第七章 着甲時強化現象の影

第078話 漏洩

 たった一つの誕生日と、六十四の定数、そしてわずか一式の装甲服だけが、その年、秘密裏に中国に運び込まれた。


 それは、徹攻兵開発の最先進国内の中国シンパによる特殊な情報提供だった。

 情報には、徹攻兵先進国内でも顕現者の発掘に苦労していることと、民族特性があることも含まれていた。

 早速、中国国内でもリストが作られた。

 当然、中国人民解放軍に所属するものから試験が繰り返されたが、顕現者はいっこうに現れず、予算もまともに付かない有様だった。

 鉄甲兵と呼称されたその取り組みは、とにかく笑いものの与太話として扱われた。

 職員も、言われたことをこなすことしか能の無いような士気の低いものが当てられた。

 一口に中国といっても国土は広大で、民族構成も多様ではある。

 しかし長い戦乱の歴史の中で、いわゆる漢民族と呼ばれる民族と、何らかの血のつながりがある民族が多く、そして中国共産党による一党独裁制の下では、漢民族を主張する傾向があり、民族特性による可能性は期待薄と見られていた。

 そして期待されている能力と、予言されているウイグル民族、チベット民族との組み合わせは、主に政治的な意味合いで余りにも相性が悪かった。

 他国も発掘に手間取っているという内情は、漏れ聞こえてくる分には耳障りのいい情報だった。

 小銃弾を無効化するといっても、五人や十人そのような兵士がいたところで、全体的な戦況にはなんの影響もない。

 人である以上、その活動には生物学的限界があり、その限界が来てしまえば一気に無効化できる。

 しかし五十や百集まるようになれば話は別である。

 かつての戦争では数百キロにおよぶ戦線を数百万の兵力で維持することもあった。

 それが情報通りの防御力と高い狙撃能力を持つのであれば、一人当たり一キロ四方を維持することも可能で、それが三交代、四交代で二十四時間維持できてしまえば、百人で二十五キロの戦線が維持できてしまう計算になる。

 当然、歩兵や他の兵科を組み合わせることで戦線を伸ばしたり、維持の質を向上させることができる。

 核の影響で戦場が局地化している現状では、十分な決定力になり得る。

 戦局が決定さえすれば、後は歩兵で維持するなど実効支配してしまえば、大国間の綱引きなどどうとでもなる。

 その決定力が、単純な法則と安価な装備でウイグルやチベットという地域から生まれてくることがあれば、中国共産党による一党独裁の統治への影響は計り知れない。

 最も生まれてきてはいけない地域が候補地となる新兵器というのはただただ、いらだたしいばかりだった。

 最初は、混血の子から着甲試験をしてみた。

 いわゆる一人っ子政策で男余りの中国人民解放軍の軍人との間に生まれた子供だ。

 これには、全く効果が無かった。

 他国では、混血の事例は多数有るのに、かなり執拗に試験を繰り返したがだめだった。

 仕方なしに、民族運動に関わった罪で収容所で教化している者の中から、成績の良いものを中心に選んだが、これも失敗に終わった。

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