第031話 発掘

 顕現者の発掘のためには、徹攻兵による実演が有効だった。

 アメリカ、イギリス、フランスの各国から再三実演の要請を受けることで、ドイツの研究者、軍関係者には、自国だけが発見した特異な能力という認識が生まれた。

 しかし、技術に国境は無い。

 必ず、他国にも顕現者は現れるはずで、それをつかむことで着甲時強化現象の謎をまたひとつ解明できると考えていた。

 各国とも要望の熱量は強く、国際連合の旧敵国として、負け続けることを義務づけられた国家として、むしろドイツの研究者、軍関係者の中にも焦りにも似た緊張がはぐくまれつつあった。

 誕生日の法則はかなり早い段階から伝えてはいたが、各国とも顕現者を見いだすことが出来ない焦りから、誕生日の法則から外れた候補者の前での実演の要請を受けることもしばしばだった。

 ドイツは協力の姿勢を崩さなかった。

 時間が経てば経つほど、与えるもの、受けるもの、双方に疑いの気持ちが芽生え始めた。

 こうまで他国に権限者が現れないと、もしかして、ではあったが、ドイツ民族に固有の能力なのではと疑い始める研究者も出始めた。

 一方で各国からは、まだドイツが何か隠しているのではないかと疑いの目をかけられるようになった。

 あるとき、出張中のドイツ人研究者が、アメリカ軍の施設内で除外リストを目撃してしまった。

 ドイツ人の研究者はたずねた「この候補者たちは確かに誕生日の法則から選ばれたようですが、どうして除外されているのです?」

 アメリカ人の研究者はこともなげに答えた「この一覧は保留地出身のネイティブ・アメリカンの兵士達なのですよ」

 郷土愛が強く、西部開拓時代にはアメリカ軍の中から反乱者も出したネイティブ・アメリカンは今なお偏見の目に晒されており、着甲時強化現象の候補者としては後回しにされていた。

 ドイツ人の研究者はアメリカ人の研究者の了承の元にリストを持ち帰り、ドイツ高官からアメリカ高官に話しを通すことで、日陰者のネイティブ・アメリカンの候補者達の前での実演を取り付けた。

 実演には、たまたま日程のあったスヴェンがあたった。

 AWー01を身につけたスヴェンは、「私も、日陰者だったものさ」と呟くと、優しい瞳で十メートルほど飛び上がって見せた。

 スヴェンの跳躍を見た最初の候補者は、着甲して三メートルほど飛び上がって見せた。

 アメリカ軍の関係者から雄叫びにも似た歓喜の声が上がる。

 驚きは一人に留まらなかった。

 二十人ほど集められた候補者の中から、最終的に八人の顕現者がアメリカ国内に誕生した。

 喜びは瞬く間に困惑へと変わった。

 これまで、一千人を超える候補者の中から一人も現れなかった顕現者が、わずか二十人の母集団の中から八人も発見された。

 これは、返ってやっかいなことになった。

 多人種、多民族国家でもあるアメリカは複雑な人権問題を抱えている。

 その中でネイティブ・アメリカンと呼ばれるグループに焦点を当てなければならないのは、出来れば避けて通りたい道であった。

 アメリカ高官の一人は呟いた。「なぜ、彼らに日が当たったのだ」

 徹攻兵の魅力に抗えなかったアメリカ連邦政府は、時に、ドイツ政府からの協力要請、という建前を使いながら、慎重に民族問題の間を縫っていった。

 一口にネイティブ・アメリカンといっても根源は一つではない。

 欧州人が襲来する以前からその地に先住していた民族の総称である。

 アメリカ本土だけでも数百の部族からなり、実際、最初の八人の中には民族の歴史的にも全く関連性のない者もいた。

 共通項としてみられたのは、ハーフ以上の血の濃さであること、アメリカ開拓史においてかつて悪魔のようにののしられるほどの抗争を繰り広げた部族の出身であること、そして本人か直接の親が保留地出身で新しい教えの教化につきあうことはあっても部族の伝統を思いやる姿勢が強いこと、などが上げられた。

 同じ先住民でも、アラスカやハワイの先住民出身者からは、顕現者は現れなかった。

 そもそも絶対数も少なかった。

 ドイツ側からの、謎は謎のまま取り組んでいくのが徹攻兵への取り組みです、という言葉もあり、アメリカ軍はネイティブ・アメリカンと称されるグループから、ぽつり、ぽつりと顕現者を発掘していった。


 先を越された格好のイギリスとフランスも、後ろ暗い歴史に関しては負けていなかった。


 イギリスはオーストラリア、ニュージーランドと協力し、オーストラリア先住民出身者とマオリ出身者に候補を絞った。

 ドイツは始め、手を広げることに難色を示したが、イギリスが連邦構成国のなかから、貧困にあえぎ将来の統制に疑問の残るアフリカ系諸国を選ばず、また人口構成がアメリカとよく似たカナダも選ばず、オセアニアを選んできたことに興味を示した。

 結果としては謎を深めることになった。

 入植者との抗争を生き延び保護政策を受けたマオリと、駆除する対象として狩られたオーストラリア先住民の歴史はよく似ていた。

 どちらも絶滅寸前まで追い込まれ、混血を重ねながら人口を回復してきた。

 ほんのわずかな差ではあったが、マオリの文化はニュージーランド国民のシンボルとして受け入れられ、ラグビーのナショナルチームがマオリ特有のハカの舞を披露するまでになったのに対し、オーストラリア先住民の文化は奪われ、破壊され、失われ、それっぽい雰囲気だけが観光地の郷土資料として土産物の賑やかしに利用されるばかりだった。

 ドイツ、イギリスの協力のもと、顕現者の才は、保護政策の対象としてのオーストラリア先住民の地位に甘んじず、自らの祖先に思いを馳せつつ、国軍に身を投じることで己を見いだそうとする若者に、花咲いた。

 ネイティブ・アメリカンの顕現者の特徴は、むしろマオリの方に適正があるかとも推察されたが、マオリ出身者に能力は顕現しなかった。


 フランスはレユニオンを選んできた。

 一五〇七年にポルトガル人が発見した南インド洋の無人島で、植民によるフランスの海外領土だった。

 フランスが直接手を伸ばせる海外領土としては一番人口が多いことが選定の理由だったが結果は空振りに終わった。

 徹攻兵を得られなかったフランスは、徹攻兵をドイツ国軍に組み込むのではなく、NATO配下で作戦行動を取ることもある欧州合同軍に組み込むべきだと主張してきた。

 欧州合同軍はフランス・アルザス地方のストラスブールに駐留している。

 ドイツは、やんわりと、しかしはっきりとこれを断った。

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