第五章 着甲時強化現象の飛躍

第049話 第五世代型装甲服の独自開発

 宇は、義足をつけることになった。

 家族には出張中の交通事故で、という説明をした。

 左腕に杖を装着して、ぎこちなく歩くようになった。

 それでも、持ち前のにこやかさは失わなかった。

 堅剛は着甲することを辞めた。

 理由は、二人の娘に心配かけるようなことはできない、というものだった。

 誰も非難はしなかった。

 ある種、まっとうな理由として受け止められた。

 遊は、一八式の運用者として、引き続き展示訓練に参加する意志を示した。

 それが、国のためになるならという考え方だった。

 輝巳も、着甲を続けることにした。

 理由は堅剛と同じ、二人の子供のためだった。

 平社員の身分だけでは、子供達の将来を担えなかった。

 信世も着甲訓練の支援を続けた。

 小隊長役は安全でもあり、予備自衛官という立場も踏まえての選択だった。

 五人、友人であることには変わりなかった。

 ただ、行き方に違いができることになった。


 展示訓練自体は充実することになった。

 皐月が一八式の百パーセントの出力を発揮できるようになっただけでなく、明理も二十パーセントながら一八式に対応できるようになり、一八式の対応者が一気に増えた。

 皐月は時々呼ばれて、アメリカのマサチューセッツにあるセイラム基地に展示訓練に出るようになった。

 アメリカでもようやく二人、第三世代型装甲服の顕現者が現れ、ASー03として制式化された。

 対馬襲来撃退から年の明けた二〇二二年の一月、いつものように第三週末に座間駐屯地を訪れた輝巳と遊を待っていたのは、信世だけではなかった。

 防衛装備庁の陸上装備研究所、着甲時強化現象研究室の係長、武多が会議室にいた。

 武多が口を開く。「なんだかご無沙汰してますね」

 輝巳も驚いた。「ご無沙汰ですね、武多さんじゃないですか。

 どうしたんです今日は?」

 「はい、尾形さんと春日さん、お二人にご相談がありまして」

 輝巳が腰掛けながら「はい」と返事する。

 遊も改めて「なんでしょう」と答える。

 武多は、にこやかに話を進める。「先日の対馬撃退はお疲れ様でした。

 あのときの戦闘記録を何度か確認していたのですが、お二人とも、一八式の出力を超えていました。

 敵性徹攻兵に斬りかかった時の速度が、春日さんで秒速三十八メートル、尾形さんは秒速四十四メートルでした。

 第四世代型装甲服の速度は秒速三三・三メートル。

 これに対して第五世代型装甲服の速度は秒速五十メートルが予言されています。

 お二人は既に第五世代型装甲服の出力を発揮しつつあるのです。

 アデル・ヴォルフ機関からの情報はありませんが、我が国独自での、第五世代型装甲服の開発にご協力いただけませんか?」

 遊は興味深く目を見開いて聞いていたが、輝巳は間抜けにも口を開けて聞いてしまっていた。

 輝巳はそのまま無防備にたずねてしまう。「ほえー、第五世代型、ですか?

 この年になって新型開発の支援ですか?

 そんなことあるんだー」

 遊は落ち着いてたずねる。「新型は、出力向上だけですか?」

 武多は、ピアスだらけの顔を緩ませて語る。「いえ、もう少し検討を深めたら試したいことがあるんです。

 まだ、内緒ですけどね」

 そういうと、武多は、会議室の大型モニターに第五世代型装甲服のイメージを投影する。「これが第五世代型の外観です。

 どうです、一八式と比べてずいぶんスマートでしょう?」

 顔は相変わらずカメラだらけとガスマスクだが、身なりは大分現実的なものに見える。

 輝巳は感心してみせる。「これだと、アスリートの方とか、レンジャーの方は着甲して動けそうですね?」

 武多は、笑って返す。「動けはするでしょうね。

 苦行にしかならないとは思いますが」

 武多が続ける。「そうそう、背面のノズルの形状ですが、一八式も含めて、このように改めるようにしました」

 武多が映した映像では、八角形のボックスが当てられているように見える。

 「第五世代型では、十六分間の光条推進が予言されています。

 これを使って、上下左右、三次元的に機動することが求められてくると思い、形状を変更することにしました。

 また、胸や腰の位置にも、足裏と同じカバー付きのノズルを配置します。

 これで空中で後方に飛び退く動作なども可能になります」

 武多は、ピアスだらけの顔を自慢げにほころばす。「とにかく、お二人には今後、この第五世代試作型を着甲していただいて、訓練に参加いただきます」

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