徹攻兵「アデル・ヴォルフ」
888-878こと
徹攻兵「アデル・ヴォルフ」――本編――
第一章 尖閣奪還
第001話 強襲
冬の嵐に波荒れ狂う夜の東シナ海にぽつりと浮かぶ魚釣島。
島の北側の浜に、半円柱型の容姿を持つ大型のテントがもうけられている。
思い出したようにたたきつける雨を気にしないかのようにせわしなく兵士が出入りするたび、中の灯りが漏れる。
入り口脇にはおおきく目立つように赤十字の旗が張り出される。
大型の投光器が三基、強風を嫌って低めに設置され、一基は天幕の赤十字を、二基は浜に打ち上げられた格好の漁船を照らす。
投光器の向こう、天幕のさらに奥には、その影に隠れるように大型のトラック型車両がアウトリガーをめいっぱい張り、背負った地対艦ミサイルの発射口を天空に向ける。
中国人民解放軍海軍の既成事実は既に完成され、日本側では外務、防衛、国土交通をはじめとする各省庁で様々な検討、折衝、腹芸、秘密裏の交渉、言質の探り合いが飛び交う中、南シナ海の軍港では二の手、三の手を前提とした準備が進められている。
暗闇の中、浜の沖合に停泊する中国人民解放軍海軍のドック型輸送揚陸艦の灯りが波風に揺れる。
戦端は、揚陸艦の艦橋にもうけられたコンソールが、主力戦車の主砲弾であるAPFSDS弾による正確な横撃二射で打ち抜かれたことに始まった。
専用の防御機構を持たない船体は、右側面から戦車弾の直撃を受けて深いダメージを負い、衝撃波は艦橋にいる要員の階級を問わず平等に左側面に向けて吹き飛ばす。
第二撃は嘘のように第一撃の被弾孔から侵入し、艦を支配するコンソール類に修復不能なダメージを与えると供に、兵員達の全身に改めての衝撃を与え背中側の壁にたたきつける。
沿岸の天幕内でははじめ、沖合の揚陸艦との連絡が途絶した事を、通信機器の障害によるものかと認識しメンテナンスを検討しかけ、隊員は想定される障害を想起し始めた。
そんな猶予もなく狙われたのは地対艦ミサイル車両。
六発のミサイルが装填されたコンテナが同じくAPFSDS弾の二射で打ち抜かれると三瞬の間を置いて爆発炎上の炎が天幕を照らす。
爆風が嵐の暴風を遮って天幕をゆらす。
それでもまだ天幕内では機械のトラブルを疑っていなかった。
日本の自衛隊、アメリカ軍の反撃を警戒する高高度偵察機からは何らの航空機の接近も警告してきておらず、海上自衛隊の護衛艦も五十キロ先、魚釣島の接続水域にもとどかないところから近づいてこようとしない。
この嵐さえしのげれば完全に安全なはずで、そこからの持久戦こそ本当の戦いだと思っていた。
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