第047話 後始末
そこからの後始末の方が何かと大変だったかも知れない。
輝巳、遊、堅剛の三人は、三隻の揚陸艇に各々乗り込むと、待機していた操船要員を拘束し退路を断った。
残されていた水上オートバイは五台、ここから、敵性徹攻兵は輝巳達が無力化した五名で全員と推察された。
揚陸艇の周りには、歩哨の歩兵が構えており、散発的に小銃による攻撃を繰り返してきたが、三名は、子供のオモチャを取り上げるように歩兵から小銃を取り上げると、太ももを打ち抜いて行動の自由を奪う。
遊が、兵員輸送トラックからロープを見つけ出すと、一人ひとり捕まえては両腕と両足を縛る。
一八式はなるべく住民に姿を見せるなという信世の指示で、小茂田港北側にある佐須中学校には堅剛が向かう。
皐月は、見よう見まねでなんとか宇の脚の止血を試みると、GPSで手近な山道を捜す。
跳躍を繰り返して山道を駆け抜ける方法もあったが、重症を負う宇の負担はできるだけ軽減したい。
皐月はできる限り安定して背負えるよう、宇の装甲をヘルメットを残して全て外してしまう。
「教官、お加減はいかがですか?」
宇は切れ切れの声で答える。「止血、あり、がとう、ね。気が、遠く、なる感じは、まだ、ない」
皐月は宇の右腕を右肩に担ぐ。
宇は皐月の背中越しに、左腕を左肩の上に回す。
皐月は宇の腰の下に手を回し、「しばらく、我慢してください」と声をかけると、満月の夜空に向けて垂直に八十メートル飛び上がり、足底の光条推進で目当ての山道をめざした。
皐月がこの時、一八式の出力百パーセントに達したことを、信世は見逃さなかった。
明理は袖振山の山頂で手頃な石をみつけ座り込んでしまっていた。
今晩、私は何ができたんだろう。
感覚的に、佐須坂トンネルの東側に敵性勢力はいない。
空を見上げる。
雲間に、満月が見える。
すると気配で、道照と七生が近づいてくるのがわかった。
立ちあがる。
道照が「鷲見一曹、小安三曹、到着しました」と敬礼してくる。
階級は明理の方が上だが、経験は道照や七生のほうがつんでいる。
明理も、返礼する。「到着、ご苦労様です。
バンド、私にも分けてもらえますでしょうか。
私の考えですが、佐須坂トンネルの中を七生さん、トンネル北側に延びる県道四四号線沿いを道照さん、佐須坂トンネルの上の山中を私がそれぞれ、敵性勢力がいないか確認して、佐須坂トンネル西側の出口で一度落ち合いませんか」
道照が「了解です」、七生が「わかりました」と答えてくる。
明理はそつなく「信世さん、それでいかがでしょう?」と確認する。
信世も「結構です。
敵性歩兵は見つけ次第、両腕と両足を拘束してください。
それと、現地住民を見かけたら積極的に保護してください」
ここで一旦区切った信世が、思い出したように続ける。「あ、山中に敵性歩兵が潜んでいる可能性があります。
皆さんの感覚ならある程度つかめるはず。
捕虜を確保する駐屯地の要員に万が一の事がないよう、山中の敵性勢力の無力化にも気を使って下さい」
三人とも「了解しました」と返答する。
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