第082話 灰色光条

 武多が、お通しして、というと、二人の外国人女性が案内される。

 色白の肌にそばかす、黒い瞳、暗めの茶色の髪にソバージュをかけている長身の女性がネイティブ・アメリカン出身のサリーリ・カミック。

 百七十二センチの身長を細身の体が覆う。

 切れ長の一重の目がやや眠たげにとろんとしている。

 アジア系と紹介されればそのまま信じたかも知れない。

 もう一人、

 褐色の肌に自然な色合いの金髪がかった癖っ髪、百六十六センチの長身には不釣り合いなほど細く、今にも倒れてしまいそうなのがオーストラリア先住民出身のキエラ・ニンディリャグ・マクマホン。

 本来、人なつっこそうな丸い瞳と低い扁平がかった鼻がかわいらしいが、輝巳と遊を見る目つきは緊張しているのか、こわばっている。

 二人、敬礼してくるので、輝巳も遊も、立ち上がり返礼する。

 輝巳が困ったように苦笑いする。「ちょっと武多さん、俺、英語分かんないんだけど」

 武多は気にしない。「着甲すればインターネット音声認識と機械翻訳が使えますから、ゆっくりなら何とかなりますよ」

 遊がよどみなく自己紹介する。「ハイ。

 マイネーム イズ ユウ・ニコラウス・カスガ。 

 ジャスト コール ミー コリン。

 ナイス トゥ ミーチュー」

 それを受けてサリーリは「リリー」と、キエラはそのまま「キエラ」と呼んでくれと自己紹介をしてくる。

 皆のやり取りを見ていた輝巳は「は、は、はばないすでい」というのが精一杯で、その場の失笑を買う。

 輝巳としてはひたすらこっぱずかしい。「ぐぬぬ、それにしても武多さん、どうしてまた女の子なんです。

 おじさん相手は女の子がいいとでも」

 武多が顔を曇らせる。「いえ、ことはちょっとやっかいでして。

 まず、二人とも光条の色が灰色でかなり光らないんです。

 今回の強襲で黒色光条の有効性には各国が着目していて。

 それと、二人とも予備役で正規の軍人とは少し違います。

 さらにいうと、二人とも複数の精神疾患を持っていて、鬱病も持っているんです」

 輝巳が納得してみせる。「なるほど、光条が光らない条件は鬱病にもあると?」

 武多が答える。「確定したわけではないですが、精神疾患、特に鬱病と兵役は相性が悪い。

 そのまま正規の兵力として組み込むのはむずかしいです。

 なので事例は少ないのですが、こうして二例事例があると相関関係が考察されます。

 輝巳さんのことは病状も含めてアメリカ、ドイツには情報を上げていまして、おなじ、光条砲の使い手をそだてるなら、少しでも非発光光条の使い手がよろしかろう、ということになりまして」

 信世がねぎらう。「無理することじゃないんだからね」

 遊も気を使う。「嫌なことは断るんだぞ」

 輝巳が答える。「ここではそれができてるからね、薬を飲んで普通に過ごせているよ。

 仕事でもそれができればもっと莉央さんに楽させてあげられたんだけどな」

 輝巳が一旦区切って武多に向き合う。「それにしても、黒じゃないんですね」

 武多が皮肉に笑う。「黒はね、尾形さん背負ってるものが多すぎです。

 生まれも太閤の手相だし、育ちもヤンキーというより勤労少年だし、脳腫瘍は摘出してるし、よく普通にサラリーマンとして家庭を維持しているな、というくらいですから」

 輝巳は、ああ、とだけうなずいた。


 簡単な自己紹介も終え、食事とシャワーとトイレを済ませると、矢臼別演習場に向かうべく、着甲の準備が進む。

 既に輝巳と遊の体格はのど仏からくるぶしの細かい位置までメーカーに知られていて、第六世代型装甲服の準備がされている。

 仮装備でもあるので色はオリーブドラブのまま、輝巳のフェイスマスクには角もついていない。

 武多が聞いてくる。「色はどうしますか?」

 輝巳が答える。「俺はまた、ガンメタリック一色でお願いします。

 角も、一セットで」

 「春日さんは?」

 遊はに身まとった第六世代型装甲服を眺めながら考える。「うーん、前と同じ試験機カラーがいいんですが、すじの入れ方は道照さんとも相談してから決めます」

 着甲室から出てきたリリーとキエラはASー03を着甲していても細かった。

 特にキエラは、首回りや太もも、二の腕といった元から装甲の薄い部分が細く、まるでバランスが悪そうに見えた。

 矢臼別演習場に向かうCー2の中で、二人の身の上については武多から説明があった。

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