第030話 独り相撲

 一九九五年の五月、AWー02の制式化に成功したドイツは、AWー01を含めた顕現者の総数を六十七に伸ばしていた。

 部隊編成は、クリスタルを応用した意識疎通が十名を超えられないことや、戦車小隊の部隊編成も参考にされた。

 二名で一班、二班四名に小隊長を加えた五名で一小隊、三小隊十五名に中隊長を加えた十六名で一中隊、三中隊四十八名に大隊長と副官を加えた五十名で一個大隊を編成した。

 実際の運用の想定では、徹攻兵のみでの構成だけではなく、通常の歩兵と組み合わせた編成も考案された。

 いずれにしてもドイツは、自国の徹攻兵の体制が整うにつれて、他国の情報を求めるようになった。


 技術に国境はない。

 自国では徹底した情報統制を取っていたが、これだけ規模が大きくなると統制にほころびも出てくる。

 それは他国も同じはずだが、他国から全く徹攻兵のうわさに類する情報すら漏れてこないのは不気味ですら合った。

 手始めに、国際情報市場に、小銃弾を全く寄せ付けない防弾着の開発に成功した国があるらしい、という情報を流した。

 いわゆる、防弾ベストは銃弾を無効化するわけではなく、貫通を防ぐもので、命中部位の下部は打撲傷や骨折、悪い時には内臓破裂を伴う。

 これまでの防弾着はあくまで、致命傷を回避する防具だが、噂の新開発の防弾着はこれまでの防弾着とは全く違う、小銃弾を完全に無効化するものらしい、という情報を流した。

 しかし返ってくる情報は、ドイツが怪しい、ドイツが何か企てている、またドイツが新素材を開発した、というものばかりで、ようやく一件だけ、そんなもの日本人にだって作れないよははは、という反応があったばかりだ。

 とにかく、自国の情報が漏れかかっていることが分かっただけでも成果だとは言えた。


 つぎに行ったのはアメリカ、中国、インドなどの人口大国で顕現者の誕生日特性を使った調査だった。

 誕生日の法則は、もはやドイツ国内の顕現者特定には外せない特徴で、特に、各国の軍関係者を中心に慎重に身辺調査が行われた。

 軍関係者を対象にするだけに、調査は慎重に進められたが、これといった行動上の共通事項は見いだせず、共同訓練などに取り組まれている様子もなく、結果は空振りに終わった。

 他にも、様々な方法で情報の収集に当たったが、結果は伴わなかった。

 情報の収集に一定の効果が無いことが評価されると、ドイツは他国の情報を求めて、逆に情報を開示する方針に舵を切った。

 最小限の開示相手として、効率を求めてアメリカを、旧連邦諸国を持つという人材の豊富さを求めてイギリスを、後回しにすると何かとやっかいだという友好関係を見据えてフランスを、最初に選んで開示した。

 三カ国の駐在武官を招いた秘密の招待会でドイツは、AWー01の跳躍力、走破力、防御力を披露して見せた。

 特に防御力については、実際に駐在武官に実弾入りの小銃を渡して試験させた。

 実弾の直撃を受けても塗装すら剥がれない謎の防御力に招待客達は、驚愕の色を隠せなかった。

 恐怖したと言ってもいい。

 また、欧州の混乱が始まる、と。

 ドイツ側の高官は賢明だった。

 徹攻兵の理論は未だ解明できず、ただ現象として確認できていること。

 適正者の確保に苦難していること。

 戦場の常識を覆してしまう徹攻兵の数の確保は「我々」主要先進国が先行しなければ、世界の軍事的緊張を損なうこと。

 「着甲時強化現象が確認された今こそ、我々の緊密な協力が不可欠なのです。ご協力を切ににお願いしたい」

 と情報の開示を募った。

 情報収集という当初の目的は完全に失敗に終わった。

 質問は受けるばかりで、各国から何の情報も得られなかった。

 しかしドイツには、負ける立場を維持しなければならないというわきまえがあった。

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