!」
『!!』
そのころ、智白や雪都、そしてリヒテナウアーや天兵団たちが奮戦しているおかげで、ハイネの精神体の周囲にXXたちがまばらになったタイミングを見計らって、あかぎが一気に強襲攻撃を仕掛けた。
今のあかぎには、智白が発する神竜の加護に加え、環の能力上昇や、神竜の剣による対竜特効が加わり、ハイネに対し大ダメージを与えることができる態勢が整っていた。
太陽がもう一つ現れたかのような眩しい光と熱量を纏った刀が、ハイネめがけて振り下ろされ、すさまじい爆音がとどろく。
「悪竜王様、危ない!」
「せめて、俺の命に代えても!」
直撃すればハイネと言えども無事では済まない――――はずだった。
しかしハイネはほぼ無傷。
その代わりに、周囲には先ほどまでいなかったはずの人々……それも、今さっきシャインフリートが洗脳を解いて一般人に戻ったはずの人々が、黒焦げになってあたりに散らばっていた。
「え………え? ど、どうして?」
ハイネではなく、攻撃してはいけないとくぎを刺された一般人を多数巻き添えにしてしまった。
あり得ない現実に、何が起こったかわからないあかぎは茫然としてしまい、よりによってハイネの目の前で隙をさらしてしまう。
『死ね――――』
「がっっ!!??」
あかぎの身体が大きく吹き飛ばされる。
彼女の胴体には、まるで大砲で
普通なら即死……どころか、オーバーキルのダメージだった。
しかし、彼女の体内にある「原初の火種」が生命の炎を激しく燃やし、あっという間にあかぎが受けた損傷部分を修復した。
あの地獄の修行で火種をある程度コントロール下に置いたあかぎは、いまや(かつての)魔女カルマータに匹敵する不死身の存在になったのだ。
「あかぎ、大丈夫!?」
「お、おばあちゃん………うん、ちょっと痛かっただけ。でも、あたしの攻撃で一般人が…………」
「おかしいわね、洗脳は解いたはずなのに」
環がハイネの方を見ると、そこには先ほどシャインフリートが元の姿に戻したはずの人々が、まるで自らの意志ではハイネを守ろうとするかのように立ちはだかっていた。
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