第092話 協議

 作戦自体は、自衛隊に所属する徹攻兵力だけで実施可能ではあった。

 ただ、色川と明理としては都築小隊、詩央小隊も動かしたく、全員を呼び出した形で作戦概要の説明があった。

 その一通りの説明を聞いた直後の輝巳の言いぐさが、「これさ、俺たちのやることじゃなくない?」というものだった。

 その言葉に素早く反応したのは信世でも遊でもなく颯太だった。「お父さんはなんでそう思うのさ?」

 輝巳は、颯太の言葉には弱い。「うーんと、ぐだぐだいいたくはないんだが、二つあって、一つは、お父さんの考えでは徹攻兵は国土防衛のために使われるべき力で他国間の紛争解決なんて知ったこっちゃないってこと」

 颯太は答えつつ、次の考えも引き出す。「力を持つ社会の構成員として、知ったこっちゃないっていいかたは大人じゃないと思う。

 それで、もう一つは?」

 輝巳の発言の勢いが落ちていくのを皐月はおもしろく眺めていた。

 「もう一つは、自衛隊の現有能力だけで実行可能じゃないかと、思う、こと、かな。

 十分育ったと思うんだよ、その、自衛隊の徹攻兵は」

 遊が口を開く。「それは敵性徹攻兵が第四世代型に留まっているって想像が前提になっているな」

 輝巳がいつもの調子を取り戻し、少し軽んじるかのような口調で答える。「中国が第五、第六世代に到達していると思うの?」

 遊が答える。「情報が分かりきっていない以上、最悪を想定して動くのが勝利の最低条件だ」

 輝巳がたずねる。「それは遊君のいうとおり。

 じゃあさ、遊君はこの作戦、参加するの?」

 遊が首を横に振る様を見て、明理は目を見開いてしまう。

 「うんにゃ、そういう気持ちはない。

 理由は、輝巳とほとんど同じ。

 徹攻兵は国土防衛の力だと思っているからだ」

 これに食い下がったのが快王だった。「颯太パパも春日さんも、どうして力のある大人として作戦に協力しようと思わないんですか?」

 輝巳が口を開こうとしたが、遊が口を開くのを見て輝巳は控える。

 「戦えば最悪死人が出る。

 極論すれば今回の事は中国国内の軍事バランスの問題と俺は思うんだが、その解決のために日本人の血が流れる意味があると思えないんだ」

 今度は司之介がたずねてくる。「生意気をいうようなんですけれども、軍事バランスを語ると、バランスブレイカーですよね、徹攻兵の力は。

 特にロシアと中国にとって。

 その中国、ロシア側の要請に添って徹攻兵が動くことで核による抑止力の世界に戻るのでしたら、広い意味で国際平和につながるんじゃないでしょうか?」

 輝巳も遊も一旦黙ってしまう。

 そして輝巳が口を開く。「これ以上なにかをいうと、じじいが若者に説教してるみたいになって、颯太から大人げないっていわれそうでおじさん黙っちゃいそうになるな。

 だけどさ、司之しののその考え方をわかった上で、知ったこっちゃないって思うんだ。

 ここは遊君とおじさんの考えの違う所なんだけど、おじさんは日本も核兵器を持つべきだと思っている。

 でも、いろんな思惑とか、駆け引きのうまさ、へたさがあって未だに核兵器を持っていない。

 核保有国が百年前の戦争の戦勝国様ですって普段偉っそうな顔していておいて、今困ったから泣きついてきてんじゃねーよ、って。

 平たくいうと大国って奴らにむかついてやる気がしねー、って、だめだこりゃ、何をいっても子供っぽいな」

 司之介はそれを聞いてはにかむ。

 輝巳が続ける。「さっきから皐月ちゃんがずっとうっすら笑ってるんだよね」

 皐月が答える。「颯太君の前では大人しいんですね」

 輝巳が答える。「うちじゃ一番大人なのが颯太で、一番子供なのが詩央なんだよね」

 詩央が割ってはいる。「はあ、お父さんの方が子供でしょ」

 颯太がひとこと。「詩央」

 信世が口を開く。「じじいとばばあはよその国のことで自衛隊の血が流れることには反対って所なんだけど、若者達はどうなの?」

 司之介が寿利阿にたずねる。「寿利阿は参加するんでしょ?」

 「参加っていうか、私は正規の自衛官だから。

 当然、命令にしたがうだけ」

 司之介の物腰は柔らかい。「友達が作戦に参加するのにほうっておけないよ。

 僕は出るつもりですよ」

 快王も答える。「俺も」

 颯太が答える。「俺もおんなじ。

 詩央もつきあえよ」

 詩央が答える。「なんで勝手に決めるの」

 「じゃあ、寿利阿をほっとくのかよ?」

 詩央が答える。「そうはいってないでしょ。

 私もできることをやります」

 そこまで聞ききって、明理がほっと一息つく。「二小には単純な攻撃力というだけじゃなく、詩央ちゃんも頼りにしたかったのよ」

 詩央はなんのことかわからない様子で「はあ」と返事してしまう。

 そこまで聞いて、輝巳は考え込んでしまう。

色川は、その様子を見逃さない。

 が、待つ姿勢も持っている。

 輝巳が落ちつき無く、遊や信世の顔を確かめる。

 皐月が薄く笑う。

 信世が嘆息する。「親の引率は必要ないのよ」

 輝巳が慌てて口答えする。「わかってるよ」

 色川が差し込む。「いかがでしょう。

 都築小隊は、尾形さん、春日さんの二名だけの分隊として編成し、遊軍として布陣に組み込まない運用も考えられると思うのですが」

 遊が呆れたように答える。「多分、俺が断っても輝巳は行くんだろ。

 その、二名編成の特務分隊に出ましょうかね」

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