第057話 詰めの研究

 ある程度の飛距離が稼げたことで、破壊状況の確認が行われた。

 口径五・五六ミリの銃口から出た光条は、着弾した対象物に直径一四・八ミリの円形の穴を開け、深さ一四・八センチの円柱状に対象物を消滅させた。

 これは、飛距離が十メートルでも三十メートルでも同じだった。

 また、着弾した対象物がコンクリート塊でも、鉄塊でも、エンジンのような構造物でもおなじ円柱状に対象物を消滅させた。

 壁面の向こうにマネキンを置いた試験では、壁面に開けた穴から円柱状に壁面を貫き、円柱はその向こうのマネキンにまでおよんだ。

 これはなかなか魅力的な効果だった。

 もし、効果範囲の改善ができれば、壁面や塹壕での防御を貫通する銃弾として、その向こうの敵を攻撃出来る可能性を持っていた。

 破壊状況の確認は、装甲服に対しても行われた。

 試験は、着甲している徹攻兵相手に行われるため、慎重に実施された。

 ヴォルフガングは「ASー01の開発過程でも、このような慎重な試験が繰り返されたようだ」と語った。

 まずは円柱が着甲者の肉体に当たらない角度で装甲に対して行われた。

 結果は出だしとしてはまずまずで、通常の物体に対する威力の四分の一の直径、三・七ミリの範囲で三・七センチの深さの円柱状に脆化した。

 ほんの些細に、角度がずれてしまった時、装甲の下のアンダーアーマーに掠ってしまったことがあった。

 光条は、アンダーアーマーも崩したが、その向こうの装甲には円柱がおよばなかった。

 アンダーアーマー部分に対する試験はさらに慎重に行われた。

 なにしろアンダーアーマーの下は薄衣一枚挟んで顕現者の肉体である。

 円柱が、着弾箇所から正確に三・七センチの深さを取ることを利用して、被験者から正確に三センチの厚さの壁面を置き、そこから光条を受けることにした。

 被験者には、フランツ自ら当たった。

 着弾想定箇所に局部麻酔を受けてから実験することも考えたが、もし、痛みが発生する場合、どういう痛みがあるのかを報告するのも開発過程で役に立つと考え、敢えて麻酔は受けなかった。

 それがフランツの使命感でもあった。

 AWー03の顕現者は光条銃の発砲ができなかった。

 AWー04の顕現者はフランツと同じように発砲できた。

 そして試験の結果は、アンダーアーマーに〇・七ミリの穴状に崩すも、その下の肌着には傷をつけないものだった。

 試験は一センチずつ慎重に行われた。

 一センチまで近づき、二・七ミリの穴状にアンダーアーマーが崩れたところでフランツが「直接、受けてみようか」と言った。

 ヴォルフガングは反対したがフランツの熱意に押された。

 が、フランツの体に万が一のことがあってはならないと考えた。

 そしてヴォルフガングは六十四歳になるスヴェンに連絡を取った。

 スヴェンは、光条銃の試験状況の説明を受け、資料にも目を通し、動画での記録も確認すると、数年ぶりに着甲することを選んだ。

 フランツはいたたまれない気持ちになったが、スヴェンは「懐かしいものさ」と言ってのけた。

 左の膝裏、装甲のない位置を選んだ試験は成功し、一檄ではアンダーアーマーまで崩壊させるのものの、その下の肌着、そして皮膚にはなんの損傷もないことがわかった。

 フランツもヴォルフガングも、そして試験を補助した他の関係者も、スヴェンの勇敢さを大いにたたえた。

 スヴェンは答えた。「この年になっても、徹攻兵の新兵器開発に関われるのは何とも光栄だな」

 アンダーアーマーや装甲服に、三・七ミリの穴が無数に開いても、一度顕現した着甲時強化現象そのものは、装甲を外すまで維持された。

 これも、おもしろい現象の一つではあった。


 こうして、光条銃の破壊力、装甲服の防御力が明らかになると、いよいよ課題は耐久力と飛距離の問題に絞られた。

 フランツが見つけた一つの解が、出力を押さえることだった。

 銃撃のさいに、細く、絞って、と思いながら打つことで、効果範囲を半分の、直径七・四ミリ、深さ七・四センチに押さえることができた。

 この時、飛距離が倍の六十メートルほどに、また耐久力が倍の十六発に延びた。

 逆に太くすることはできなかった。

 特に意識せずに撃つか、太く、と思いながら撃つと、直径一四・八ミリの穴をうがった。

 飛距離を伸ばすことができたのは成果だったが、小銃で六十メートルの射程距離は致命的に短かった。

 研究者達は光条の漏れについて検討を進めた。

 光条を発射する時、光条はあちこちから漏れていた。

 銃口の先端に用意された、燃焼した火薬の輝きでの目くらましを避けるためのフラッシュサプレッサー。

 そして排莢口の隙間、弾倉の隙間などからだった。

 まずはてっとりばやくフラッシュサプレッサーを溶接してふさいでみた。

 それだけで飛距離が五十メートルに、絞った時で百メートルに延びた。

 ここから、発砲を繰り返すことで砕けるクリスタルの交換と、銃身の底、尾栓の閉塞の工夫が重ねられることになった。

 高圧砲でも使われる、尾栓にねじ山を切った隔螺式が検討された。

 しかし、どんなに精密に工作し、銃口から強力な光線を当てても光り漏れしない様作成しても、光条の発射時には尾栓からの光条の漏れがあり、飛距離も百メートル、出力を絞った時で二百メートルに留まった。

 飛距離は改善しつつあったが、小銃として評価するにはもう少し距離が欲しかった。

 思い切って鉄パイプの底を溶接し、クリスタルを固定してみた。

 もはや引き金がなんのためにあるのかわからない状態だったが、徹攻兵が狙いを定めて引き金を引くと光条が発射された。

 そして銃身長の八百倍、出力を絞った時は千六百倍の長さまでの飛距離を稼いだ。

 薬莢が必要なく、銃身の底にクリスタルをはめさえすればよく、通常の小銃の銃身が四十センチ程度であるところ、光条銃の銃身は切りよく五十センチで作られた。

 これにより通常出力で四百メートル、出力を絞った時は八百メートルの飛距離に達し、十分、現実的なものとなった。

 ただ、八発の発射で、威力を押さえても十六発の発射で弾切れになってしまう銃では使い勝手が悪かった。

 なんとか、クリスタルの交換と光条の漏れを回避する方法が検討されたが、答えは出なかった。

 これに答えを出したのも、フランツの着想だった。

 「なあ、ヴォルフガング。

 いっそ、ガトリング砲の様に銃身を束ねてしまったらどうかな?

 通常の小銃では重すぎて使い物にならないが、徹攻兵にとってその程度の重量は何ともない」

 ヴォルフガングは唇の端を引き上げて笑った。「それだよフランツ。

 早速作って見よう」

 銃身の数はフランツの意見で八本となった。

 レバー操作で、銃身を回転させることができた。

 引き金を引くと、あらためてどういう原理かはわからないが銃把の上にある銃身から光条が発射された。

 こうして、八銃身回転式光条銃がまとめられていった。

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