第262話【ネタバレあり】APFSDS弾と滑空砲【解説編】

 ご覧いただきありがとうございます。

 以下、いささかのネタバレを含みます。

 ネタバレの苦手な方は、是非、第001話から第100話までの本編をお楽しみの上、再度お越しください。

 なお、第十二章~第十九章、第110話~第199話は欠番で、最初から存在しません。





――ここから――



 めちゃくちゃ今更なんですけれども、APFSDS弾ってなんだかご存じですかね?

 徹甲弾で徹攻兵の名前の着想にもなった砲弾なんですけれども。

 

 ひとことでいうと弓矢です。

 

 戦車というのは敵陣地の突破力が求められることは第203話でも書いたところです。

 当然、敵の攻撃も受けることが前提で、その攻撃に耐えられる防御力も求められます。

 

 敵弾を無効化する方法として、薄い装甲板の間に火薬を仕込んで、打撃と同時に爆発反撃することで攻撃の効果を弱める爆発反応装甲というものも開発されましたが、比較的早期から取り組まれていたこととして避弾経始を取るために装甲を傾斜するという方法があります。

 

 砲弾というのは弾ですので、面に対して斜めに当たると中にめり込まないではじかれるんですね。

 これを持って「戦車の装甲を斜めにしたら、敵弾怖くないじゃん」と、斜めの装甲が流行りました。

 

 これに対向するべく考えられたのが、塑性流動という現象。

 秒速千五百メートル程度の速度で物質同士をぶつけ合うと、相互に個体ではなく流体として作用し侵食し合うという現象で、この現象の特徴は、弾体が装甲版に対してほぼ並行に着弾した場合を除いて対象に損害を与えられるという性質です。

 

 この塑性流動を効果的に利用するのに必用なのが「早さ」と「長さ」なのです。

 この「長さ」自体は弾体を長く作ればよいのですが「早さ」を与えるために必用なのが、四四口径、砲身長五百二十八センチメートルにおよぶ砲身なのです。

 この砲身を移動する間、ずっと火薬の威力を受け続けて、音速をはるかに超える、秒速一・五キロメートルという弾速を得るわけです。

 

 ちな、塑性流動は個体同士のぶつかり合いを利用した現象です。

 

 さてここで銃身、砲身のライフリングの話しに移ります。

 そもそも火縄銃は丸い弾「丸」を火薬で飛ばしているだけでした。

 野球のピッチャーですらボールに軸回転をあてて弾道を安定させているのに、火縄銃では飛び出した弾丸に対する工夫が無く、弾が狙いに集まらない嫌いがあります。

 これを安定させるために設けられた工夫が、弾丸を射出方向に対して横方向に回転させるという工夫です。

 ジャイロ効果といいまして、三次元空間で回転する物体は、回転軸の方向に姿勢を安定させる性質を持つというものです。

 この弾丸に射出方向に対する横回転を当てる工夫をライフルといい、ライフル銃の語源になっています。

 基本的にライフルというねじ山みたいな溝の刻まれていない銃はありません。

 

 が、

 

 APFSDS弾は塑性流動という「高速で個体同士をぶつけるとお互いが液体みたいに流体として侵食し合う」現象を利用していますので、ここに横回転なんか加えると、折角の「高速で個体同士をぶつける」効果を弱めてしまうんですね。

 そのため、現代の主力戦車の主砲のほとんどが、ライフリングのない滑空砲となっています。

 

 で、

 

 第105話、第233話でも書きましたが光条砲はただの光の束が飛んでいくだけのくせにライフリングを求めるんですよ。

 ライフリングがないと、光条が散弾のように散らばり、威力もがた落ちするんです。

 また、飛距離のために砲身長も求めます。

 あと、相応の威力を与えるためには砲圧に耐える肉厚の砲身も求めます

 光の束が飛んでいくだけのくせに、割とあれこれ要求してくるのが、光条銃、光条砲の特徴だったりします。

 長距離戦で使う光条銃、光条砲ですが、もし、砲身の先端のライフリングの部分を切り落とすことができればそれだけで威力を半減以下に落とすことができます。

 

 だから、彼はあの時あの「分隊」でまずそれをしたんです。

 

 この説明を本編に入れるとどうしてもリズムが悪くなり、ここでこう解説することであの時の彼の行動への理解の一助となれば幸いです。


 もし、お気に止まりましたら100話までの本編をご笑覧ください。

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