第091話 国際貢献

 それぞれの徹攻兵がそれぞれの道を歩き、長かった都築小隊の道のりも、終わりを迎えようとし、徹攻兵関係者の間から花道の噂が持ち上がるようになった二〇三三年の三月、その相談は外務省から持ち込まれた。

 人は三人集まれば派閥ができるという。

 それが国ともなれば一つにまとまるのはむずかしく、さらに大国となればただまとめるだけで意思のない人形のような存在の方が君臨するにふさわしい人物像と評されることすら有るほど困難になる。

 中華人民共和国は、中国共産党が一党独裁体制を敷き、その共産党に所属する中国人民解放軍がその支配力の裏付けになっていた。

 中国人民解放軍は大きく五つの戦区に分かれており、この戦区間でも経済力など様々な競争、駆け引きがあった。

 近年、その戦区間の軍事バランスを崩す事象が発生していた。

 徹攻兵の存在である。

 たとえば、宇宙飛行士や戦闘機のパイロットのように、本人の努力だけではたどり着けない、能力と努力と巡り合わせの高次元での組み合わせが到達できる道というものがある。

 誰にでもなれるものではないが、新しく生まれてきた赤ん坊の誰しもその可能性を秘めている。

 そういう性質のものであった。

 徹攻兵は違った。

 そもそも、用兵側にはふざけた要件といえた。

 六十四の定数で区切られた一定の誕生日の生まれでなければ発動せず、当人の思想信条にも左右される。

 なにより、特定の民族特性により発動する能力など、なんというか、人の世に有っていいはずがなかった。

 しかし、着甲時強化現象の発動要件はそうなっているのだ。

 そして中国国内では、ウイグルとチベットという特殊な地域に偏っていた。

 この地域自体、中国としては触れたくもない目をつぶりたい地域だったが、そこから特殊な超能力が産出するとなると話も違ってきた。

 そのため「中国共産党にとって」優秀な人物をあてて徹底的な管理の下に取り組んできた。

 この野望は一度は結実しそうになったのだが、二〇二八年の紛争で、軍事的脅威としては十分押さえ込めると計算していた日本の手によって叩きのめされてしまった。

 これで潰えることになれば、さまざまな思惑はあれど一定の平衡という平和が訪れることになるはずだった。

 しかし人の口は、一度味わった果実の味を忘れることはできない。

 ウイグルとチベットを抱える西部戦区で、中央政権の思惑とは独自に徹攻兵育成の取り組みが継続されていた。

 いかな徹攻兵といえど戦いとは数である。

 少数であるうちは一つの研究として目をつぶっていることもできたが、年次が経つにつれ、数を増し、質も上げてきているという情報が上がってくると話が違ってきた。

 中央政府としては南沙の悪夢をよみがえらせられる徹攻兵ではなく、これまで通りの冷戦構造を維持する核戦力を交渉力として活用したく、争乱の元になりかねない徹攻兵はいっそ処分してしまいたかった。

 しかし西部戦区はのらりくらりと交渉をかわし、その間にも徹攻兵力を増強しているという情報が上がってきた。

 これに過敏に反応してきたのが、わずかながら西部戦区と国境を接するロシアで、中国国内の徹攻兵の無力化行動を取る場合、主に兵站などの領域での協力の用意がある、と非公式ながら情報を漏らし始めていた。


 ドイツは、中央アジアのさらに東に手を伸ばす取り組みには応じない姿勢を示した。

 軍事的にはあくまで、国連安保理五大国の支援国であるという態度を維持することが、かの国のたしなみだった。

 イギリスとフランスは、そもそもが実体として傭兵部隊であり、数を揃えることができなかった。

 また、折角維持している数をいたずらに減らしかねない冒険的な取り組みには乗れなかった。

 アメリカは質の面で難しさを抱えていた。

 数こそ自国内で着実に増やしつつあったが、第四世代の壁は厚く、ほんの数人の教導役を抱えるばかりだった。

 対する中国人民解放軍西部軍区の徹攻兵力は五年前の南沙防衛と同程度とされていた。


 自衛隊には数も質も揃っていた。

 第六世代型装甲服の慣熟者は輝巳と遊の二名。

 第六世代型装甲服の対応者は明理と皐月、颯太と快王の四名。

 第五世代型装甲服の対応者は道照と七生、司之介と寿利阿の四名。

 第四世代型装甲服の対応者は満と優子をはじめとした総勢二十五名。

 このほかに第三世代型装甲服の慣熟者は二百五十名を超える。

 公表されていないだけで、まさに化け物のような軍団を抱えているのが、自衛隊の徹攻兵力の姿だった。

 統合幕僚監部、陸上幕僚監部が色川や明理のような実戦経験者の意見を元に立案した作戦は、こうだった。

 一小隊を四名の徹攻兵で構成し、三小隊十二名を一中隊としてまとめ、四中隊四十八名を徹攻兵大隊として運用する。

 このほかに輸送科、通信科、施設科などを動員し連隊規模で行動する。

 ロシア、アメリカと連携し、ロシア連邦のアルタイ共和国と中華人民共和国新疆ウイグル自治区の国境に徹攻兵を進めることを西部軍区に通告する。

 中国共産党本部より西部軍区に徹攻兵力を持って撃退に当たるように司令させる。

 決戦の地は中ロ国境の山岳地帯、渓谷の中の盆地状にひらけた一帯に敵性徹攻兵力を引き出し殲滅する。

 国際的には中ロ国境紛争とし、アメリカの仲裁により解決をした体裁を取る。

 自衛隊は、アメリカ軍との連携の元、国際平和維持活動の一環として、短期間駐留していた体を取る。

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