第023話 発光試験

 補助要員は落下傘の回収と収容を開始する。

 輝巳、遊、明理、皐月はコンテナに向かう。

 信世から指示がでる。「こっちの司令も含めて、誰もが気になっているところだから、まずは四人、光条武器の発光状態から確認してもらえる?」

 「了解」「りょーかい」と口を揃える。

 「まず、宇、三十二センチの刀を持ってもらえる?」

 宇が、三十二センチの刀を握る。

 信世が指示を出す。「光条の発光、願います」

 宇が苦笑しながら呟く。「そういわれてもね、こうかなあ?」

 宇が、握りの部分に隠されたクリスタルを意識しながら、刃の部分を囲むように意識をすると、ぎりぎり目で追える素早さで、柄のところから刃先にかけて、宇の光条の特徴である緑色の鮮やかな光りでつつまれる。

 おお、という声は本人よりも、九百八十八キロ離れた座間駐屯地の司令所で上がった。

 信世から指示が飛ぶ。「宇、暗視から自然光にカメラを切り替えます」信世の操作で宇の視界が一気に暗くなる。

 しかし光条武器の鮮やかな光で、コンテナの中身まで照らされる。

 信世が続ける。「切れ味を試して欲しいところだけど、まずは出力の確認からね。宇続けて、六十四センチの刀に持ち替えてもらえる?」

 「はいよー」と宇が意識を切り替えると、光条が止まったとたん、画面が一気に暗くなる。ほんの少し待つと、自動で暗視に切り替わる。

 信世が苦笑しながら呟く。「夜間は暗視のままがいいみたいね」

 そうだね、と答えながら宇が六十四センチの刀を持つ。

 こうかな、と光らせると刀全体が光らず、先端に非発光部分が残る。

 信世からまた、指示が入る。「今回の刀、目盛りが振ってあるでしょ。

 どこまで光ってる?」

 宇が確かめる画像が、座間のモニターに大写しになる。「ええと、五十四センチだね」

 信世が電卓を叩く。「出力六十八パーセント、初めてとしては十分じゃない。

 ドイツでの検証では六十四センチまでは光るらしいけど、それはこれから慣熟していけばいいし。

 そしたら、堅剛、六十四センチの刀を手にしてもらえる?」

 堅剛は、コンテナの荷物をあさり、六十四センチの刀を手に取る。

 両手で握り、まっすぐ前に構えてみせる。

 程なくして、堅剛の光条の特徴である鮮やかな赤色の光でつつまれる。

 やはり先端に非発光部分が残る。

 「むー、五十五センチ、宇とどっこいだね」

 「出力七十一パーセント、発光を認むもなお慣熟を要する、といったところね」

 気をよくした信世が、遊に指示を出す。「そしたら遊君、百二十八センチの大太刀にトライしてもらえる?」

 遊が笑いながら答える。「なんだこの化け物は」そういうと、軽々と振り回してみせる。「さて、こんな感じかな」と構えると、信世がすかず「発光、願います」と口にする。

 遊の光条は紫。

 鮮やかな紫の光が剣を覆う。「百二十センチ」

 信世が再び電卓をたたく。「えーと、出力八十七・五パーセント。いいじゃない。じゃ、とりはいつもの輝巳で」

 「はいはい」と輝巳は苦笑い。「緊張するんだよね、こういう役回り」いいながら、百二十八センチの刀を取り出す。「緊張するっていうかさ、落ち込むんだよね。

 そっちにいるみんなも、信世も含めてお偉いさんなのに、どうして俺は仕事ダメなのかなあ?」

 片手で持ち、軽く振り回すと。「いいかな」とたずねる。

 「発光、願います」

 「はい」

 輝巳の光条の特徴は黒。

 闇夜の中ではある意味全く見えづらい。

 暗視スコープの画像のなかでも、刃の部分にもやが掛かり、発光、とは言えないが光条が発動しているのが分かる。

 「全部行ったね」

 「百二十八センチ、出力百パーセントを確認しました。

 さすが、日本のフランツ・シュタイナーね」

 「うーん、ありがたいけど、こればっかり出来てもね。

 仕事、どうしたらいいんだろうなあ?」

 それはここでいわれてもね、と信世が苦笑する。

 次いで明理、皐月にも試行させる。

 〇六式の明理は紫色光条、四十八センチ、出力五十パーセント。

 一八式の皐月は黄色光条、七十一センチ、出力約十一パーセント。

 二人とも、自分が着ている装甲服の一つ前の世代の長さは超えて見せたことで、その世代の装甲服をまとうのにふさわしいことを証明してみせる。

 こうなると男の子達は切れ味を試してみたくなり、信世の指示が飛ぶより先に、コンテナの中のジャンクを取り出す。

 砲丸投げの弾が二十個、廃棄品のエンジンが六個入っている。

 信世が伝える。「ちなみに、自分の光条で自分の装甲に損傷を与えないことが確認されているから、砲丸弾は手のひらの上で切っても大丈夫よ」

 それを聞いた堅剛が、左腕前腕の装甲に、そっと赤い光条を当てる。

 次いで、力をかけて当ててみる。

 「たしかに、脆化はおきないね」

 輝巳が口を開く。「ありがたい話しだね、誰もが遊君みたいに作法を心得ているわけでもないもの」

 遊が答える。「俺だって真剣を扱ったことはねえよ」

 輝巳が続ける。「日本兵が軍用刀で指を傷つけるのは珍しく無かったらしいけど」

 遊が受ける。「だな」

 宇が早速、手のひらに載せた砲丸に光条武器をあてる。

 すとん、と手のひらに刃が届く。「豆腐だ」

 どれどれ、とみんな砲丸を手にする。

 堅剛が、やってみな、と明理と皐月にも砲丸を渡す。

 もちろん二人とも、お手玉か何かを持つ気軽さで、砲丸を左手に乗せる。

 そしておのおの、光条武器の刃で砲丸を切り裂く。

 「豆腐だな」「豆腐だ」「豆腐ですね」はあ。

 と一様に口を揃えて手応えを伝えてくる。

 信世が苦笑する。「豆腐の手応えっていうのは、アデル・ヴォルフ機関の報告書には無かったわね」

 そして続ける。「さて皆さん、大事な試験が残ってるんだけど、資材の中から、おのおのの左腕前腕の予備パーツを確認してもらえる?」

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