第009話 掃討
信世が切り出す。「遊、輝巳、今更で悪いんだけど」
二人とも、敵の小銃弾や手榴弾をものともせずに、見つけては倒し、ふさがれたら壊し、と艦内を内側から蹂躙していく。
「何だってー」
「それなりにいそがしーんですがー」
「その船、最大兵力八百名を搭載することもあるらしいの」
二人揃って止まる。
「はあ?」
「ばかじゃねーの?」
「現在、マルフタサンヒト、作戦の続行をお願いします」
遊が、弾倉の上下を入れ替えながらたずねてくる。「いよいよ弾切れになったらどうすんだよ?」
輝巳が答える。「床に転がってるヤッコさんたちのを借りるんだろうなあ」
奥に進むにつれ、非武装の乗組員、無抵抗の乗組員も出てくる。
輝巳がたずねる。「これも?」
信世が答える。「後ろから反撃されたくないでしょ、それも」
引き金を引く。「遊君?」
「なんだよ」
「なんか俺、惰性になってきたよ」
「あー、俺もだ」
「人間、こんな事にも慣れてくるんだな」
「恐ろしいことだな」
輝巳と遊が手分けして艦内の生存者の殲滅を進める間に、堅剛と宇は暗闇の山岳を駆け下りる。
断崖を駆け上ったのと逆の要領で、前傾姿勢を取って飛び跳ねるように前に進む。
向かって左手に天幕、右手に漁船。
左手に向かったのは堅剛、下り斜面を水平に飛び跳ねながら両手に構えた小銃で歩哨の兵士を四人打ち抜くと、天幕を裏から突き破り両足を前に突き出して制動をかける。
タンタンタン、タンタンタンタン、タン、タン、タン。電波発信の機器を中心に破壊する。
タンタンタン、タンタンタンタン、タン、タン、タン。機器の近くに居る兵士から、確実に脳幹を撃ち抜いてけりをつける。
右手に向かったのは宇、浜辺に横倒しに乗り上がった漁船を目がけて飛び跳ねると、視界の端にトランシーバーを持った男が目に入る。
とっさに体をひねり、右の銃でトランシーバーを、左の銃で男の頭を撃ち抜く。
跳躍の勢いは止まらず左の肩から漁船に突っ込む。
衝撃で船の向きが変わっても気にしない。
すぐさま立ちあがり、両手の銃の銃床を砂浜に突き刺すと、船上構造物だった船室に飛びつき、両手で屋根部分を引っ張り剥がす。
漁をする船には大きすぎる船上構造物の屋根を一気に引きはがすには、三歩、五歩、七歩と歩みを進める必用がある。
さながら建築重機のように屋根をすっかり剥がしてしまうと、カメラを暗視スコープに切り替える。
中には網などの漁具などはなく、船の前方には機器類が、後方には武器類が詰め込まれている。
人影は見当たらない。
ひとまず武器を取りに戻り、タタタタタタッ、タタタタタタッ、と機器から破壊する。
改めて周りを見渡すがこちらに人影らしいものは見えない。
今一度横倒しの船内に目を向ける、狭い作りで宇の装着した〇六式では中まで踏み込むことができない。
「信世、こっちはここまででいいかな?」
「現在、マルフタヨンゴー。船底に敵性乗組員が隠れている可能性はないですか?」
「可能性はあるけど、〇六式では入れなさそう。
どうしよう、使えそうな武器が固まっているけど、壊しすぎない方がいいんだよね?」
「はい、その場で少し待機。
堅剛、そちらの手は足りていますか?」
堅剛が弾倉を差し替えながら答える。
既に天幕を後にし地対艦ミサイルの車両の方に足を向けている。「むー、ポツポツ散らばっているんだよね。足りないってことはない」
「了解しました。では宇は念のためその場で待機してください」
「分かった」と答えると宇の被るヘルメット内には、輝巳や遊、堅剛の時折放つ銃声がこだまする。
ため息。
遠目に、先ほど倒した男の姿が見える。
一人だけでも気分悪いや。
二月二十八日日曜日の午前三時、堅剛が話す。
「信世、こっちの方はあらかた片付いたかな」
「現在、マルフタゴーナナ。堅剛は引き続き周囲を警戒し、ミサイル、天幕、漁船の周囲を警戒して下さい。
宇は一旦ジェットスキーに戻って、ラインメタルを回収後、島の山頂をめざしてもらえますか?」
堅剛と宇が「了解」と短く答えてくる。
輝巳と遊は揚陸艦の艦内の捜索を続ける。
一度、フロア違いですれ違いもしたが、お互いが仕事を進める。
なるべく無駄弾を撃たないようにしていた輝巳だが、結局、艦尾のドックに兵力が残っていて、身に帯びた弾倉のほとんどを使い切る。
信世から指示が入る。「現在、マルヨンフタロク。輝巳、艦内の捜索は遊に任せて、輝巳自身は甲板に上がり、ジェットスキーの捜索に当たって下さい。
遊は引き続き艦内の生存者の捜索と、殲滅に当たって下さい」
輝巳と遊が「りょーかい」と答える。
輸送車両の間に死体の横たわるドック内を戻る。
念のため、車両の下ものぞき込み、隠れている敵性乗組員がいないか確認する。
入る時に蹴破った扉を通りすぎ、狭い艦内に戻る。
艦内の階段は細く華奢で、あらかた踏みつぶしてしまっているため、一階ごとに飛び上がって上に戻る。
回転翼機の格納庫に戻り、積み重なる死体を見つけると呟く。「なんか、あっという間だったような、凄い遠くに来てしまったような、何とも言い切れないこの気持ちは、なんだこれ?」
遊が通信してくる。「だな」
宇が割り込んでくる。「ごめん」
輝巳が答える。「どした?」
「おれ、一人しか相手してない」
再び輝巳が答える。「でも、割り切るしかないようなこの後ろめたさは、きっと一緒だろ?」
「うん」
「さてっと、帰りの足はあるかな?」
破って入ったシャッターをくぐり、後部飛行甲板に出る。
小走りに船尾に駆け寄ると未明の海を暗視スコープで見つめる。
「無いなあ」
信世が語りかけてくる。「帰りの足はこちらで用意することもできるんだけど、ラインメタルを回収したいのよね」
「あー、なる。
でも、何に使うの?」
「領海内に入ってきてる船がいるのよ」
「ちょっとまって、領海って何キロ」
「約二十二キロ」
「ぎりぎり、有効な弾が届くかどうか」
「私達なら当てられるでしょ」
「あ、見つけた」
輝巳は、少し離れた波間に見え隠れする水上オートバイをカメラに映す。
「あそこまでなら飛べるな」
昼の光の元であれば、輝巳の足底と背嚢のノズルから、黒い影のような光条が吹き出す様が目に映ったかも知れない。
フッ、と輝巳をつつむ一八式が浮かび上がると、まっすぐに水上オートバイの上に進み、一度勢いを殺してから、上から下へと降りる。
エンジンを始動させる。
信世から通信が入る。「輝巳、遊の分も探せる?」
「りょーかい」
「遊、艦内の捜索は切り上げて、艦首側の甲板に上がって下さい」
「分かった」
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