第六章 南洋解放

第067話 内海通航関税

 二小が組まれたといっても、ようやく契約が整ったというだけで、まだそれぞれの装甲服も工場から仮装品すら上がってきていない六月に、その事件は南シナ海で起きた。


 中東の産油地帯で船積みされた石油はアラビア海、インド洋、ベンガル湾、マラッカ海峡を抜け、国際的な隘路であるシンガポール海峡を抜ける。

 そして南シナ海、台湾とフィリピンの間のルソン海峡を抜けて北上し日本に到達する。

 この道は、日本への資源供給の補給線であり、日本の産業輸出の販路でもある。

 まさに、日本経済の生命線に当たる大事な公路だ。


 南沙諸島とは、文字で書けば南シナ海にあるが地図で見れば中国大陸に連なる南端の島、海南島の遙か南、フィリピンのパラワン島とボルネオ島の西側の海域を覆うように広がる諸島群のことだ。

 この海域の南シナ海の東半分を覆うといっていい。

 この珊瑚に覆われた美しい南沙諸島の島々の数多くを中国は埋め立て、実効支配し、自国の領土と主張していた。

 そして領土である以上、沿岸から十二海里、約二十二キロにおよぶ海域を領海と呼称し、そこを航行する船舶に有形無形の圧力を加えていた。

 二〇二八年六月四日、中国は突如として徹攻兵の動画を公開した。

 動画での徹攻兵は、鮮やかな赤色の光条で十秒間ほど浮上する姿を見せつけた。

 中国は、世界に並んで第三世代の徹攻兵開発に成功したことを告げると供に、海賊行為による海難事故防止のため、南沙諸島を中心に徹攻兵を配置すること、南沙諸島とその北の西沙諸島、海南島を結ぶ海域を中国の内海とし、十月一日より内海通航関税を徴収する方針を発表した。

 これは、事実上、日本の輸出入行為全てに中国の関税がかかることを意味した。

 大まかに日本の石油ルートは、南シナ海を通る近距離ルートとインドネシアの島々を抜ける遠距離ルートがある。

 遠距離ルートは当然のことながら航海コストがかかり、それは最終的には消費者のコストに反映される。

 近距離ルートは今回中国が内海としてきた海域を避けることはできない。

 中国が発表してきた領海通航関税は一隻当たり数千ドルと比較的小さなものではあったが、一度支払いを受け入れてしまえば金額の増額があった場合に受け入れざるを得ない。

 事実上、日本の産業国としての未来が絶たれることになる。

 これに対して、即座に反応して見せたのはアメリカで、航行の自由作戦として南沙諸島最大の中国の拠点、ファイアリー・クロス礁の沖合二十キロをアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦で航行して見せた。

 これに対して中国は航空機と海軍の艦船を向けて警告すると供に、アメリカ艦の主砲であるMK45砲の砲口を威嚇射撃として打ち抜いて見せた。

 この、正確な射撃は、第三世代以降の徹攻兵によるものを意味していた。

 そして実際に手を下してきたことで、次は無いことを告げてきたも同然だった。

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