第044話 空挺

 三トン半ごと徹攻兵達が厚木で待機しているCー2に乗り込むと、徹攻兵達を下ろして三トン半はCー2を出て行く。

 代わりに乗り込んできたのが習志野の第一空挺団の面々だった。

 軍隊とは、ライフラインの整っていないところで自活して活動することが求められる。

 通信小隊と施設小隊というと花がないようにも聞こえるかも知れないが、電源を喪失しライフラインを失っている状況下の対馬では、実に重要な役割を担う。

 今回は両隊を統括する中隊長として、施設中隊の一尉も参加していた。

 対馬空港にさしかかった地点で輝巳と遊が飛び出すこと、続けて皐月が降下することを告げると、快く了解してくれる。

 堅剛が説明する。「ご存じかも知れませんが、私達は座間駐屯地にいる都築小隊長と任意に会話できます。

 それに強行偵察が初期任務ですので、皆さんからすると勝手な動きに見えるかも知れません。

 皆さんが通信を回復して下さる事で、統合的な行動がとれるようになりますので、よろしくお願いします」

 中隊長の一尉が胸を張って答える。「お任せください」

 輝巳はそれを見て、本職は格好いいなあ、と思い、ついで、いや、ちゃんと役職をつとめられている人は格好いいんだなあ、と我が身を嘆いた。


 十月二十一日木曜日の午後十時過ぎ。 

 Cー2の格納庫のスピーカーから、合図の声が響く。「高度を下げます、まもなく対馬空港です」

 六メートルある、長大な砲身をひょいと担いで輝巳と遊が解放された後部ハッチに歩み寄ると、風の音にかき消された、おお、という驚嘆する声が聞こえてくる気がする。

 輝巳にはそれが痛い。

 Cー2が速度を落とす。

 高度三百メートル余り。

 敵性徹攻兵の出方次第では危険な一瞬。

 輝巳、次いで遊が飛び出すと、そのまま滞空してみせる。

 急いで皐月が飛び降りると、黄色い光条を輝かせ滑走路に降り立つ。

 灯りの全く無い暗闇の中、次々と降下していく落下傘を感じながら、輝巳と遊は感覚を稜線の向こうの谷間に研ぎ澄ます。

 輝巳は一瞬、気の焦りかも知れない、と思うより早く引き金を引く。

 轟音と砲火が天空を彩る。

 ほとんど同時にやや角度を変えて遊も撃ち込む。

 三瞬後、谷間に砲弾の着弾する連続音がこだますると同じくして、山間部から閃光が走り、Cー2のコクピットのわずか上を敵の砲弾がかすめ飛ぶ。

 敵の焦りを引き出すことができた。

 輝巳も遊も、自分が目を着けた地点に向けて第二弾を撃ち込む。

 しかし、反応が無い。

 輝巳が、徹攻兵全員に聞こえるように遊に話しかける。「なあ遊君、単発式なのかな」

 遊も、答える。「わからん。かもしれんが、待機だ」

 りょーかい、と輝巳が返事する。

 空挺団の面々が降下すると最後に七生、道照、明理、堅剛、宇が降下して、輝巳と遊とは違う角度から山間に潜む敵性徹攻兵に意識を馳せる。

 Cー2が速度を上げながら北に大きく進路を切るのを何とか見とどけて、輝巳と遊の滞空時間も限界を迎え空港に降り立つ。

 限界近くまで光条推進を使うと息が切れる。

 皐月が「お二人とも、大丈夫ですか?」と声をかけてくる。

 輝巳は「おじさんだからじゃないんだよ」と笑う。

 遊は「ああ、大丈夫」と答える。

 輝巳は明理に声をかける。「明理ちゃん、そっちの近くに副官はいる?」

 明理がたずねてくる。「すぐ、さがします。

 どうしました?」

 「ラインメタルを置いて邪魔にならないところを確認したい」

 「わかりました」

 ふーっ、と一つ大きく息を吐くと、輝巳は「一旦、集結しようか」と遊と皐月に声をかけた。

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