第020話 光条武器

 信世はプロジェクターの表示を切り替える。「ドイツのアデル・ヴォルフ機関から新しい情報が入りました。

 光条の近接武器への応用です」

 輝巳が呟く。「なんでも、新規開発はドイツからだな」

 信世が受ける。「仕方ないわね、日陰者の私達と違って、向こうは将来の主力兵器としてお金をかけているし」

 そういうと信世は視線を同席している将校達に送る。

 誰一人、信世と視線を会わそうとしないのを見て、信世は嘆息すると続ける。

 「徹攻兵の発光現象をクリスタルを使って集約し、推進力として応用しているのは皆さん周知の事実です。これについては発光を伴う気圧の上昇のみ確認され、熱などは発生せず周囲の装甲を損壊しないことも知られています」

 ページを切り替える。

 「これに対して今回もたらされた近接武器への応用は全く異なります。

 柄の部分、持ち手の部分にクリスタルを埋め込んだ武器を発光させることが出来ます。

 発光は特に武器の縁の部分に集約する特性があり、鉄パイプやバットのような丸みのある武器より、刀や剣などの刃の部分がある武器の方が効率的です」

 また、ページを切り替える。

 「発光箇所を通常の物質に当てると、瞬時に熔解します。

 この際、熱は伴わず単純に熔解することが報告されています。

 熔解のスピードは速く、砲丸や自動車のエンジンの様な構造物でも一気に両断できます」

 さらに、ページを切り替える。

 「装甲服の装甲部分に発光箇所を当てると、よく知られる脆性崩壊、つまり割れ、が生じます。

 脆性崩壊の箇所の下部は徹攻兵としての防御力を示さないのは銃砲撃による脆性崩壊の事象と同様です。

 発光箇所はアンダーアーマーを溶融し、敵性徹攻兵の肉体も溶融します」

 説明は、最終ページにいたる。

 「発光現象は、世代によって長さが変わります。ドイツ陸軍の場合、AWー01では近接武器を発光させることが出来ません。これに対してAWー02では持ち手から三十センチ程度の長さまで、AWー03では持ち手から六十センチ程度の長さまで、AWー04では持ち手から百三十センチ近い長さまで発光させられることが報告されています」

 「質問」と最初に手を上げたのは堅剛だった。

 「〇六式の俺たちが百三十センチ級の得物を持った時ってどうなるの?」

 信世がページを切り替える。

 「ええと、そういうこともドイツ人のやることに抜け漏れはないのよね。

 発光武器、改め光条武器同士は発光箇所を接触させ合うと干渉し斥力を生じます。

 平たくいうとつばぜり合いが始まるって事。

 この際、非発光部分は光条の干渉に守られず熔解します。

 つまり刃先だけ融け落とされる、ってことね」

 「なる」と堅剛が呟く。

 「はいはい」と今度は輝巳が手を上げる。

 「刀剣のことは素人なんで良くわからないんだけど、百三十センチの刀っていうのは長いの? 短いの?」

 これに対しては剣道の心得のある遊が答える。

 「アホほど長え。

 居合刀が刃渡り七十センチ程度だから倍ちかい長さがあるし、そもそもそんな長い鉄の塊自由に振り回せない。

 ドスってさ、見た目は短いけど接近戦で確実に相手の内蔵を破壊しようと思ったら、取り回しのいい長さなんだよ。

 それが百三十センチ級になったらもてあます感じだわな」

 輝巳が納得してみせる「ふーん、まあ、徹攻兵ならではの武器ではあるのか。

 着甲してれば、丸めた新聞紙振り回すようなもんだろ。

 あ。

 ところでそんなもの、どうやって携行するの」

 信世が答える。「ホントに、刃渡り百三十センチ級の刃物を携行する場合、背中に背負う事が想定されているわね」

 輝巳が、それってド、と呟いたところで遊から肘鉄をくらう。いうな、と。

 宇が手を挙げる。「あのさー。逆に一八式が三十センチとか六十センチとかの武器を持った時はどうなの?

 伸びるの?」

 それについても信世が答える。「光条武器の発光は得物の縁の部分に限られるの。

 だから短い武器を持った場合は短いままってことね」

 そうかあ、と宇は考え込む。

 これまでは正規の自衛官でも〇五式止まりだったところに、自分の娘といってもいいくらいの年の子が一八式の運用に達したことで、宇自身も意識しないうちに、焦りの様な気持ちが芽生える。

 その点堅剛はどっしりしている。

 自分には目としての感覚の鋭さがあるという自負があり、皐月が伸びてきても、明理が伸びてきても現場で指示を出すのは自分だという落ち着きがある。

 遊はどうやって使いこなそう、と考えていた。

 考え込むうちに疑問が浮かび、そのまま発言する。「なあ信世、これって便利かも知れないけれど、何に使うんだ?

 地上で一番やっかいな戦車だって頭からAPFSDS撃ち込めば沈黙するし、攻撃機やヘリも同じ話。

 歩兵に対しては小銃があれば十分止められるわけで……、これ、使いどころ無くないか?」

 信世が答えるより先に、輝巳が呟く。「対徹攻兵用じゃないかな」

 それを聞いて遊が自分にあきれ、額に右の手のひらを当てる。「ああそうか、なるほどな」

 遊の同意を得て気分を良くした輝巳がたずねる。「それにしてもドイツはよく、気前よくも新兵器の情報をくれたね」

 信世はそれを聞いて苦笑する。

 そして資料のページをめくるとドイツ語の原文のページを示す。

 「それがね、彼らも嫌みのつもりか知らないけどドキュメントの日付を隠そうともしないのよ。

 資料の日付を見ると二〇一九年。

 つまり私達がようやく一八式をものにした時、既にドイツはこんな研究に手を着けていたわけ」

 なあんだ、とつまらなそうな顔を作る輝巳を横目で見て堅剛は、こういう抜けてるところが輝巳の仕事っぷりに足りないところなのかもなあ、と思ったことは黙っていることにした。

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