第069話 了解

 輝巳は、あー、といって頭を抱える。「莉央さんに説明がつかない」

 遊が声をかけてくる。「若い命を危険に曝すことはない」

 輝巳は、言葉を選びながら語る。「危険、については、よくよく考えさせたいけど、もう成人している大人だし、ほんとよく考えさせて判断させたい。

 それより、侵攻の方法かな。

 船で近づいても的になるだけだから、先遣隊は空から降りるしかないけど、三次元機動のできない〇六式は的でしかないから、一八式が最低条件ってことになる」

 遊が食い下がる。「お前、自分の息子だぞ」

 輝巳が「戦いは数だよ、あにきー」と返事すると、遊は輝巳をこづく。「止めろ、お前の方が誕生日がはええ」

 輝巳が続ける。「俺と遊君が真っ先に降りて八尺砲を乱れ撃つ。

 俺たちなら十六センチの穴を開けられる。

 ちょっと覚悟が足りないかも知れないけど、向こうの徹攻兵、そんな穴開けられたこと無いんじゃないかな。

 頭に当てればヘルメット、ほとんどがら空きになるし。

 全く動揺しないってことは無いと思う。

 で、うち尽くしたら降りて近接戦。

 これも得物の長さで勝負。

 俺たちが足を止めた相手に若手が集中砲火。

 相手の手数が読み切れないから、こちらも数を揃えるだけ揃える。

 という考えなんだけど」

 遊が厳しい表情を作る。「甘い。

 向こうに第五世代、第六世代がいないことが前提になってる」

 輝巳がつまらない顔を作る。「うー、それを言われると返す言葉がない」

 遊もうなる。「もう一枚、なにかが欲しい」

 輝巳は少し投げやりに呟く。「スパイかなー。

 どこまで信用できる情報が集まるか知らんけど」

 遊も考え込む。「得物の長さかな。

 第五世代型が着られるなら、あほみたいな得物を持つだろ」

 輝巳も遊も実践してみたことがあるが、二六式では刃渡りだけで二・五六メートルという長刀のような光条兵器を発光させることができた。

 信世が色川にたずねる。「その線は、可能性あるんですか?」

 色川が答える。「全ての起点は都築小隊が動くかどうかから始まります。

 勝算があるなら、周囲もどんどん本気度を増しますし、勝算がないなら、諦めるだけです」

 信世が輝巳と遊に顎を振る。

 「りょーかい」「了解」

 二人、うなずいてみせた。


 全ては平行して動いていった。

 輝巳の知っていることも知らないことも起きていった。


 輝巳は、乱戦を想定して、摸擬刀を持った遊、皐月と長得物で訓練に臨んだ。

 距離を取ることを意識すれば逃げ回るだけになるし、当てに行こうと踏み込めば背中が危うくなる。

 相手の足を止めるどころか、背中や脇を汚されることもあった。

 実戦では即座に死を意味する。

 あれこれ立ち回りを考える中で、前だけでなく後ろにも光条の刃が欲しくなり、ものの試しに百二十八センチ刀を二本溶接してもらった。

 手元だけで七十センチを超え、三メートルを超える非実用的な武器だったが、これが輝巳にはよく合い、二人の挟撃に距離をあけるのではなくしのぐ機会が増えた。

 ものの試しに皐月が握ると、皐月も輝巳と遊の攻撃をよく避け、そして時によく耐えた。

 輝巳がたずねる。「八本様」

 皐月が上気して答える。「ええ」

 マスク越しに二人が意気投合する声を聞いて遊が妬いた。「俺にも見せてくれよ」

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