第081話 第六世代型装甲服
これまでは会議といえば明理も皐月も、道照も七生もいたので、輝巳、遊、信世と満、優子、数人の士官、そして武多という組み合わせが少し寂しくもある。
しかし、武多はお構いなしに上機嫌で話し始める。「いやー、お二人とも危うく我が国の国家機密を国際回線にのせちゃうとこでしたねー」
輝巳は苦笑いする。「もうね、俺わかっちゃった」
遊もあきれ顔を作る。「俺だってわかったよ」
武多が嬉しそうに受ける。「わかっちゃいましたか。
二人とも跳躍高度が百六十メートルを超えていたんですよ。
第六世代型、取り組んじゃいましょう」
そういって武多が大型テレビに映し出した第六世代型装甲服のデザインは、これまでスマートと称されてきた二六式をさらにスリムにしたものだった。
輝巳が感心しながら呟く。「もう、型式名称アールエックスなんとかにした方が」
そこまでで遊がこづいてくる「止めろ。
そもそもお前の名前はテンパっていない」
輝巳が苦笑いする「輝いちゃってるからな」
遊が、輝巳の冗談をぶった切るように話しを切り替える。「二六式の時も同じようなことを聞いたと思うのですが、第六世代型は出力向上だけですか?」
武多が困ったような顔を作る。「わからないんですよ、まだ。
第一世代型は脅威の防御力と運動能力、第二世代型は光条武器の発動、第三世代型は光条推進を可能とし、第四世代型は光条砲の運用、第五世代型で水中稼働、とまあ、世代を上げるごとに何らかの追加能力を発揮してきました。
でも、さすがにもうなんかとんでもない能力なんて無いと思うんですよ。
そもそも前回の作戦で第四世代型ですら高度一万メートルから放りだして死なないし、もう、いいんじゃないかと」
遊も苦笑いする。「そうですね、超人ぶりもここまで来たら極まった感がありますよね」
武多が呟くようにいった。「ただなあ、もし、第七世代型があるとすると、太ももと二の腕の装甲がなくなっちゃうんですよね。
そんなことって有るのかなあ」
信世がそれを受ける。「一九九八年の制式化から三十年経っても、謎は謎のままに取り組んでいくのが徹攻兵のあり方なんですかね」
四人、一瞬、遠い昔に思いを馳せる。
武多が思い出したように口を開く。「ところで各国、第四世代への更新には手を焼いているみたいです」
輝巳が口答えする。「いや、それはおかしい。
うちの子達軽々到達しましたよ」
武多が諭すようにいう。「輝巳さん、輝巳さんの子というか、いいづらいことですが、実戦で敵性徹攻兵を無力化した徹攻兵の子、ということが大きいようなんですよ」
輝巳は、それを聞いて黙ってしまう。
代わりに、遊が口を開く。「確かに、俺たちは〇五式から〇六式には武多さんの計算の元にデザインされてから、アデル・ヴォルフ機関に逆に照会する方式で制式化に成功しましたが、一八式の制式化までは十二年の歳月を費やしました。
それが二六式の切っ掛けは対馬撃退の二〇二一年ですし、今回も南沙解放を受けてのことといえます。
切っ掛けを、敵性徹攻兵の撃退に求めるのは因果関係の一つとして関連づける考え方も頭ごなしに否定はしません。
でも、相手側もずいぶん光条砲を撃ってきました。
第四世代だけで三十名はいたんじゃなかったかな」
遊は一度言葉を句切って、選ぶように慎重にいう。「武多さんに悪意があるなんて思いませんが、やっぱりその、人殺しの子が人殺し向きって聞こえちゃいますよね」
信世が「遊、そういういいかたは無いんじゃない」とたしなめる。
武多も、珍しく困ったように言葉を選ぶ。「そこはいささか、申し訳なかったと思います。
ただその、いいかたなんでとらえ方まで強要するわけではありませんが、
もののふの子はもののふととらえていただけたら私としてもありがたいです」
輝巳が口を開く。「その、なんていうか。
任務としてそれなりに取り組んできたこと、そしてその結果人の命を奪ったことを否定するつもりはありません。
その、
人は活きるために、他の生物の命を、一番活きの良い状態の命を頂いています。
だから子供達には常々、食事が一番大事、と説いてきました。
そういう導き方も、彼らには影響を与えてきたのかも知れません。
ただその、武多さんも無根拠に語る人じゃない。
なにかありました」
武多は、一息ついて話し始める。「尾形さんにそういっていただけると助かります。
嫌な話しがまだ続くんですが、今回、お二方は捕虜を一人作ってくださいました」
その一言で輝巳が驚く。「嘘でしょ?
いやその、もしかして。
同士討ち?」
武多が頷く。「彼の名はどうやらメフテム・アフン。
アフン・サディクという人物の長男として生まれ、小さな一族の長をになう立場のようです。
非常に口が堅いようですが、訓練の一つとして、歳へた、まともに動けない徹攻兵との同士討ちを繰り返したと」
輝巳が渋い顔で目をつぶり上を向く。「嘘でしょ。
聞かなきゃ良かった」
遊は怒りを押し殺した仁王面を作る。「
武多が続ける。「ここは私の推察ですが、ムスリムも年長者を敬うと聞きます。
党への忠誠心を計ると称して実施させたのではないかと。
そのうち、成績優秀なものが出始めて強化への有効性に着目しだしたのではないかと考えています」
輝巳が泣き出しそうな苦笑いで答える。「いやー、ここに明理ちゃん達がいなくて良かったな。
おじさん、こんな話し聞かせらんないや」
武多が答える。「ゆっても相原一曹ももう三十路ですからね。
当然、この話は既に知っていますし、二小にも伝えようと思います」
輝巳が急に割り切る。「あ、それはよろしくお願いします。
家の子達にはよくよく現実を勉強させてやってください」
信世が口を挟む。「輝巳あなた、明理ちゃんや皐月ちゃんと詩央ちゃんの扱い違いすぎない」
輝巳はなんてこと無い、という風に答える。「だって詩央、こないだ十六になったんだよ。
一昔前なら結婚もできたし、家の子はもう分別がつくと思う」
信世が呆れる。「それにしたって扱いの差が」
輝巳は悪びれもなく答える。「だって皐月ちゃんと明理ちゃんかわいいじゃん、家の詩央の次くらいに」
遊が呟く。「馬鹿親」
輝巳が答える。「よく言われる。
ところで武多さん、ドイツは第五世代型、慣熟してるんですよね?」
「はい」
「ドイツはどんな工夫をしているんです?」
武多は、何を当たり前の事をといわんばかりに答えてくる。「だってドイツですよ。
東で不可能を可能にするのが我々なら、西で不可能を可能にするのはあの民族しかいないでしょ」
遊が顔をほころばせて口を挟む。「理屈になってないのに説得力がぱないな」
武多が続ける。「もう少しまじめな話しをすると、敗戦した復興国というのが何らかの要因として作用しているのではないかとも考えられています。
その点で行くと、ゼライヒ女王国も第四世代型の慣熟を終えています」
輝巳が感心する。「あ、そうなんですか」
武多がさらに続ける。「あの国、王立女子士官学校があるんですが、そこでの成績優秀者がASー04の慣熟を終えてしまっていて、フランスが大喜び、で、アメリカとイギリスが苦い顔で送り込んできたんですよ。
お二人の元に」
輝巳と遊が面食らう。「何を?」「え?」
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