第045話 敵性徹攻兵

 空港の北端に七生を、南端に道照を置いて警護に当たらせ、残りの面々で意識あわせをする。

 とにかく、敵の数も武装も位置もわからないのはやりづらい。

 そもそも、六メートルの砲身を持つラインメタルは山間部では邪魔で仕方がない。

 そこで小銃だけ構えて偵察に入る。

 見つけ次第ペイント弾で目印を付ける。

 その後狩りに移る。

 宇が確認してくる。「全員、ペイント弾の弾倉に切り替えてるよね?」

 全員、手元の八九式を確認する。

 さきほどの反撃で、空港から約八キロほど離れた佐須坂トンネル付近に一名潜んでいることは明らかになっている。

 それより近くから攻撃がなかったのは、敵性徹攻兵がいないからなのか、砲撃用高圧砲を持ち合わせていなかっただけなのか、決めつけてしまいたいが決めつけが一番いけない。

 空港から南に放射状に展開していくことにする。

 向かって左側、一番東側には明理を当てる。

 一番最初に対馬駐屯地に到達するはずで、本職の尉官が出向くのが何かと良いだろうとの考えだ。

 その右隣を遊が、さらにその右隣を輝巳が担当する。

 報告のあった最前線のあたりで最も会敵が想定される位置だ。

 その隣に皐月を配置して、その隣が宇、向かって右側、最西端を堅剛がになう。

 逃げの守りを固めているところには、思わぬ敵が潜んでいる、と予想して目の良い堅剛を配置する。

 信世も「それでいいわ」と了解する。

 通信が回復しない中、信世が司令に報告している空気が伝わってくる。

 遊が「いこうか」といいだす。

 信世が告げてくる。「フタフタヨンゴー、各員、索敵を開始してください」

 その一言で、全員、散開する。

 山間部を走るのは苦ではない。

 着甲していれば、斜面も平地と同じように上り下りできる。

 藪や、細かい木の枝も、薄い草原を進むような気安さで、折り進むことができる。

 ただ、小銃の扱いは気をつけないといけない。

 そして刃渡り六十四センチの刀が何かと邪魔くさい。

 明理が、ぽつりと漏らす。「この刀が、邪魔よね」

 宇がうなずく。「それなー」

 みな、高みに登っては、沢に潜む何かを感覚で探す。

 見逃すことはできないが、時間をかけることもできない。

 既に攻撃の意思は示してしまっており、敵性勢力がどんな行動に出るかもわからない。

 人質にされているという住民の安否も気がかりだ。

 決して大きくない島のはずなのに、そこにいるかもわからない敵性徹攻兵を見つけ出すとなると、広い。

 一キロ、二キロ、進むごとに、後ろが広くなっていく。

 もしかして、見逃しているんじゃないか。

 GPSで自分の居場所はわかる。

 堅剛が、島の西までたどり着いたところで、みな、間隔を整えて南に進む。

 三キロ、四キロ、見つからない。

 輝巳が口を開く。「自分を疑いたくなるな」

 遊が答える。「焦るな」

 佐須川沿いの県道四十四号線まで、あと一キロ半というところで、宇が、入り組んだ尾根を嫌って飛び上がった。


 そこを狙われた。


 三本の轟音が一点に集まる。

 一発目が左のすねの装甲を砕く。

 二発目が左脚を吹き飛ばす。

 三発目が左脚のあった虚空を突き抜ける。

 「ぁっつぅ」慌てた宇が緑色の光条を背中から、右足から吹き出すせいで、不規則に回転しながら山肌に落ちる。

 「見つけた」

 輝巳と遊が声を揃える。

 二人とも、手近な発火地点に向けて一直線に飛び込む。

 邪魔な樹を避けながらも背中と足の光条推進をフルに使い、敵を見定める。

 砲は砲身のみ、弾倉は無い。

 近接武器は持っていない。

 装甲の厚みから、第三世代型。

 やれる。

 敵が逃げる。

 追う。

 遊は紫の光条を袈裟に切り払う。

 輝巳はどす黒いもやで首を刈り取ると、右側に目を凝らし三人目の砲撃者に向かう。

 徹攻兵に随伴していた歩兵達がようやく慌てて輝巳の背中に小銃弾を撃ち込むが意味はない。

 輝巳と遊が飛び込むのと同じタイミングで皐月が飛び上がっていた。

 輝巳と遊が討ち漏らさないように三人目にペイント弾を撃ち込もうとしていたが、堅剛に制される。「皐月、降りろ」

 一発、二発、打ち込んだ弾は正確に三人目をマークする。「ですが」

 堅剛の声に怒気が孕む。「的になるな。

 こっちにも何人か潜んでる。

 降りろ」

 皐月は口を結んでから「わかりました」と答え、次ぎにできることとして宇の救護に向かう。

 明理は進路を右寄りに変えて、対馬駐屯地と佐須坂トンネルの東側出入り口の間を狙って移動する。

 伏兵が潜んでいたら私が。

 そんな明理に遊が声をかける。「明理ちゃん、一度止まって」

 「どうしてです」

 「落ち着こう、明理ちゃんにはこれができる?」

 そういうと遊は自分が切り裂いた敵性徹攻兵の生々しい切り口の視界を全員に送る。

 肋骨を切り開いた断面に、白い骨の切り口がぽつぽつと見える。

 皐月は「うっ」と声を漏らし、明理はこみ上げてくるものをこらえるために腹に力を込めた。

 輝巳は深追いの危険性も感じていたが、皐月の撃ったペイント弾のマーカーは既に視界の中だった。

 堅剛が止める。「輝巳」

 輝巳は止まらない。「一八式なら耐える」

 輝巳の右前方、小茂田港北部の大隈山山頂から火砲の炎が上がる。

 輝巳はタイミングをとらえて右腕を振り上げ、秒速一・六キロのAPFSDS弾をはじくと、三人目の狙撃者に飛びかかり、同じように首をはねた。

 輝巳が三人目を追い詰めている間に、堅剛は大隈山の四人目を追う。

 輝巳も四人目を襲い挟撃を狙おうとしたが、背後に気配を感じて振り向いた。

 小茂田港が見える。

 向かって左の山に、なにか、いる。「堅剛、任せるよ」

 「むー」

 輝巳は小茂田港南部の黒岳を駆け上る。

 いる。

 輝巳が五人目の敵性徹攻兵を見つけたのと同じタイミングで遊は、六人目の敵性徹攻兵と対峙していた。

 輝巳達の背後を襲われても、孤立する明理が襲われてもいけないと、当たりを警戒する中で気配を感じて柳ノ壇山に分け入る中で見つけたその徹攻兵は、先ほど切り払った徹攻兵とは装甲の質が違っていた。

 おそらく、第四世代型。

 そして何よりやっかいなのは、その手に青白く光る柳葉刀型の光条武器を手にしていたことだ。

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