第048話 本隊の動き、堅剛の動き
日付は変わって十月二十二日金曜日の午前三時、佐世保を出向したひゅうが型護衛艦が厳原港に入港する。
長らく待機状態にあった対馬駐屯地が機能し出す。
対馬駐屯地の対馬警備隊は規模こそ小さいが連帯格の扱いがあり、駆けつけてくれた偵察中隊、施設中隊、通信中隊、後方支援大隊を臨時編成として対馬警備隊隷下に起き、まずは厳原発電所の復旧と、豊玉発電所、佐須奈発電所の被害状況の確認が優先される。
そして後方支援大隊には市役所前で給水作業に当たってもらい、偵察中隊には島全土の住民の状況確認に当たってもらう。
対馬警備隊直接隷下の普通科中隊は、県道四四号線沿いの山中に横たわる隊員達のご遺体と武器の回収に当たる。
せめて、仲間のご遺体は、自分たちで相手にしてあげたかった。
夜が明けても、輝巳達徹攻兵の仕事は続いていた。
一八式をまとう輝巳と遊は、できるだけ住民の目に止まるなといわれ、まずは山中に転がる敵性徹攻兵のご遺体を揚陸艇に集めると幌をかける。
後ほど対馬駐屯地の三トン半トラックで対馬空港に搬送する予定だ。
次いでこれも山中に転がっていた砲撃用高圧砲を回収し、揚陸艇に集める。
更には宇の脱ぎ捨てた装甲服と、自分たちの携行していた八九式自動小銃も回収する。
皐月は宇を県立病院に運び込むと、応急処置と麻酔をしてもらう。
宇本人の希望で、本格的な処置は都内で受けることにする。
堅剛は佐須中学校に向かい敵性歩兵を排除すると、講堂に閉じこめられていた住民を解放する。
トイレにも行かせてもらえず酷い有様だったが、人々からの感謝はくすぐったい。
明理と道照、七生は県道四四号線沿いに敵性歩兵の無力化に当たる。
何人か、堅剛が射貫いた兵士もいたが、一通り手足を拘束すると道ばたに転がす。
とにかく人数が多い。
敵性戦車の随伴歩兵など、抵抗を見せるものもいたが、明理も、道照も七生も、致命傷にならない部位を狙って無力化を効率良く進める。
明理が呟く。「嫌なものね」
道照の「本当だね」、七生の「全く」という同意がせめてもの救いだった。
とにかく、徹攻兵の堅牢性を生かした危険性の徹底排除と後片付けを終えると、機密扱いということで対馬駐屯地の三トン半トラックを優先的に回してもらう。
被害にあった住民の見守る中、小茂田の港を後にする。
復旧した対馬空港に降りてきたCー2に三トン半トラックごと乗り込むと、担架に乗せられた宇が合流してくる。
堅剛が声をかける「むー、どうよ」
宇が笑う。「痛みは大分薄いよ。車いすかな、義足かな」
みな、帰りのフライトは表情が重かった。
十月二十二日の夕方には、Cー2輸送機は厚木に降り立ち、装甲服を外した顕現者達も座間駐屯地に戻る。
宇だけは、自宅近くの総合病院まで救急車で運ばれたが、今回は色々あったこともあり、他の要員は留め置かれる。
空き宿舎を借りて体を休めると、翌土曜日の九時から会議に入る。
今回の鹵獲対象は、中国製揚陸艇三隻、戦車十二両、兵員輸送トラック六両、水上オートバイ五台。
北朝鮮からは早くも、長引く経済制裁による現地部隊の愛国的行動であり、資材と人員の返還を速やかに要求する、と声明が出される。
堅剛がうなる。「むー、さすがだな」
確保された捕虜は総勢三百名余り。
遊が呟く。「そんなにいたのか」
これには、明理、道照、七生も何度か頷いてみせる。
敵性徹攻兵については、結論が出ていないものの、体質、容姿などからウイグル系民族であることが強く推察される。
また、回収された装甲服は装甲の厚さや重量などから、第三世代相当と推定された。
砲撃に使用された高圧砲は単発式で、砲撃ごとに薬室への砲弾の再装填作業が必要な型と見られた。
そして遊の記録画像に残った六人目の敵性徹攻兵についても考察が加えられる。
他の敵性徹攻兵と比べて、やや細身の形状は明らかに異なるものであり第四世代相当と推定された。
そして光条武器の発動。
これは第二世代型に留まる、アメリカ、オーストラリア、ゼライヒ女王国に取って非常に脅威と成る存在だった。
信世が語る「ドイツ、アメリカには報告済みです。
他の各国との連携は、イギリスやフランスも神経質になりますので、ドイツ、アメリカに任せることになります」と一拍開けて「本当は確保して欲しかったんだけど」とため息をつく。
輝巳が両手を後頭部に当ててのけぞる。「むちゃゆーな。
〇六式の堅剛が無事帰ってきただけでも収穫だと思え」そして輝巳が続ける。「それより、宇の怪我、どうすんだよ?
あんなの、奥さんに顔向けできないよ」
沈黙が会議室に走る中、堅剛が小さく手を挙げる。
「むー、それなんだけどさ、もう一度時間をかけて考えるようにするけど、俺、徹攻兵引退するよ」
輝巳は天井を見上げる。
遊は腕組みをして正面を見つめる。
信世は堅剛と合わせた目をそらす。
明理は目元を細めて口を結ぶ。
皐月は、はあ、と目線を左下に下ろす。
道照は顎を引いて眉間にしわを寄せる。
七生は痛々しそうに苦笑いする。
堅剛が呟くように一言告げる。「娘が、二人いるんだ」
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