第024話 破壊試験

 遊が資材を漁ると、尾形、春日、山中、根本、穂村、相原の名前が書かれた段ボールが出てくる。

 おのおの開封し、自分の予備パーツであることを確認する。

 「そしたら、宇と輝巳、遊と堅剛、明理ちゃんと皐月ちゃんでペアになってもらえる。

 脆性試験をしたいんだけど、おのおの慎重にやってね。刃先を当てる程度にとどめて下さい」

 宇が笑う。「危なっかしーことやらせるなー」

 信世が真剣に答える「装甲の耐久力を記録する意味でも、光条武器の破壊力を試す意味でも、万が一の近接戦闘を想定する上でも大事なことよ。

 くどいようだけど、本当に慎重にやってください。

 そうだな、順番に行きましょう。

 まず輝巳、左腕を伸ばしてもらえる?」

 輝巳が苦笑する。「切られる方はまっさきなのかよ」

 信世が続ける。「あんたの光条は光条じゃなくてもやだから分かりづらいのよ。

 宇、発光してもらえる。

 輝巳のカメラ、通常光に戻すわよ」

 信世の操作で、輝巳のヘッドマウントディスプレイの表示も切り替わる。

 宇の、鮮やかな緑の光条が視界に映る。

 信世から指示がある。「宇、淡く光っている部分で輝巳の腕を照らしてもらえる?

 決して、刃は当てないで」

 ゆっくりと宇が刃を近づける。

 信世も、慎重に言葉を選ぶ。「輝巳、異常はない?」

 「うん、特にまだ何も感じない」

 「宇、もうちょっと近づけてもらえる?

 刃がぎりぎり触れない程度に」

 宇もまじめな声になる。「こえーな、これ」

 「ストップ、一旦外して。

 輝巳、自分の装甲確かめてもらえる?」

 輝巳は腕を曲げると、右手の指で宇が今照らしていた辺りを確かめる。

 輝巳が答える。「装甲に損傷は認めず、塗装にも異常なし」

 信世も確認する。「では次の段階に行きましょう。

 輝巳、もう一度腕を伸ばして。

 宇、今度は刃先をゆっくり当てて下さい」

 「了解」と、宇は慎重に刃先を当てる。

 光条の一番強く発光する刃先を当てると、塗装面が線状に反り返る。

 輝巳が呟く「来たね。特に痛みは感じない」

 信世が声のトーンを下げる。「宇、そのまま気持ち、五ミリくらい進められますか?」

 「了解」と、宇は少しずつ刃を下げる。

 刃を中心に、一センチくらいの細かいひびが装甲に入り、刃が食い込んでいく。

 「そこまで」信世がとめる。

 宇はすっと武器を上げる。

 輝巳が暗視に切り替えて、自分の左腕をカメラの前にかざすと、右手で傷跡をなぞる。

 脆化した装甲がぼろぼろと落ちてゆく。

 宇が語る。「包丁で卵の殻を切ったことは無いけれども、きっとこんな感じの手応えなんだろうな、って感覚があったよ」

 信世が受け止める。「なるほど。

 でも、格闘戦においては無いも等しい防御性ね」

 堅剛が呟く「むー、ドイツはよくこんなもの見つけたな」

 信世が続ける。「さ、慎重に、てきぱきと行きましょう。

 次は輝巳と宇、交代ね」

 こうして慎重に、しかし着実に試験を繰り返していく。

 明理が呟く。「ふー、でも本当に、卵の殻みたいな感覚ですね」

 だろー、と宇が得意げに返事する。

 一通り全員終わると、損傷した装甲を外し、予備品に付け替える。

 何気なしに輝巳が、外した損傷装甲を光条武器で切る。「豆腐だ」

 信世が叫ぶ。「あっ、なにしてんの」

 「えっ、えっ?」

 「それ、また修復して使うものなのよ」

 「ごめん」に続けて、どんだけ日陰者なんだよ、と呟いた輝巳の声を信世は聞き逃さない。

 「聞こえてるわよ。毎回実弾訓練出来てるだけでも奇跡なんですからね」

 はーい、と返事する輝巳のそれはだだっ子にも似て、マスクの下で明理も、皐月も唇の端を少しつり上げる。

 ついで、つばぜり合いの訓練は、万が一のことも考慮して、短い三十二センチの光条武器を使って行われた。

 出力の違いも考慮して、〇六式同士の宇と堅剛、一八式同士の輝巳と遊で行われる。

 光条部分を交差させて、お互い徐々に力をかけていく。

 不思議と地面を痛めない装甲服の足底が地面にめり込む頃には、既に刃の部分には数十トンの力がかかっているが、それでも、お互いの光りは混ざらない。

 信世が「そこまでにして」というので、四人とものけぞるように力を緩める。

 信世が続ける。「じゃあ明理ちゃんの相手を宇、皐月ちゃんの相手を輝巳がやってもらえる?」

 輝巳が確認する。「受けろ、ってことだよね?」

 信世があきれ声を出す。「当たり前でしょ。

 これから出力を伸ばす子に、フランツ・シュタイナーが本気を出して何をするつもりなの?」

 皐月が、黄色く輝かせた光条武器を構えてくる。「よろしくお願いします」

 「はい、どーぞ」と輝巳は横に構えた光条武器の、刃先の峰の部分に左の手のひらを当てる。

 実際には峰の部分にも光条が集まり、実質峰は無いのだが、自分の光条では自分を傷つけない特性が、こんな形で生きる。

 十字に刃を当てた皐月が、徐々に力をかけていく。

 やがて皐月の足底の地面が削れていくが、輝巳の姿勢は変わらない。

 信世が「はい、そこまで」と、声をかける。

 皐月が、はあ、と一息つく。

 輝巳が声をかける。「いずれ俺や遊君と同じ力が出るからさ」

 はい、と返事をしてきた皐月がどんな表情だったのかは、お互い、マスク越しで分からない。

 信世から指示が来る。「さて、今夜の光条武器の試験訓練はこのくらいにして、〇六式と一八式に分かれて、いつもの出力訓練をして」

 そういわれて皆、光条武器の出力を押さえると、コンテナに収納に向かう。

 輝巳が、名残惜しそうにもやの掛かった三十二センチ刀を振り回すので、遊がいぶかしがる。「お前さん、なにしてんの?」

 「いや、これ、飛ばすこと出来ないのかな?」

 遊が吹き出す。「そんな物騒な武器ねーよ」

 いやー、ゲームだと飛んで行くじゃない、と輝巳が苦笑いして出力を止める。

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