第058話 光条砲

 光条銃がまとまると、今度は光条砲の開発に移った。

 五十センチの銃身長で四百メートルの飛距離に達するのだから、数メートルにおよぶ砲身長の光条砲なら数キロ先まで攻撃がおよぶことが期待された。

 結果は、なかなかに良好なものだった。

 主力戦車の主砲に使われるラインメタル一二〇ミリL四四をベースにした光条砲は、通常出力で直径三十二センチ、長さ三・二メートルの円柱状に対象物を消滅させた。

 飛距離も四・二キロに到達し、徹攻兵の正確な射撃の効果と相まって、恐るべき破壊力を示した。

 特に、対戦車戦では、通常弾頭に対する複合装甲も容易に貫き、奥深くの構造物まで消滅させる威力は、八発という制限があるにせよ、決定的なものだった。

 ただし、対徹攻兵戦では、高速に動き回る小さな目標である徹攻兵に対して、一発当てても直径八センチの穴しか開けられず、そこに二弾目を命中させなければならないのは至難の業といえた。

 対徹攻兵戦においては、光条武器こと光条剣の決定力が求められた。

 それよりも、光条砲においては、砲身長の短い型に取り組めることが魅力的だった。

 高圧砲は砲弾にできる限り長時間圧力をかける必用があり、どうしても六メートル近い砲身長が必要となった。

 しかし光条砲であれば、射程が短くなる犠牲を厭わなければ、砲身長の短い型を造り、取り回しを良くすることが可能となった。

 また、光条銃の様に砲身をまとめられないので、複数本携帯することも求められ、その意味でも短い砲身長の型に適性があると考えられた。

 射程距離とのバランスが検討された結果、基となったラインメタル一二〇ミリL四四の約半分の長さである、二・四メートルの光条砲が開発され、ハルフテカノーネ、英語にしてハーフバレル砲が完成した。


 一連の開発が終わると、ヴォルフガングがフランツにたずねた。「それにしてもフランツ、光条を撃つなんてよく思いついたなあ」

 フランツは苦笑いしながら答えた。「福音があったんだよ。なんというかその、なあヴォルフガング、三本の蔦のような足で月に向かって立ちあがる者の噂を聞いたことはないかい?

 紫色とも緑色とも違うなにか、というか」

 ヴォルフガングは斜め上に目線を配り、首をかしげながら答える。「いや、それは徹攻兵にまつわるものなのかい?」

 「わからない、わからないんだが、なにか背徳的な印象と供に福音が降りてきたんだ」


 そして二〇二三年の夏、日本の自衛隊が徹攻兵の第一世代型、第二世代型の保有の実体を一般公開すると供に、第五世代型の研究と合わせて、水中時無呼吸稼働試験及び対毒ガス耐性試験の結果をもたらしてきた。

 ドイツとしても全く未知の研究結果であり、第五世代型装甲服の研究を若手と供に進めるフランツにとっても大変興味深い内容だった。

 最終的には政治判断も含まれるが、光条銃、光条砲の情報もいつまでも出し惜しみしていては他国から良からぬ詮議を受ける可能性もあり、情報を開示する良いタイミングともいえた。

 フランツは笑いながらヴォルフガングにこう告げた。「しかし水中だの、毒ガス試験だの、本当に、日本人ときたらHENTAIだな」

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