第019話 新人
会議室に入ると、既に全員到着していた。
身長百七十六センチ、体重六十七キロ、前の方に薄く残っているものの頭頂部にかけて頭髪が薄く、全体的に刈り込んでしまっているのが
たれ目がちな目つきは穏やかそうに見えるが、しっかり引き結んだ口元と剣道で引き締めた体型は武人の風格を見せる。
身長百七十四センチ、体重六十三キロ、手足が長く身長体重のバランス以上にほっそりして見えるのが
癖の強い、やや明るみを帯びた髪の毛を短く無難にまとめている。小ぶりなアーモンド型の目つきとアルカイックスマイルは、話しかけやすい雰囲気を醸す。
あまり自分の主張はせず、判断を周囲の判断にうまく合わせてみせるが、芯はぶれないものを持っている。
身長百九十三・九センチ、体重百八キロとひときわ大柄なのが
年に似合わぬつやつやとした黒髪を七三に分けてまとめている。
まつげの長い瞳だけ取ればかわいげもあるが、かぎ鼻とたくましい顎がしっかり男らしさを表している。
身長百七十五センチ、女性としては大柄で、スレンダーともおデブとも言えないふっくらとした体型を取っているのが
明るすぎない内側にカールした茶髪を肩に掛かるくらいまで伸ばしている。
肩が張っていてお尻も小さめで、顎もしっかりしており、女性ながら仕事を任せられる空気を作る。
身長百六十六・六センチと決して小さすぎもしないのだが、一同の中では一番小柄になってしまうのが
体重五十五キロ。
小顔で童顔なため年若に見られるのが癪で、白髪を隠そうともせずに伸ばしているため灰色が頭を覆う。
間を開けて会う人からは「白くなったね」次いで「苦労しているの?」と聞かれるのが常で、仕事への行き詰まりがやつれた笑顔を張り付かせる。
若い頃は容姿を褒められたこともあったのに、着の身着のままのすっかりくたびれた眼鏡のおじさんといった感じだ。
五人はよほど都合が付かない限り、極力第三週末に座間駐屯地に集合する。
理由は他でもない、徹攻兵としての訓練のためだ。
正確には自分自身達のための訓練ではない。輝巳と遊は一八式と呼ばれる第四世代規格の装甲服を、宇と堅剛は〇六式と呼ばれる第三世代規格の装甲服を着こなし、装甲服開発で先行するドイツで観測された運動能力を余すところ無く引き出している。
装甲服は世代をあげることで能力が倍々に伸びていくことが分かっている。
第三世代になると主力戦車級の働きを見せ、第四世代になると完全に、現代の通常兵器を凌駕する。
そもそも戦車は空に飛び上がらないし、戦車砲は航空機に対してあまりにも無力だ。
しかし徹攻兵はそれをやってのける。
第三世代以降の徹攻兵の育成は急務といえたが、正直、なかなか進んでいないのが現状だ。
徹攻兵の育成には、直接その能力を視認させ、体感させ、その上で着甲させてみるのが一番なのだが、これがなかなかうまくいかない。
輝巳あたりにいわせると「本職は国防に迷いがなさ過ぎる」ということになるのだが、正規の自衛官の中にもいろんな考えの人間がいる。
しかし誕生日から割出された候補者のうち、実際に着甲して動作できる顕現者となるとある一定の性格特性が必要となる。
それがかみ合わないのだろうか、正規の自衛官から選ばれた権限者は、第二世代に当たる〇五式から抜け出せないでいた。
そのため、そうした正規の徹攻兵に〇六式、一八式の能力を見せつける教導隊としての役割が、彼らに課せられた役割だった。
先日の尖閣強襲は徹攻兵の素早い現地投入が奏功した好事例だった。
その後の政治的な駆け引きはあったが、無事に島に駐留部隊が置かれる運びとなった。
三月は各社期末ということもあり忙しく、五人とも集まれなかった。
そのため、四月のこのタイミングが久しぶりの集合となった。
入室した輝巳に声をかけてきたのは堅剛。「むー、久しぶり。なんかまた痩せた?」
それに声を合わすのが宇。「痩せたっていうか、やつれた感じだよね」
輝巳が返す。「なーんていうか、仕事が全くうまくいかなくてさ。
あの作戦から戻ったら、ヒラに降格されていたんだ」
ちょっとさすがに、みんな言葉を失う。
輝巳も苦笑い。「いや、まあ、こういう空気になるよな」
五人は中学からの同級生ならではで、語らずとも伝わるところもある。
重くなった雰囲気を振り払うように信世が語り出す。「揃ったところでブリーフィング初めてもいいかしら?」
りょーかい、といいながら輝巳も席に着く。
機密扱いのため、余計な資料は配付されない。
会議室のスクリーンに投影されたプロジェクターの表示を眺める。
説明役の情報将校を差し置いて、信世が語り出す。
「まずは前回の戦闘による成果の紹介から始めます。
前回は突然の参集に協力いただきありがとうございました。
皆さんの活躍の結果、国境線は変わらずに済みました」
輝巳が呟く。「全滅はマスコミがやいのやいの言ってるけどね」
信世が返す。「その辺りは政治家を含めた本職にお任せしましょう。
私達は私達にしかできない事実を積み上げることが必用です。
さて、前回の作戦では教育効果をかねて、国内外から五十名の徹攻兵に作戦の様子をモニタリングしてもらいました。
結論から言うと効果がありました。
〇六式の七割の能力を引き出せる顕現者が一名、そして一八式の二割の力を引き出せる顕現者が一名、新たに確認されました」
案内してください、と信世が情報将校の一人に声をかけると、信世はページを切り替える。
「一名が
輝巳、遊、宇、堅剛のおじさん達が、揃って口をあける。
「むー、女の子なの」と堅剛が驚く。
「垣根を越えてきたのは女子かあ」と遊が頷く。
「ちょっとまって写真だけでも美人じゃない、ふたりとも」と宇が笑う。
「ふー、嘘でしょ」と輝巳が我が身を嘆く。
その間に、二人の女性自衛官が会議室に案内される。
二人、揃って敬礼する。
「初めまして、穂村二等陸尉です」
「初めまして、相原三等陸曹です」
二人とも、ぱっと見取っつきにくそうな、クール系の美人だった。
穂村陸尉は、百五十七センチ。
耳が隠れない程度の長めのショートヘア。髪に癖があるのか気持ち外ハネしている。
意志の強さを示すような切れ長の瞳の美人で、顎が丸くほほがふっくらとやや丸顔を帯びる。
相原陸曹は、百六十八センチ。
耳の隠れるショートヘアとミディアムの中間くらいの髪の長さ。
癖のない髪はすとんと真下に落ちる。
黒目がちな瞳が大きく、まだ、女の子の雰囲気を残した娘で、良く通った鼻筋と大きすぎない口元をきりりと結ぶ。
女性としては長身な方で穂村陸尉とは明らかに身長差がある。
輝巳が、上目遣いで呟くようにたずねる。「どっちが、一八式なの?」
相原陸曹が答える「自分が、一八式に対応しています」
マジか、と輝巳は呟くと、横にいる遊に小声で耳打ちする。
「遊君、任せていいか?」
「なにを?」
「教育係」
「なんで?」
「あの子、ドンズバタイプだわ。莉央さんに顔向け出来ん」
「知るかボケ」と遊が笑う。
信世が四人の反応を見て苦笑いしながら語る。「いっとくけど皆さん、この二人、揃ってエリートですからね」
宇がたずねる「どゆこと?」
「明理ちゃんは防大の出。
いわゆる幹部候補。
皐月ちゃんは一般曹候補生として成績優秀なだけでなく、この年で三曹って事は普通無いのよ。
今回一八式の運用を開始するに当たって、整備兵とのバランスから、特例で任命されたって事」
それを聞いて輝巳が長嘆息する。「ふー、また年下の上司さんって感じかー。
そもそもさ、俺たちの扱いって何なの」
信世が答える「あなた達は一応、書類上で登場する時は特務予備役一等陸尉相当官っていうへんてこな呼称が与えられているわね」
輝巳が驚いてみせる。「あれま、一尉って大尉だよね」
ふーん、テンパの最終階級と一緒かー、と呟く輝巳を遊が肘でこづく。それ以上いうな、と。
信世が続ける「ちなみに私は予備陸曹長だから、肩書きの上ではあなた達の相当下ね。
でも、作戦上は私の指揮下に入ってもらうでしょ。
私達徹攻兵にとっては、階級ばかりが意味を持つものではないってこと。
教導役として、皆さんには明理ちゃん、皐月ちゃんの良き道案内となって下さい」
改めて明理と皐月が敬礼をする。
「よろしくお願いします」
「ご指導、よろしくお願いします」
堅剛が、大人の微笑みで「はい、よろしく」と返事してみせる。
信世が続ける。「さて、今回の訓練のメンツが揃ったところで、今回の訓練の主目的を伝えます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます